EP 6
エルフの略奪! 地下鉱脈の枯渇
「……胃薬。誰か、現実世界から胃薬のポーションを持ってきてくれ……」
はじまりの村を出てすぐの、平和なスライムが跳ね回る草原。
レジャーシートの上で、白衣姿の優太は完全に生気を失い、両手で胃を押さえてうずくまっていた。
わずか数分の間に、天使キュララが魔王国の通貨を空売りし、ルナミス王国の国債を無限発行するという『超ド級の金融テロ』を引き起こしたのだ。
魔王を倒すための旅は、剣を振るう前に「資本主義の暴力」という取り返しのつかない方向へとシフトしていた。
「あーあ、キュララばっかりズルいわ。いくら無限のゴールド(デジタル上の数字)を手に入れても、使い道がなきゃつまらないじゃない」
優雅にティーカップを傾けていたハイエルフのルナが、不満げにふぅっと息を吐いた。
「あら? だったら、その無限の資金で魔王軍の装備でも買い占めるか? いや待てよ……」
ルナは極悪な微笑みを浮かべ、スッと立ち上がった。
「そもそも、お金で買う必要なんてないわよね。エルフの私にとっては、世界中の植物はみ〜んな『お友達』なんだから♡」
「……ルナ? お前、今度は何を企んでる」
優太の危険探知センサーが、けたたましく警報を鳴らす。
「ふふっ。キュララが魔王国の『経済』を止めたなら、私は魔王軍の『物理的な生産ライン』を止めてあげるわ。――さあ、目覚めなさい。大地の底に眠る、私の可愛いお友達(植物魔獣)たち」
ルナが世界樹の杖を大地に突き立て、莫大な魔力(MP無限チート)を流し込んだ。
ズズズズズズッ……!!
草原の地面が微かに震え、ルナの足元から無数の巨大な『魔法の根』が、地中深くへと潜っていくのが見えた。
「お、おい! 何の魔法を使った!?」
「簡単な『根絶やし(ルート・ジャック)』の魔法よ。私の可愛い植物の根っこたちにね、はるか西にある魔王城の地下――『レアメタル鉱脈』まで地中を掘り進んでもらって、そこにあるオリハルコン、ミスリル、アダマンタイトの鉱石を、残らず吸い上げてこいって命令したの♡」
「――――ッ!?」
優太が白目を剥いた。
「い、違法採掘!! それは他国の領土の地下資源を、国境を越えて無断で強奪する完全な国際法違反(資源テロ)だ!!」
「あら、大地からの恵みを少し分けてもらうだけよ。……ほら、さっそくお友達が『お土産』を持って帰ってきたわ」
ボコッ、ボコボコォッ!!
ルナの足元の地面が弾け、巨大な植物の根が、ソフトボールほどの大きさがある純度100%の『オリハルコンの塊』や『ミスリル鉱石』を、次々と吐き出し始めた。
「きゃあああああっ!! ゴールド! 違う、超高価なレアメタルよォォッ!!」
商人(裏ジョブ:貧乏神)のリーザが、血走った目で飛びつき、吐き出される希少鉱石を凄まじい速度で自分のアイテムボックス(四次元収納)へと放り込んでいく。
「これなら、武具の素材には困らないわね。リーザ、適当な町でこれを換金して、キャルルの強いグローブでも買ってあげなさい」
「任せなさい! 市場を独占して、価格を吊り上げてから売り捌いてやるわァ!」
「やめろお前ら! 世界の資源バランスが崩壊する! 環境破壊だ!!」
優太の叫びは、とめどなく溢れ出るレアメタルの排出音にかき消されていった。
***
その頃、はるか西の『魔王城』。
玉座の間では、株価暴落のホログラムを見上げて白く燃え尽きていた魔王(NPC)の元に、さらなる絶望の報告がもたらされていた。
「ま、魔王様ァァァァッ!! 今度は防衛・生産部門から緊急事態ですッ!!」
鎧を着たオークの将軍が、涙目で玉座に転がり込んできた。
「……何だ。もう我が国には、スライムのゼリーを買う金すら残っておらんのだぞ……これ以上、何を奪われるというのだ……」
魔王が虚ろな声で呟く。
「そ、それが……! 我が軍の武具を生産している地下の『第1〜第8鉱脈』が、全滅しましたッ!!」
「……は?」
「突如として地中から現れた『謎の巨大な植物の根』が、ミスリルもオリハルコンも、鉄鉱石すらも、文字通り『根こそぎ』吸い上げて、東の方向(はじまりの村)へ持ち去ってしまったのですッ!!」
「――――なっ!?」
魔王が玉座から跳ね起きた。
「鉱石が一切採れない!? それでは、勇者を迎え撃つための新しい剣も、鎧も、ゴーレムの動力源すら作れぬではないか!!」
「は、はい! 現在、我が軍の武具生産ラインは完全にストップ! 修理用のボルト一本すら作れません! しかも通貨が紙屑なので、他国から輸入することも不可能ですッ!!」
「ば、馬鹿なああああぁぁぁぁっ!!!」
魔王は頭を抱え、絶叫した。
ポポロ村の勇者たちは、まだ『はじまりの村』の草原から一歩も動いていない。レベル上げ(スライム討伐)すらしていない。
それなのに、魔王国は「通貨価値の暴落」により経済が死に、「地下資源の強奪」によって軍事生産力が完全に沈黙したのである。
兵站と経済基盤を同時に破壊するという、現代戦の極悪すぎる基本戦術。
「なぜだ……! 勇者とは、剣を鍛え、魔法を覚え、正々堂々と城に乗り込んでくるものではないのか!? なぜ、顔も見せずに予の国を『兵糧攻め(国家崩壊)』にするのだァァァッ!!」
魔王の悲痛な叫びが、ボロボロになった城内に虚しく響き渡る。
「……たく。もう魔王が可哀想になってきた。俺、ちょっと回復ポーション持って魔王城にボランティア(医療支援)に行ってきていいか?」
「ダメよ優太! 次は魔王城の土地を差し押さえるんだから!」
はじまりの村の草原で、一人だけ常識人(医学生)の優太が涙を流す中、外道勇者たちの宴はまだまだ続くのであった。




