EP 5
経済戦争勃発! 天使の国債カラ売り
お城の宝物庫を根こそぎ略奪(探索)し、王様(NPC)を精神的にも財政的にも完全崩壊させた最凶の勇者一行。
彼らは、王位継承の書状をちゃっかりリーザのアイテムボックスにしまい込み、意気揚々と魔王城のある西の地方へと向かって歩き出した。
王都を出てすぐの草原。RPGなら最初のモンスターである「スライム」が現れ、チュートリアル戦闘が始まる場所である。
ピロリン。
『――野生のスライムが現れた!』
予想通り、優太の目の前にプルプルした青いスライムが現れた。
「よし、お前ら! 初戦闘だ。ルチアナは剣を、キャルルは拳を、ルナは魔法を構えろ! 俺は後ろからメスで……じゃなくて、薬草で回復の待機をする!」
【ジョブ:医者】の初期装備である白衣を羽織り、真面目にレベル上げをして強くなろうとする優太。
だが、彼が薬草を構えたその時だった。
「あー、めんどくさいわぁ。何で私が神様(女神)なのに、こんなブヨブヨした粘液を相手にしなきゃいけないのよ。酒持ってきなさい、酒。それと自動戦闘のスイッチ」
飲んだくれ勇者のルチアナが、一升瓶を片手に草原に寝転がり、躊躇なく一升瓶をラッパ飲みしていた。
「RPGでレベル上げをめんどくさがるな!! それと、このゲームに自動戦闘なんて親切な機能は実装されてねぇよ!!」
「アー、腰が。腰が痛くてスライムをアータタできないわ……」
武道家のキャルルが、モヒカン革鎧のまま腰を押さえてその場にうずくまる。
「スライム? 倒してもゴールド落とさないじゃない。姫の身代金スパチャした方が早くね?」
「あら。植物は皆お友達だけど、スライムは植物じゃないから、私の魔力の無駄使いねぇ♡」
リーザとルナも、全く戦闘に参加する気がなかった。
優太はメスを構えて止めに入ろうとした、その時。
「は〜い、みんなー! キュララだよぉ♡」
草原のど真ん中で、天使にして実況ゲーム配信者のキュララが、魔法のドローンを飛ばしながら、恐るべき実況を上げた。
「リスナーのみんな〜、レベル上げがめんどくすぎで『あざとい天使のハッキング配信』キタコレ!!www って弾幕が流れてるよぉ★ キュララ的には、スライムを殴るより、この世界の金融システム(ネット口座)をハッキングして、魔王城を経済的に完全破壊する方が、撮れ高ありそうなんだけど、みんなはどう思うーっ?」
『――【緊急拡散】勇者一行、レベル上げ拒否で経済戦争勃発www』
キュララの配信画面には、魔導端末をハイスピードで操作する様子と、そのエグい発想を見た狂信的なリスナーからの赤スパチャ(投げ銭)が飛び交っていた。
「――――ッ!!?」
優太の時間が、同時に止まった。
「お、お前……! 真面目にスライムを倒すだけならまだしも(いやダメだが)、ゲームシステムそのものをハッキングして、魔王相手に『金融戦争』を仕掛けようってのか!?」
「えへへっ、だって魔王を倒すには、莫大な資金(軍事費)が必要でしょ? リスナーのみんなも、『あざとい天使の経済制裁(金融破滅)』ってコメントで盛り上がってるよぉ!」
キュララは魔導端末のキーボードを猛烈な勢いで連打しながら、あざとくウインクを飛ばした。
「まずは、魔王国の通貨『デビルゴールド』を、全財産(略奪した王国の資金)を使って思いっきりカラ売り(ショート)しまぁす★ 価値が暴落したところで買い戻せば、大儲けだねっ!」
「お前……! 信用取引(カラ売り)なんて高度な金融手法を、ファンタジーのVRゲームに持ち込むな!! スライムを殴れよ!!」
「さらに、さっき簒奪した王位の権限を使って、ルナミス王国の『国債』を無限に発行(刷りまくる)しまぁす★ 刷りまくった国債で魔王国の資産を買い漁って、こっちの通貨価値もインフレでハイパー崩壊させるよぉ♡(あざとく)」
「ひぃぃぃっ……! 国が……経済が……プリプリがァァァ……っ!!」
優太の精神(胃)が完全崩壊し、草原に崩れ落ちた。
魔導端末の画面には、魔王国の通貨価値が真っ逆さまに暴落していくグラフと、ルナミス王国のインフレ率が限界突破していくグラフが、滝のように流れ落ちていた。
『――【特定班金融部門】魔王国のネット口座特定完了! 空売り資金の送金開始★』
『――【農家の三男坊】国債刷りまくりワロタwww ハイパーインフレキタコレwww』
『――【帝都の貴族】100,000ゴールドの投げ銭(赤スパ)! これで国債もっと刷ってww』
チャリンチャリンチャリンチャリンッ!!!
キュララの配信画面には、NPCの経済が破滅していく様を見た狂信的なリスナーからの赤スパチャ(投げ銭)が飛び交っていた。
「……あー、もうだめだ。魔王よりこいつらの方が絶対に世界を滅ぼす」
優太は医学生として、魔王国の国民のメンタルケア(精神安定剤のポーション)が必要だと判断し、胃を抱えながらその場にしゃがみ込んだ。
草原のど真ん中。
本来なら、勇者一行がスライムと戦い、レベルを上げて成長していくはずのチュートリアル。
しかし、ポポロ村の極悪非道な勇者一行は、わずか数分の間に、魔王相手に剣や魔法ではなく、国債の大量発行(経済戦争)と通貨の空売り(金融制裁)を仕掛け、世界経済を完全崩壊させるという、魔王軍もドン引きする凶行を成し遂げたのでであった。
「……たく。もうお前らがこの世界の魔王だ」
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくわ! さあ、次は隣の家の壺よ!!」
優太の胃痛(HP)がゴリゴリと削られていく中、世界経済をクラッシュさせた勇者たちは、そのまま魔王城へ向かって歩き出すのであった。




