第七章 ルナミスデパートとデジタルタトゥー
いざ敵地(?)へ! 帝都ルナミス・デパート視察
ポポロ村の近郊ダンジョンで起こったヤラセ配信騒動から数日後。
優太たち一行は、馬車に揺られて国境を越え、隣国である『ルナミス帝国』の帝都へと足を踏み入れていた。
「……おい、ルナ。本当に大丈夫なんだろうな」
黒いサバイバル服に身を包んだ優太は、馬車の窓から帝都の立ち並ぶ豪奢な石造りの建物を睨みつけながら、低く険しい声で尋ねた。
「あら、何がかしら?」
向かいの席に座るハイエルフのルナは、優雅に扇子を扇ぎながら首を傾げる。
「とぼけるな。お前、数日前にこの国の特別徴税局長に『三日で石ころに戻る偽金』を掴ませたばかりだろうが! 計算上、とっくに魔法が解けて大騒ぎになってるはずだ。今この国に入るのは、敵地のど真ん中に丸腰で突撃するようなもんだぞ!」
元特殊部隊(SEALs)の教官である優太の危機管理能力が、けたたましい警報を鳴らしている。
大国への詐欺行為。本来なら指名手配されて、国境の検問で即座にハチの巣にされてもおかしくない大罪である。
しかし、ルナはふわりと、この世の春のような(底知れぬ腹黒さを秘めた)微笑みを浮かべた。
「ふふっ。優太ってば心配性ね。大丈夫よ、あの強欲な局長は、絶対に『偽金をつかまされた』なんて上層部に報告できないわ」
「……なんでだ?」
「だって、彼が持っているのは『ポポロ村から確かに本物の税を徴収した』という、自分自身で書いたサイン入りの書状だけだもの。今さら『実は石ころでした』なんて言えば、彼自身が途中で税を横領して隠したと疑われて、クビが飛ぶだけよ。今頃、自分の私財を売り払って穴埋めしているんじゃないかしら?」
「…………お前、マジで悪魔だな」
優太は、エルフの完璧すぎる政治的トラップ(隠蔽工作)に心底震え上がり、深くため息をついた。
ルナミス帝国からすれば、ポポロ村は『善良に税を納めた村』のままであり、優太たちはお尋ね者どころか、ただの観光客として堂々と帝都を歩けるというわけだ。
「さあ! 着いたわよ、優太!」
真紅のワンピース姿のキャルルが、ウサギ耳をピンと立てて馬車の扉を開け放った。
「うおおおっ! さすが帝都! 建物がデカいわね!」
「やっほー! リスナーのみんな、今日は帝都からお買い物配信だよぉ〜☆」
「……ふぁぁ。馬車は揺れて寝づらいわねぇ。早く甘いもの食べたいわ」
リーザ、キュララ、そして芋ジャージ姿の駄女神・ルチアナが次々と馬車を降りていく。
今回、彼らがわざわざ帝都までやってきた目的。それは、連日大繁盛で備品が足りなくなってきたファミレス『ルナキン』の買い出しと、新しいメニュー開発のための『市場調査(という名目の豪遊)』である。
優太が頭を掻きながら馬車を降りると、目の前には、帝都の中心にそびえ立つ規格外の巨大建築物がドーンと鎮座していた。
『ルナミス・デパート』。
魔法とガラス細工をふんだんに使った地上七階建ての超大型複合商業施設。現代地球のメガモールにも引けを取らない、ファンタジー世界の欲望の結晶である。
「す、すごい……! 中から甘いいい匂いと、冷たい風(魔法冷房)が吹いてくるわ!」
リーザが、魚人族の瞳をギラギラと輝かせてデパートの入り口を見つめる。
「(……あの顔。極貧時代を思い出したサバイバルアイドルの目だ。絶対に何かやらかす気だろ……)」
優太は嫌な予感をヒシヒシと感じながら、タクティカルバックパック(空っぽの大きなリュック)を背負い直した。
「さあ、行くわよ皆! 今日はルナキンの経費で落ちるから、存分に視察(お買い物)しましょう!」
村長であるキャルルの号令と共に、ヒロインたち(と神様)が、キャッキャと華やかな声を上げながら巨大デパートの中へと吸い込まれていく。
「……たく。どいつもこいつも平和ボケしやがって。迷子になったら置いて帰るからな」
悪態をつきながらも、優太は荷物持ち(兼・トラブルシューター)として、ため息交じりにルナミス・デパートへと足を踏み入れた。
しかし、この後すぐに、優太は「迷子」などという可愛いものではない、ヒロインたちの『恐るべきタダ乗り(乞食)ムーブ』と、現代ネット社会の闇(特定班)が交差する、カオス極まりない女子会の洗礼を浴びることになるのである。




