EP 4
王様からの依頼と、勇者一行の拒否権
『はじまりの村』の一軒の民家を、物理的・経済的・精神的に完全崩壊させた、最凶の勇者一行。
彼らは、灰のようになった村人(NPC)を置き去りにし、意気揚々と王都の中心にそびえ立つお城へと向かった。
「……たく。お前ら、お城では絶対に壺を割るなよ。タンスも漁るな。王様に話しかけられたら、真面目に返事をするんだ。分かったか?」
白衣姿の医者(優太)が、荷物の隙間から(※村で略奪したアイテムがパンパンに詰まったバックパック)顔を出し、サングラスの奥で目を血走らせて釘を刺す。
「ふふっ。優太、心配性ねぇ。エルフの礼儀作法(殺気)を見せてあげるわ♡」
「ゴールド! ゴールドよォ! 王様の宝物庫には、どれだけの金貨が……フフフ……!」
「アータタ、アータタタ……アー、やっぱりまだ腰が……」
ルナは腹黒い笑みを浮かべ、リーザは金貨の幻影を見てヨダレを垂らし、キャルルは世紀末パロディの名残で腰を押さえて歩いていた。
***
お城の玉座の間。
豪華絢爛な絨毯が敷かれ、両脇には威厳のある騎士(NPC)が並ぶ中、一行はついに王様(老齢のNPC)の前へと進み出た。
「おお、勇者よ! よくぞ参った! 待っておったぞ!」
王様が、RPG特有の棒読み(ボイス)で歓迎の言葉を述べる。
「予の国、ルナミス王国(※ルナが創ったゲーム内の国名)は今、西の魔王城に住まう凶悪な魔王によって、存亡の危機に瀕しておる……ッ!」
王様は、玉座から身を乗り出し、悲痛な表情(NPC)で訴えた。
「そして、何より悲しいことに、予の愛娘、プリセンス・プリプリが、その魔王にさらわれてしまったのじゃ……ッ! 勇者ルチアナよ! 仲間と共に魔王を倒し、どうかプリプリを助け出してくれェッ!!」
『――ピロリン。クエスト【魔王討伐と、姫の救出】が発生しました。』
優太の目の前に、ゲームシステムのアナウンスが浮かぶ。
これぞRPGの王道。世界を救う壮大な冒険の始まりである。
「よし、お前ら! これで正式に依頼が受注できた。魔王城の場所を……」
優太が、医者としてパーティーをまとめ、真面目にシナリオを進めようとした、その時だった。
「――却下」
飲んだくれ勇者のルチアナが、一升瓶をラッパ飲みしながら、王様の目の前で冷たく言い放った。
「「「…………え?」」」
王様、両脇の騎士、そして優太の時間が、同時に止まった。
「却下って……お前、ルチアナ、何を……!」
優太が驚愕して駄女神を振り返る。
「だって、めんどくさいわぁ。姫? プリプリ? 知らないわよ、そんな女。何で私が神様(女神)なのに、他人のガキの尻拭いをしなきゃいけないのよ。酒持ってきなさい、酒。それと報酬」
「…………ッ!!?」
王様がショックのあまり、玉座から転げ落ちそうになった。
RPGの勇者が、王様からの「魔王討伐」と「姫救出」の依頼を、正面から「めんどくさい」という理由で拒否したのである。
「報酬なら、城にある『宝箱(中身は初期装備)』と、隣国のカジノの『無料券』を……っ!」
「カジノ!? なんでファンタジーの王様が隣国のギャンブルの無料券なんて持ってんだよ!!」
優太のツッコミが、ルナの適当な世界観設定(欲望の塊)によって限界まで試される。
しかし、リーザが「カジノ無料券? 換金できるの? 姫よりゴールドよォ!」と食いつきかけ、ルナが「あら、姫? 私の方が美しいのに、助ける必要あるかしら?」と腹黒い微笑みを浮かべた。
「……アー、腰が。腰が痛くて姫をお姫様抱っこできないわ……」
武道家のキャルルが、腰を押さえてその場にうずくまる。
ヒロイン全員による、前代未聞の『勇者の拒否権』。
「お前ら、いい加減にしろ!! これは『ゲーム』だろ! シナリオを進めなきゃクリアできないんだよ! この世界の王様に、そんな暴言を吐くな!!」
優太がメスを構えて止めに入ろうとした、その時。
「は〜い、みんなー! キュララだよぉ♡」
お城の玉座の間で、天使にして実況ゲーム配信者のキュララが、魔法のドローンを飛ばしながら、恐ろしい実況を上げた。
「リスナーのみんな〜、王様がケチすぎて『ケチ王』『姫の身代金スパチャした方が早くね?』って弾幕が流れてるよぉ★ キュララ的には、姫の救出より王様の宝物庫の略奪(探索)の方が、撮れ高ありそうなんだけど、みんなはどう思うーっ?」
『――【緊急拡散】勇者一行、王様の依頼を報酬安すぎで拒否www 王様号泣ww』
キュララの配信画面には、王様のケチさとヒロインたちの暴言を見た狂信的なリスナーからの赤スパチャ(投げ銭)が飛び交っていた。
「ひぃぃぃっ……! わたしの、わたしのプリプリが……ケチ王って何!? 宝物庫の略奪なんて……っ!!(号泣)」
王様が、玉座から崩れ落ち、老体に鞭打って号泣し始めた。
「……あー、もうだめだ。魔王よりこいつらの方が絶対に世界を滅ぼす」
優太は医学生として、王様のメンタルケア(精神安定剤のポーション)が必要だと判断し、胃を抱えながらその場にしゃがみ込んだ。
「じゃあ、こういうのはどうかしら?」
ルナが扇子を広げ、泣き崩れる王様に、悪魔のような提案を囁いた。
「魔王を倒す代わりに、このルナミス王国の『全財産』と『王位』を、今ここで私達に譲渡しなさい。そうすれば、気が向いたら姫を助けてあげてもいいわよ♡」
「――――ッ!!?」
優太と王様が、同時に絶叫した。
「お前……! 王様の依頼を拒否するだけならまだしも(いやダメだが)、王位そのものを簒奪しようってのか!? それはクーデターだろ!!」
「ふふっ、だって魔王を倒すには、莫大な資金(軍事費)が必要でしょ? 国債の発行権も、私達が握った方が、経済戦争を仕掛けるのには都合が良いもの★」
「ひぃぃぃっ……! 国が……王位が……プリプリがァァァ……っ!!」
王様が白目を剥いて泡を吹き、その場に崩れ落ちる。
ルナミス王国。
本来なら、王様から希望を託され、国民から温かく見送られるはずの旅立ち。
しかし、ポポロ村の極悪非道な勇者一行は、わずか数分の間に、一国の王を精神的に完全崩壊させ、王位簒奪の脅迫を行うという、魔王軍もドン引きする凶行を成し遂げたのであった。
「……たく。もうお前らがこの世界の魔王だ」
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくわ! さあ、次は隣の家の壺よ!!」
優太の胃痛(HP)がゴリゴリと削られていく中、王様のメンタルを破壊した勇者たちは、そのまま宝物庫へとなだれ込み、お城の略奪(探索)を始めるのであった。




