第七章 外道勇者のRPG生活
神様の暇つぶしと、完全没入型RPGの誕生
ルナミス・デパートでのタダ乗り(乞食)視察と、スリ犯への容赦ないネット私刑(特定)から数日後。
異世界ファミレス『ルナキン』の店休日、ポポロ村は静かで平和な昼下がりを迎えていた。
しかし、その平穏を打ち破る、けたたましい声が店内に響き渡った。
「あーっ! 暇! 暇よォォォォォッ!!」
芋ジャージ姿の駄女神・ルチアナが、ルナキンの客席のソファーでゴロゴロと転げ回りながら、手足をバタバタとさせていた。
「もう美味しいご飯にも慣れちゃったし、村の防衛戦みたいなヒリヒリする危機も最近ないし! 退屈すぎて女神のアイデンティティが消滅しそうよ!! おい朴念仁(優太)! 地球の『娯楽』を出しなさい!!」
「……お前、自分で紅竜けしかけておいてよく言うぜ。少しは創造主らしく威厳を持てよ」
優太は呆れ顔で、カウンターの内側でコーヒー豆を挽きながらため息をついた。
「地球の娯楽って言ってもな……俺は医学生で元SEALsだぞ。サバイバル術や戦術、解剖学の教科書ならいくらでも語れるが、遊びの引き出しなんてそんなに……」
「嫌よ! もうあんたの血生臭いウンチクは聞き飽きたわ! もっとこう、ワクワクして、現実を忘れて没頭できるような、刺激的な『遊び』はないの!?」
ルチアナがカウンターに身を乗り出して詰め寄ってくる。
優太は少し考え込み、「……現実を忘れて没頭する遊び、か」と呟いた。
「地球には『ゲーム』っていう電子娯楽がある。中でも一番ポピュラーなのが『RPG』だな」
「あーるぴーじー? 何それ、美味しいの?」
その場でお茶を飲んでいたキャルルが、ウサギ耳をピクッと反応させる。リーザとキュララも興味津々で顔を覗かせた。
「いや、食い物じゃない。自分が『勇者』や『魔法使い』といったキャラクターになりきって、仲間と共に剣と魔法の世界を冒険し、最後に世界を脅かす『魔王』を倒すっていう、仮想体験型の物語だ。レベルを上げて強くなったり、町で情報を集めたり、敵を倒して金貨を稼いだりするんだよ」
優太が淡々とRPGの基本概念を説明すると。
「…………ッ!!」
ルチアナと、隣で優雅に紅茶を飲んでいたハイエルフのルナの目の色が変わった。
「自分が主人公になって……魔王を倒して……金貨を稼ぐ……?」
「仮想の世界で、好きな職業になりきって冒険する……ふふっ、なんて面白そうな『箱庭』なのかしら」
二人は顔を見合わせ、極悪な笑みを浮かべた。
「ねえルナ。私たちが本気出せば、その『あーるぴーじー』ってやつ、この世界で作れるんじゃない?」
「ええ、ルチアナちゃん。神の権能による世界構築と、私のエルフの超魔法(システム制御)を掛け合わせれば……『完全没入型(VR)の魔導ゲーム空間』を創り出すことなんて、造作もないわ♡」
「おい、待てお前ら。嫌な予感しかしないんだが」
優太がコーヒーミルを置いて後ずさるが、もう遅い。
「よし、決まりね! 今日はルナキン地下の大型倉庫を貸し切って、みんなでその『あーるぴーじー』の世界にダイブするわよ!!」
ルチアナが指パッチンを鳴らした瞬間、ルナの杖から凄まじい光が放たれ、ファミレスの地下へと極大のマナが注ぎ込まれていった。
***
数十分後。ルナキンの地下倉庫。
そこには、ルナの魔法とルチアナの神力によって生成された、巨大な魔法陣が描かれた六つの『魔導カプセル(コフィン)』が鎮座していた。
「さあみんな! このカプセルに入れば、意識だけがゲームの世界に飛ぶわ! 痛覚はオフにしておいたから、死んでも現実の体には影響ない安心設計よ!」
ルチアナが芋ジャージのまま、一番豪華なカプセルに乗り込む。
「わぁい! 楽しそう! 村長の仕事も今日はお休みだし、思いっきり暴れるわよ!」
キャルルがワクワクしながら隣のカプセルへ。
「仮想空間でもお金は稼げるのかしら? まぁいいわ、配信のネタになりそうだし、キュララもやるーっ☆」
「魔王を倒せば、懸賞金(タダ飯)がもらえるのよね!? やるわよォ!」
キュララとリーザも、それぞれの欲望を胸にカプセルに収まる。ルナも優雅に横たわった。
「……おい、なんで俺の分のカプセルまで用意されてるんだ。俺はパスだ。現実世界で溜まった医学書のレポートを書かなきゃ……」
優太が回れ右をして逃げようとした、その時。
「逃がさないわよ、優太♡ 提案者が参加しないなんて、許されるはずないじゃない」
ルナの魔力の手が優太の襟首を掴み、強制的に最後のカプセルへと放り投げた。
「お、おい! ふざけんな、俺は忙し……!」
『――システム、オールグリーン。これより、完全没入型魔導遊戯(VR・RPG)を起動します。』
ルナの無機質なアナウンス魔法と共に、六つのカプセルが眩い光に包まれる。
「じゃあみんな、ゲームの世界で会いましょー!! ログ・イン!!」
ルチアナの無責任な掛け声と共に、優太の意識は深い光の渦の中へと吸い込まれていった。
(……クソッ。俺は、ただの医学生なのに……ッ!)
神様とエルフの暇つぶしによって生み出された、剣と魔法(と現代知識のチート)が入り乱れる、地獄のVRゲーム攻略が、今ここに幕を開けたのであった。




