EP 9
魔王国の株価大暴落と、飲んだくれの業火(物理大炎上)
「……予の、個人口座の残高が、猛スピードでマイナス(借金)に切り替わっていくのだァァァッ!!?」
暗闇とロウソクの火に包まれた魔王城、玉座の間。
ラスボスである魔王(NPC)の絶叫が、悲しく響き渡った。
最強のチートスキル【完全模倣】で、目の前の「最強の戦士」の能力をコピーしたはずが、コピーしてしまったのは、システムエラーによって付与された最悪の裏ジョブ【貧乏神】のスキルだったのだ。
カッ!! カカカカカッ!!!
魔王の全身から、リーザと全く同じ、禍々しくも凄まじい『ド黒いオーラ(不運)』が、滝のように噴出し始めた。
それは、魔王のステータス(所持金0)を確定させ、周囲の『富』や『幸運』を限界まで吸い尽くす、概念レベルの呪いであった。
その瞬間。
玉座の間の天井に浮かんでいた、魔王国の経済指標(株価ホログラム)が、血のような真紅(下落)から、漆黒(消滅)へと切り替わった。
『――【緊急クラッシュ】魔王国通貨MG、価値がおよそ1億分の1に!! 異次元のハイパーインフレが発生中!! 株価指数、ホログラムから消滅(0以下)!!』
「魔王様ァァァァァッ!! 我が国の経済が、完全に終わりましたァァァッ!!」
そこへ、財務担当幹部が、血相を変えて玉座の間に飛び込んできた。
さっきまで紙屑同然だったMG(通貨)が、魔王自身が『貧乏神』になったことで、国家の信用(残りカス)が完全に消滅し、システムすら計測不能な『異次元の暴落』を引き起こしたのだ。
「馬鹿な……予の資産が、予の国が、一瞬にして負債(借金)の塊に……ッ!?」
魔王がゲッソリした顔をさらに引きつらせ、絶望のあまり玉座から崩れ落ちた。
物理的な戦闘距離は、まだゼロ。だが、魔王は自ら『貧乏神』をコピーすることで、国家を経済的・物理的に完全崩壊させるという、究極の自爆を成し遂げたのである。
「ふん、当然ね。アタシの『貧乏神』スキルをナメちゃダメよ。アンタの残り少ない不運(財産)を全部吸い尽くしてやったわァ!」
ド黒いオーラを放ちながら、覚醒中のリーザが冷酷に言い放った。
彼女の目は、血走ったまま、魔王の命ではなく、現実世界の『もやし炒め定食』という超庶民的な報酬だけを見つめていた。
「さあ、優太の手料理のために、アンタを物理的に粉砕して帰るわよォッ!!」
リーザがメス一本の医学生(優太)を置き去りにして、絶望する魔王に向かって突進しようとした、まさにその時だった。
「あーめんどくさいわぁ」
後ろで見ていた飲んだくれ勇者が、酒瓶を片手に、面倒くさそうに歩み出た。
「何、この泥仕合(マウント合戦)。魔王が貧乏神になって、アイドルがもやしに固執して……女神の私が一番退屈してるじゃない」
「お、おいルチアナ! 何をやってんだ!」
優太が荷物の隙間から(※村で略奪したアイテムがパンパンに詰まったバックパック)顔を出し、サングラスの奥で目を血走らせて叫ぶ。
「だって、こんな暗くて貧乏くさいお城、見てるだけでテンション下がるもの。――パッと景気良く、燃やしちゃいましょう♡」
ルチアナは悪魔のような駄女神の笑みを浮かべると、持っていた最高級ワイン(一升瓶入り)を、玉座の間の豪華絢爛な絨毯や壁、そして絶望する魔王に向かって、豪快にぶちまけた。
「ひ、ひぃぃぃっ……! 予の国が……王位が……酒臭ァァァ……ッ!!」
魔王が白目を剥いて泡を吹き、その場に崩れ落ちる。
「じゃあ、みんなー! 景気良く燃やしちゃうよぉッ!!★」
お城の玉座の間で、天使にして実況ゲーム配信者のキュララが、魔法のドローンを飛ばしながら、恐ろしい実況を上げた。
「リスナーのみんな〜! 大ニュースだよぉ★ 勇者パーティーのルチアナちゃんが、魔王城に酒をぶっかけて、城ごと燃やしちゃったよぉッ!!ww これぞ、現代の『大炎上(物理)』だねッ☆」
『――【緊急拡散】勇者一行、魔王城を酒で燃やすwww 大炎上(物理)www』
キュララの配信画面には、剣も魔法も使わない最凶の攻略法(物理炎上)を見た狂信的なリスナーからの赤スパチャ(投げ銭)が飛び交っていた。
「おい、ルチアナ! やめろ! 世界観が崩壊するだろ!!」
優太がメスを構えて止めに入ろうとした、その時。
カッ!! ジュワァァァァッ……!!
ルチアナが駄女神の指パッチンを鳴らした瞬間、酒を被った魔王城が一瞬にして業火に包まれた。
「うおおおおおぉぉぉッッ!! 予の、予の資産が……城が……物理的に大炎上しているぅぅぅッ!!?」
魔王の悲鳴が、真っ暗な玉座の間に響き渡る。
最悪の能力(貧乏神)を自らコピーし、すでに経済破綻して底を抜けていた株価がさらに異次元の暴落を引き起こした魔王の身に、ゲームシステムすら予測不能な『究極の物理的不運』が降りかかろうとしていた。
「あーあ。やっちゃったわね、駄女神ちゃん」
「ふふっ、これで魔王国の資産価値(不動産価格)は、マイナス(更地)ね」
ヒロインたちがゲスい会話を交わす中、優太はサングラスの奥で目を血走らせ、これまで経験したどんな戦場よりも激しい胃痛と、背筋が凍るような恐怖を感じていた。
(……終わった。世界観も、魔王の尊厳も、俺の精神(HP)も、全部燃え尽きた……)
元特殊部隊(SEALs)教官の誇りが、羞恥心と恐怖によって、音を立てて崩れ去っていく。
わずか数分の間に、レベル1の初期村を出たばかりの勇者一行が、一国のネット口座をハッキングし、敵国(魔王国)に対してハイレバレッジの金融攻撃を仕掛け、自国の国債を刷りまくって無限の軍資金を手に入れ、さらに魔王に貧乏神スキルを感染させ、酒をぶっかけて城ごと燃やし尽くす様子を描写。
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「……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!! 自首だ! 自首させてくれェェェェェッ!!」
燃え盛る魔王城の大通り。
人混みをかき分け、ローブ姿のボブ・スミスが、涙と鼻水を流しながら全力疾走で交番へと突っ込んでいく。
「警察官さんッ! 俺を、俺を今すぐ逮捕してくれェェッ!! 特定班が来る! カーチャンが泣いてるんだァァァッ!!」
ボブは交番に飛び込むと、机の上にルナキンの財布を叩きつけ、そのまま警察官にしがみついて号泣した。
プロのスリ師が、特定班による『情報の暴力』と、母親からの『直電』によって、完全に精神を破壊された瞬間であった。
交番の外で、戻ってきた分厚い革の財布を受け取った優太が、引きつった顔でルナに尋ねた。
「……たく。どいつもこいつら、現金な奴らだ」
優太は呆れたように悪態をつきながらも、サングラスの奥の目を少しだけ細め、夕日に照らされる彼女たちの笑顔を見つめていた。
胃痛と羞恥心に塗れた一日だったが、この騒がしくも温かい日常を守るためなら、荷物持ちくらいなら何度でもやってやろう。
不器用な医学生は、残りのコーラを一気に飲み干すと、再び巨大な荷物の塊を背負い上げ、仲間たちと共にポポロ村への帰路につくのであった。
「も・や・し炒め定食(物理ダメージ)のために、アタシが今すぐ、5分で魔王を粉砕してやるわァァァァァッ!!」
ズドォォォォォンッ!!
リーザは足元のレアメタルの山を蹴り飛ばし、目にも留まらぬ猛スピードで、西の魔王城へ向かって爆走を始めた。
「お、おい! 待てリーザ! 一人で行く気か!?」
優太が慌てて後を追う。
「あーあ、リーザちゃん、完全に『ご飯(現実)』に釣られちゃった。仕方ない、私達もついて行くわよ!」
ルチアナたちも、渋々ながらその後を追いかけ始めた。
「も・や・しォォォォォォォォッッ!!!」
炎の中を突進するリーザ、酒を被った魔王城が一瞬にして業火に包まれた。
「うおおおおおぉぉぉッッ!! 予の、予の資産が……城が……物理的に大炎上しているぅぅぅッ!!?」
絶望する魔王(貧乏神)、炎の中を突進するリーザ、酒を被った魔王城が一瞬にして業火に包まれた。
「うおおおおおぉぉぉッッ!! 予の、予の資産が……城が……物理的に大炎上しているぅぅぅッ!!?」
最凶の勇者一行が、ついに物理的にも魔王城へと牙を剥いた瞬間であった。




