EP 10
天使のデレと、創造主のぶっとい予防接種
「……あ、ありがとう、優太さん……」
ルナキンの店内。
医学生・優太の真剣な手当てと説教を受け、見栄っ張りの天使キュララが、頬を真っ赤に染めて『本物のデレ』を見せた、その瞬間だった。
「――まーた無自覚にフラグ立てやがったな、このボケカスが!!」
甘酸っぱいラブコメ空間を木端微塵に粉砕する、下品極まりない怒声が隣の席から飛んできた。
山盛りのフライドポテトを齧りながら、芋ジャージ姿の駄女神・ルチアナがギリィッと歯ぎしりをしている。
「ネギオッ!!」
ルチアナが指パッチンを鳴らして叫ぶ。
「――御意」
ズズズンッ!!
ルチアナの背後から、ルナの魔法によって生成された巨大な樹人のポーン――『ネギオ』が、床を揺らしてぬっと姿を現した。
「……え?」
手当てを終え、メディカルキットを片付けようとしていた優太が、間の抜けた声を漏らす。
「ふふん。優太、あんたそんなに『健康第一』とか言って女の子の脚触ってデレさせて、医者ぶるのが好きみたいね?」
ルチアナがポテトを指差すように優太へ向け、極悪非道な笑みを浮かべた。
「だったら、あんた自身にも『ぶっとい予防接種』をしなきゃねぇ?♡」
「予防接種……? おい、何の話をして……」
優太が顔を引きつらせたその時、樹人ネギオが両手で抱え持つ『巨大な木製の注射器(先端がやけに太くて丸い)』を、ズドンッと構えた。
「世界樹の雫の原液100%カンチョウだがな、おい!!」
ネギオのドスの効いた野太い声が、ファミレス内に響き渡る。
先端から、緑色のドロリとした謎の液体がポタポタと滴り落ちていた。あれが直腸にぶち込まれれば、健康になるどころか物理的に内臓が破裂する。
「な、なんだその兵器は!? ふざけんな、俺は至って健康だ!!」
優太が戦術的撤退(ダッシュ逃亡)を図ろうと立ち上がった、まさにその瞬間。
「逃がさないわよ、優太!」
「私たちの目の前で、また新しい女(特上寿司女)にフラグ立てるなんて……万死に値しますわ!」
「ふふっ。ネギオ、容赦なく(ぶち込んで)やりなさい♡」
「な、何を!?」
優太の背後から、ウサギ耳の村長キャルルが両腕をホールドし、魚人族のリーザが脚に組みつき、エルフのルナが魔法で床に拘束陣を展開した。
先ほどまでキュララとの甘い空気を醸し出していた優太への、ヒロインたちからの『嫉妬の総攻撃』である。
「お、おい! 離せキャルル! リーザ! ルナお前まで!? キュララ、お前もなんか言え!」
「あ、あはは……。優太さん、ドンマイっ☆(裏声)」
デレたばかりのキュララは、自分に被害が及ぶのを恐れてスッと目を逸らした。
「目標、完全固定完了。……いくぞ」
ネギオが、丸太のような太さの巨大カンチョウ器を構え、ジリ、ジリと距離を詰めてくる。
「嘘だろ!? やめろ! 俺のケツの尊厳が!!」
「オラッ! 観念してケツ出せェ!!」
ネギオが容赦なく、巨大な杭打ち機のごとき勢いで突進してきた。
「や、やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」
ポポロ村の長閑な昼下がり。
ファミレス『ルナキン』の店内に、元特殊部隊の教官にして冷静沈着な医学生・優太の、これまでで最も情けなく、そして絶望に満ちた断末魔の叫びが響き渡った。




