EP 10
祝勝会は自販機のコーラで
「あ、キュララちゃん! いつも検挙に協力してくれて助かるよ〜! こっちの書類にサインだけよろしくねっ☆」
「はぁ〜い、署長さん! また配信に遊びに来てねっ♡」
帝都ルナミスの大通りに面した交番。
そこでは、天使キュララが帝都の警察官(しかもかなり上の階級)と、まるで親戚のオジサンと話すかのようなフランクさで談笑していた。
一方、その横の留置所では、特定班と母親からの直電で完全に心を破壊されたスリ師のボブが、「もう許してください……カーチャンごめんなさい……ッ」と虚ろな目で壁に向かって懺悔し続けている。
「……あのな、ルナ。一応聞くが、あいつ(キュララ)、なんで帝都の警察とあんなにズブズブなんだ?」
交番の外で、戻ってきた分厚い革の財布を受け取った優太が、引きつった顔でルナに尋ねた。
「ふふっ。キュララの『特定班』は、帝都の騎士団や捜査網よりも遥かに早く、正確に犯人を追い詰めるからよ。警察からすれば、彼女は検挙率を爆上げしてくれる『女神様』みたいなものなの。持ちつ持たれつ(癒着)ってやつね」
「……お前、絶対に敵に回したくないわ」
警察権力とネットの暴力(特定班)を完全に掌握している小悪魔天使を横目に、元特殊部隊(SEALs)の教官である優太は、心底からのドン引きと恐怖を覚えていた。
剣や魔法といった物理的な脅威なら対処のしようもあるが、現代ネット社会の『社会的な抹殺』という攻撃の前では、一個人の武力など無力に等しいのだ。
「はいっ、優太さんお待たせ! お財布、中身も無事だったよぉ♡」
キュララが満面のアイドルスマイルで戻ってくる。
優太は無言で財布を受け取り、重いため息をつきながら、再び巨大な荷物の塊(バックパックと大量の紙袋)を背負い直した。
「……まぁ、なんだ。色々(本当に色々)あったが、これでルナキンの全財産も無事に戻った。今日のミッション(デパート視察)はこれで完了だ。村に帰るぞ」
「わぁーい!」「早く帰って温泉入りたいわー!」「私はマッサージチェアの余韻で寝るゥ……」
夕暮れに染まる帝都の裏路地を、一行は馬車乗り場へと向かって歩き出す。
豪奢なデパートでタダ乗り(乞食)を満喫し、試食を食い尽くし、ケーキをつつきながら修羅場を演じ、最後はスリ犯をネットの闇で公開処刑する。
全くもって「平和な村の村長一行」とは呼べない、あまりにも濃すぎる一日だった。
(……SEALsの過酷なミッションより、よっぽど精神が削られたぜ……)
優太が疲労困憊で歩いていると、ふと、路地裏の片隅にポツンと置かれた『魔導自販機』が目に入った。
冷気を纏ったガラスケースの中に、黒い液体の入った見慣れたガラス瓶が並んでいる。
「……ちょっと待ってろ」
優太は荷物を一度地面に下ろすと、自分のポケットから(ルナキンの売上ではなく、自分の小遣いの)硬貨を数枚取り出し、自販機に投入した。
ガコンッ、ガコンッ。
「ほらよ。お前らも喉渇いただろ」
優太がヒロインたちに放り投げたのは、よく冷えた『世界樹のコーラ』の瓶だった。
キャルル、リーザ、ルナ、キュララ、そして千鳥足のルチアナが、それぞれ瓶をキャッチする。
「あら、優太の奢り? デパートのカフェで高い紅茶を飲んだのに、自販機のジュースなんて安上がりねぇ」
ルナがクスクスと笑いながら瓶を見つめる。
「うるせぇ。お前らが暴れ回ったせいで、俺の奢り(財布のHP)はもう限界なんだよ。……文句があるなら飲むな」
優太がそっぽを向きながら、自分の分のコーラの栓をシュポッ! と開けた。
「ふふっ、文句なんてないわよ! 優太からのご褒美だもんね!」
キャルルが嬉しそうにウサギ耳を揺らし、栓を開ける。
夕暮れの路地裏。
高級デパートの華やかな光からは少し離れた、薄暗くも落ち着く場所で。
「……まあ、なんにせよ。誰も怪我せず、金も戻ってきた。一件落着ってやつだ」
優太がコーラの瓶を軽く前に突き出した。
「「「かんぱーい!!」」」
ガラス瓶がぶつかり合う、澄んだ音が路地裏に響く。
シュワァァッ……と喉を弾ける炭酸の刺激と、安っぽいけど癖になる強烈な甘さ。
さっきまで、ウン万ゴールドの高級スイーツやステーキを散々腹に詰め込んでいたヒロインたちだが、今は皆、このたった数十ゴールドのコーラを心底美味しそうに煽り、最高の笑顔を浮かべていた。
「ぷはぁーっ!! やっぱり、サバイバル(?)の後の炭酸は最高ね!!」
リーザが満面の笑みで叫ぶ。
「……たく。どいつもこいつも、現金な奴らだ」
優太は呆れたように悪態をつきながらも、サングラスの奥の目を少しだけ細め、夕日に照らされる彼女たちの笑顔を見つめていた。
胃痛と羞恥心に塗れた一日だったが、この騒がしくも温かい日常を守るためなら、荷物持ちくらいなら何度でもやってやろう。
不器用な医学生は、残りのコーラを一気に飲み干すと、再び巨大な荷物の塊を背負い上げ、仲間たちと共にポポロ村への帰路につくのであった。




