EP 3
勇者の特権! 民家のタンスと壺荒らし
世紀末パロディのOPを乗り越え、ようやく王道ファンタジーの世界観へと降り立った優太たち一行。
彼らが最初に足を踏み入れたのは、お城のふもとにある長閑な『はじまりの村』であった。
「よし。まずはRPGの基本通り、村人に話しかけて情報収集だな。魔王の城の場所や、近くのモンスターの強さを……」
【ジョブ:医者】の初期装備である白衣を羽織り、メスを片手に真面目にゲームを進めようとする優太。
だが、彼が村の広場で「こんにちは」と第一村人に声をかけようとした、まさにその時だった。
ガシャンッ!! パリーンッ!!
背後にある民家の中から、凄まじい破壊音が響き渡った。
「ん!? な、なんだ!?」
優太が慌てて振り返り、音のした民家に飛び込むと。
そこには、完全に『強盗団』と化した異世界のヒロインたちの姿があった。
「えーと、こっちのタンスには『布の服』と『薬草』ね。あ、こっちのツボには50ゴールド入ってたわ! どんどん割るわよー!」
飲んだくれ勇者のルチアナが、一升瓶を片手に、村人の家のタンスを躊躇なく引っこ抜き、部屋の隅にあった大事そうな壺を次々と蹴り割っていた。
「な、何をやってるんだ! 貴様ら!!」
優太が血相を変えて叫ぶ。
「え? 探索(アイテム回収)はRPGの基本のキでしょ? 優太も説明してたじゃない、『町で情報を集めたり、アイテムを見つけたりする』って」
ルチアナが悪びれもせず、割れた壺の中から金貨を拾い上げる。
「他人の家にズカズカ上がり込んで壺を割るのが基本なわけあるか!! それはただの器物損壊と住居侵入だ!!」
そこへ、この家の家主である村人(NPC)が、涙目で駆け寄ってきた。
「あぁぁっ……! そ、それは私共が、長年爪に火をともすようにして貯めた『熱海温泉旅行』の資金でして……っ!」
「熱海!? なんで王道ファンタジーの初期村のNPCが、地球の静岡県の温泉を目指してんだよ!!」
優太のツッコミの精度が、ルナの創り出した適当な世界観設定によって限界まで試される。
しかし、ルチアナは全く意に介さず、芋ジャージの胸を張って堂々と言い放った。
「うるさいわね。私達、『勇者』だから♡」
「勇者なら他人の財産を強奪していいって法律はねぇよ!!」
「大丈夫よ優太! ゴールドは私が『商人』のスキルでしっかり管理してあげるから! ……フフフ、これで初期装備から最強の武器が買えるわァ!」
リーザが、村人のへそくり(熱海資金)をちゃっかり自分のアイテム袋に回収していく。
「お前ら、いい加減にしろ! これ以上やったら、俺がこのメスで強制的にログアウト(物理)させるぞ!」
優太がメスを構えて止めに入ろうとした、その時。
「は〜い、お待たせぇ♡」
部屋の隅で、天使にして実況ゲーム配信者のキュララが、魔導端末をハイスピードで操作しながら、恐ろしい報告を上げた。
「この一家の『生命保険』と『学資保険』、それから『王国の株券』……全部解約して、私達の勇者口座に資金を移したわっ★ ついでに、この家の土地の権利書も担保に入れて、キャッシングで300万ゴールド借り入れといたよぉ♡」
「――――ッ!!?」
優太と村人のNPCが、同時に言葉を失った。
「お、お前……! 壺を割って小銭を盗むだけならまだしも(いやダメだが)、電子決済でNPCの人生そのものを破滅させる『金融強盗』まで働きやがったのか!?」
「えへへっ、だって魔王を倒すには、莫大な資金(軍事費)が必要でしょ? リスナーのみんなも、『勇者の資金調達』ってコメントで盛り上がってるよぉ!」
チャリンチャリンチャリンッ!
キュララの配信画面には、NPCの人生が破滅していく様を見た狂信的なリスナーからの赤スパチャが飛び交っていた。
「ひぃぃぃっ……! わたしの家が……老後の資金が……熱海がァァァ……っ!!」
村人が白目を剥いて泡を吹き、その場に崩れ落ちる。
「……あー、もうだめだ。魔王よりこいつらの方が絶対に世界を滅ぼす」
優太は胃を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
「アータタ、アータタタタタタ、アタッ!!」
そこへさらに、世紀末パロディを引きずったままの武道家・キャルルが、残った一番巨大な壺に向かって『北○百裂拳』を放った。
「ひでぶっ!! ……アー、腰が、腰が痛い……っ! 慣れない連打したから、筋ぃ違えたぁぁ……っ」
「……」
壺は割れず、キャルルが腰を押さえてうずくまっている。
エルフのルナは「あらあら、野蛮ねぇ」と笑いながら、魔法で村の畑の作物を根こそぎ収穫(強奪)してアイテムボックスに詰め込んでいた。
はじまりの村。
本来なら、王様から希望を託され、村人から温かく見送られるはずのチュートリアル。
しかし、ポポロ村の極悪非道な勇者一行は、わずか数分の間に、一軒の民家を物理的・経済的に完全崩壊させるという、魔王軍もドン引きする凶行を成し遂げたのであった。
「……おい、ルチアナ。もう王様の話なんて聞かなくていい。お前らがこの世界の魔王だ」
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくわ! さあ、次は隣の家の壺よ!!」
優太の胃痛(HP)がゴリゴリと削られていく中、勇者たちの終わらない略奪(探索)は続くのであった。




