EP 6
女子会の生態と、キュララの配信魂
ルナミス・デパートの最上階(七階)、『カフェテラス・ル・ソレイユ』。
帝都を一望できる窓際の特等席は、今、異世界の美女五人が放つ華やかさと、触れれば炎上しそうな危険なオーラによって、完全に支配されていた。
「う〜ん! この『世界樹のショートケーキ』、クリームが甘すぎなくて、スポンジがフワッフワ! 最高ね!」
真紅のウサギ耳をピンと立てた村長キャルルが、幸せそうに頬を緩める。
「ふふっ。エルフの森の素材を使っているもの、当然のクオリティねぇ」
ハイエルフのルナが優雅に紅茶をすすり、暗に自らの種族の優位性をマウントする。
「あら、こっちの『食べるさつまいも・女子会限定プレート』の方が、甘みが濃厚で美味しいわよ。……ん、この芋酒も、なかなか良い発酵ね」
芋ジャージ姿の駄女神ルチアナは、ケーキよりも芋酒のボトルをチビチビと煽り、すでに少し顔を赤くしていた。
「あぁ〜、お肌もっちもちで食べるケーキ、最高ぉ〜! 唐揚げはのってなかったけど、このパフェのコーンフレークがサクサクで美味しいわァァッ!!」
すっぴんプルプル肌のマーメイド・リーザが、特大パフェを獣のような勢いで食らう。
「リスナーのみんな〜! キュララは『ピンクのモンブラン』だよぉ♡ マロンが濃厚で、栗派のみんなにもオススメだよっ!」
天使キュララは、宝石が散りばめられたモンブランをスプーンで上品に掬い、完璧なカメラ目線(※後述)でウインクを飛ばした。
華やかなカフェテラス。異世界の美女たちがケーキを囲む、一見すれば夢のような光景。
だが、その席から少し離れた、隅っこの小さな二人掛けテーブルに、一人寂しく座っている男がいた。
「…………(※砂糖もミルクも入れないブラックコーヒーをチビチビ)」
黒いサバイバル服の優太である。
彼の周囲は、先ほど食品フロアで爆買いした大量の高級食材や、リーザたちがこれまでのフロアで(ちゃっかりルナキンの経費で)買い漁った服や化粧品の袋によって、完全に包囲されていた。
優太は、山積みの荷物の隙間から、女子会メンバーの楽しそうな(そして恐ろしい)様子を見つめながら、砂糖もミルクも入れないブラックコーヒーをチビチビと煽った。
(……このミッションは、まだ終わらない。俺はこれから、荷物持ち(ポーター)兼・トラブルシューターとして、女たちの不毛な会話(愚痴とマウント)を聞き続けなければならないのだ……)
紅竜のブレスよりも、アダマンタイト級のゴーレムよりも恐ろしい。
異世界の美女たちによる、終わりの見えない『女子会』という名の地獄のオペレーションが、今まさに幕を開けたのであった。
***
「……でね、ルナ。最近、優太がまた新しい現代知識(娯楽)を村に持ち込もうとしてるのよ。村長としては、治安維持が心配で……」
ケーキの三口目を飲み込んだあたりで、キャルルが少し真剣な顔でルナに相談を始めた。
「あら、良いことじゃない。優太の知識は、ルナキン(ファミレス)の売上をさらに爆上げしてくれるもの。エルフの魔力と組み合わせれば、もっと凄いことができるわ」
ルナが扇子を広げ、ふわりと微笑む。
「そうだけど……。最近、優太ったら、私のウサギ耳をモフモフする時間より、ルナと新しい魔法薬の研究してる時間の方が多い気がするのよ! む、村長として、公平な時間配分を要求するわ!」
バシッ! とキャルルがテーブルを叩いた。
女子会特有の、唐突な『愚痴からマウントへの移行』である。
「あら、それはキャルルが村長の仕事ばかりで、優太に甘える時間が足りていないからじゃないかしら? エルフの魔力(魅力)には、朴念仁(優太)も抗えないのよ」
ルナがクスクスと笑い、キャルルへのマウントを確定させた。
「なっ……! ルナこそ、いつも優太に『魔力枯渇(甘えたいだけ)』って嘘ついて抱きついてるじゃないの! 卑怯だわ!」
「キーッ! アンタら二人して、何優太様の正妻争いしてるのよォォッ!!」
そこへ、パフェを食べ終えたリーザが割り込んできた。
「優太様の隣にふさわしいのは、ルナミス帝国時代から彼の健康(食事)を支え、共にデパートのテスター(タダ乗り)を満喫した、このサバイバルアイドル・リーザ様だけよォォォォッ!! アンタらのウサギ耳や魔力なんて、優太様の隣に立つ『逞しさ』の前には無力だわッ!!」
「貧乏アイドルが何を! 私の方が、優太と初めて『解剖学×CQC』の連携をキメたのよ!」
「ふふっ。私は、優太に『現代医学』の本気の心配(手当て)をされたわ」
唐突に幕を開けた、ポポロ村ヒロイン三人による、終わりの見えない『優太の正妻』マウント合戦。
ケーキの甘い匂いに満ちたカフェテラスが、一瞬にして女たちの執念とマウントが渦巻く、血みどろの戦場(修羅場)と化した。
***
「…………(※コーヒーをすする手が震える)」
荷物の隙間からその様子を見ていた優太は。
サングラスの奥で目を血走らせ、これまで経験したどんな戦場よりも激しい胃痛と、背筋が凍るような恐怖を感じていた。
(……女って、怖い。戦術も、弾薬も、制圧能力も通用しない、終わりの見えない『承認欲求と嫉妬の戦争』だ……)
元特殊部隊(SEALs)教官の誇りが、羞恥心と恐怖によって、音を立てて崩れ去っていく。
だが、この修羅場の席で、一人だけ、全く異なる行動をとっている者がいた。
天使キュララである。
彼女は、ケーキの皿の脇に、自身の『魔導端末』を斜めに立てかけ、ドローンカメラの死角を利用して、こっそりと女子会の様子を『配信』に乗せていたのである。
端末の画面には、あざとくショートケーキを頰張るキュララの顔(完璧なアイドルスマイル)と、その後ろでキャルル、リーザ、ルナが激しく罵り合っている『修羅場の背景』が、バッチリと映り込んでいた。
『――【緊急凸配信】帝都デパートの女子会、正妻争いでガチ修羅場キタコレ!!www』
端末のコメント欄が、見たこともない速度で滝のように流れ落ちていた。
『うおおおおおwww マジで殴り合い寸前じゃん!!ww』
『キュララちゃん、後ろの修羅場に気づいてないフリして、あざとくケーキ食べてるww プロ根性ww』
『誰かあの黒服の男(荷物持ち)特定しろ!!ww 3人の美女に争われてるとか、最強のハーレム男じゃん!!w』
『特定班動きます★』
『【ユーザー名:農家の三男坊】さんが、50,000ゴールドの投げ銭(赤スパ)をしました!』
『【ユーザー名:帝都の貴族】さんが、100,000ゴールドの投げ銭(虹スパ)をしました!』
チャリンチャリンチャリンチャリンチャリンッ!!!
キュララの魔導端末から、滝のような勢いで金貨が振り込まれる効果音が(女子会の罵声に隠れて)鳴り響く。
女子会の修羅場(撮れ高)を逆手に取った、プロのインフルエンサーによる、最凶の『ヤラセ無しガチ暴露配信』である。
「(……へへっ。同接30万人突破!! 今月のノルマ達成どころか、帝都にタワマンもう一軒買えるわこれ!! 女のマウント合戦(撮れ高)、最高ォォォォォッ!!)」
キュララは内心でゲスいガッツポーズをキメながら、カメラに向かって、最高にあざといウインクとピースサインを作った。
「みんなー! キュララのピンクのモンブラン、リスナーのみんなと一緒に食べられて、すっごく幸せだよぉ♡ まったね〜〜〜っ★」
ブンッ!
キュララが魔導端末の画面をスワイプすると、配信終了の画面と共に、ホログラムのコメント欄がパッと消えた。
配信終了。
「あーあ、ケーキ食べた後に甘ったるい芋酒なんて、女神の胃袋がバグるわねぇ。……ん? なんかあっちでキャルルたちがうるさいわねぇ」
配信を終え、芋酒のボトルを空にしたルチアナが、ようやくヒロインたちの罵り合いに気づいた。
だが、芋酒のアルコールでバグった駄女神の思考は、さらなるカオスな提案へと繋がっていく。
「……あー、つまんね。……そうだ、そんなに優太が良いなら、私が『神様の特権』で、全員まとめて優太の嫁にしてあげよっか?♡」
駄女神ルチアナの、バグった爆弾発言。
「「「…………へ?」」」
正妻争いで罵り合っていたキャルル、リーザ、ルナの三人が、石のように硬直した。
そして。
隅っこのテーブルで荷物に囲まれていた優太は。
サングラスの奥で目を血走らせ、胃痛の限界を迎えて、そのままブラックコーヒーを喉に詰まらせて、絶叫を上げるのであった。




