EP 5
優太の胃痛と、華麗なる(?)女子会への招待
「う、うわぁぁぁぁぁんっ!! 店長ォォォ、助けてぇぇぇっ!!」
ルナミス・デパート五階、食品フロア。
煌びやかな高級食材に囲まれた試食コーナーの中心で、エルフの店員のお姉さんが、爪楊枝を構えたヒロインたちの前で泣き崩れていた。
駄女神ルチアナ、村長キャルル、ハイエルフのルナ。この『食欲の暴走機関車』たちは、同業者(ファミレス経営者)としてのプライドなど微塵もなく、グラム数千ゴールドの高級ウインナーやステーキを、試食の名目で跡形もなく食い尽くしていたのである。
(……くそっ。なんで俺が、こいつらの羞恥心の無さのツケを払わなきゃいけないんだ……ッ!)
商品棚の陰で胃痛に耐えていた優太は、意を決して戦術的介入(店員救済)を開始した。
優太はサングラスをかけ直すと、イナゴの大群をかき分け、涙目の店員の前へと進み出た。
そして、タクティカルバックパックから取り出した、『ルナキン』の一日の売上が詰まった分厚い革の財布を、ドンッ! とカウンターに叩きつけた。
「……おい」
「ひ、ひぃっ!? こ、今度は何!? 試食の肉はもう全滅ですぅぅぅっ!」
店員がお怯えきった表情で、カウンターの下に隠れようとする。
「違う。……こいつらが食った分を全部、今ここで買い取る。それと、今食ってたウインナーとステーキ肉、それからあっちにあった『世界樹のチーズ』と『魔法果実のセット』を……それぞれ五パックずつ、いや十パックずつ包め(テイクアウト)。全部だ」
優太は冷徹な声で、まるで武器の弾薬を補充するかのように、大量注文(爆買い)を告げた。
その額、およそ一般市民の月収数ヶ月分。
「え……?」
店員は一瞬、時間が止まったかのように呆然とした。
だが、優太の手元にある財布から溢れんばかりの金貨の輝きと、彼から放たれる「絶対に冗談ではない」という威圧感(と胃痛)を感じ取り、次の瞬間にはその表情が『神を見るような崇拝』へと変わった。
「は、はいぃぃぃぃぃっ!!! ありがとうございますッ、お客様ッ!! いえ、お客様は神様ですッ!! ただいま、ただいま特急でご用意いたしますッッッ!!!」
店員は涙を拭うのも忘れ、凄まじいスピードで商品を包み始めた。
さっきまでの絶望が、一瞬にして今月のノルマ達成(&ボーナス確定)という歓喜へと変わったのだ。
「あら。優太、太っ腹ねぇ。そんなにルナキンの経費(売上)を使って大丈夫?」
「うるさいエルフ。お前らが食い散らかしたツケだ。……おい、お前ら。もう試食は禁止だ。一刻も早くこのフロアから撤退するぞ」
優太はサングラスの奥で目を血走らせ、まだウインナーを咀嚼していたキャルルと、ルナ、ルチアナを睨みつけた。
結局、四階のリーザのタダ乗り(マッサージチェア)では逃げ出したが、五階の店員の涙には耐えきれず、自分の良心(と財布)を犠牲にして状況を制圧した優太であった。
***
「あ〜、食べた食べた! 帝都の味、なかなかだったわね!」
「もぐもぐ……ルナキンの新メニュー、幻豚のウインナーで決まりね!」
「やっほーリスナー! 今、優太さんが爆買いして店員さんを救ったよぉ! 超カッコよかったからスパチャよろしく〜★」
買い出し(店員救済)を終えた一行は、デパートの最上階(七階)にある『カフェテラス・ル・ソレイユ』へと移動していた。
帝都を一望できるガラス張りの開放的な空間。魔法で空調が完璧に管理され、高級なケーキの甘い匂いが漂う、まさに貴族の憩いの場である。
一行は、一番景色の良い窓際のソファー席へと陣取った。
駄女神ルチアナ、ウサギ耳村長キャルル、ハイエルフのルナ、すっぴんプルプル肌のマーメイド・リーザ、そしてドローンを回し続ける天使キュララ。
異世界の美女(と神様)が五人揃ったその席は、カフェの中でも異様なまでの華やかさと、触れれば炎上しそうな危険なオーラを放っていた。
「さあ! 視察の後は、お楽しみの『女子会』の時間よ!」
ルナが扇子を広げ、優雅に宣言した。
「いらっしゃいませ。ご注文を……うわっ」
注文を取りに来た男性店員が、五人のヒロインたちの圧倒的な美貌(と圧)に、思わず後ずさった。
「私はこの『世界樹のショートケーキ』とアールグレイの紅茶を」
「私は『魔法果実の特大パフェ』! 唐揚げものってないかしら!?」
「あ、私は『食べるさつまいも・女子会限定プレート』。あと、甘い芋酒をボトルで持ってきなさい」
「リスナーのみんな〜! キュララは『ピンクのモンブラン』にするよぉ♡」
「……はぁ。女ってのは、なんであんなに食った後に、まだ甘いもんが食えるんだ……?」
不器用な医学生(元SEALs教官)の優太は。
女子会メンバーから少し離れた、隅っこの小さな二人掛けテーブルに、一人寂しく座っていた。
彼の周囲は、先ほど食品フロアで爆買いした大量の高級食材や、リーザたちがこれまでのフロアで(ちゃっかりルナキンの経費で)買い漁った服や化粧品の袋によって、完全に包囲されていた。
優太は、山積みの荷物の隙間から、女子会メンバーの楽しそうな(そして恐ろしい)様子を見つめながら、砂糖もミルクも入れないブラックコーヒーをチビチビと煽った。
(……このミッションは、まだ終わらない。俺はこれから、荷物持ち(ポーター)兼・トラブルシューターとして、女たちの不毛な会話(愚痴とマウント)を聞き続けなければならないのだ……)
紅竜のブレスよりも、アダマンタイト級のゴーレムよりも恐ろしい。
異世界の美女たちによる、終わりの見えない『女子会』という名の地獄のオペレーションが、今まさに幕を開けたのであった。




