EP 7
村長のツッコミ! ドリンクバーの絶対法則
ポポロ村の異世界ファミレス『ルナキン』のBOX席は、天使キュララの「奢り(リスナーの遠隔決済)」という言葉によって、完全にカオスなフードファイトの戦場と化していた。
山積みの唐揚げ、フライドポテトの城、そして特大ハンバーグ。
その中心で、魚人族のアイドル・リーザは、両手に持った『メロンソーダ』と『世界樹のコーラ』のジョッキを、交互にガブ飲みしていた。
「ぷはぁぁぁぁっ!! 甘い! 炭酸が喉に染み渡るわァ!!」
リーザはジョッキをテーブルにドンッと叩きつけ、口の周りに緑色の液体をつけながら高らかに宣言した。
「さあ、5杯目完了よ! キュララ! アンタのリスナーの財布から限界まで絞り取ってやるわ! ドリンクバーの飲み物を全種類、いや、各10杯ずつ飲んで、絶対に『元』を取ってやるんだからァァァッ!!」
「あはは……。リーザちゃん、相変わらず貧乏くさ……じゃなくて、元気だねぇ〜(※右手が痛くてフォークが持てない)」
キュララが顔を引きつらせながら、左手でポテトをチビチビとかじっている。
「ふん! なんとでも言いなさい! 私は今日、このルナキンのドリンクバーに勝利するのよ!」
リーザが再び空のジョッキを握りしめ、ドリンクサーバーへと向かおうと立ち上がった、その時である。
「……リーザちゃん」
これまで黙々と、自分の分の『月見ハンバーグ定食』を綺麗に食べていたウサギ耳の村長・キャルルが、箸をピタリと止めた。
そして、極めて真顔で、哀れむような視線をリーザへと向けた。
「あのね、リーザちゃん。ルナキンの経営者(村長)として、そして友として、残酷な真実を教えるわ」
「えっ? なによキャルル。私がジュース飲みすぎて羨ましいの?」
「違うわ。……ドリンクバーで『元を取る』事は、絶対に不可能なのよ!」
キャルルの断言に、リーザが「なっ!?」と目を見開いた。
「不可能って……どういうことよ! だって1杯何十ゴールドもするジュースを、何十杯も飲めば、絶対に支払った金額をオーバーして得するはずじゃない!」
「甘いわ、リーザちゃん。メロンソーダもコーラも、原価(シロップと炭酸水)なんて数ゴールドの世界よ。あなたが支払った(リスナーが奢った)ドリンクバー単品の価格を超えるには、そのジョッキで最低でも『20杯』は飲まなきゃいけない計算になるの」
「に、20杯……!?」
「ええ。でも、人間の……いえ、魚人族の胃袋の容量には限界がある。20杯も飲む前に、あなたの胃袋は限界を迎えるわ。つまり――」
キャルルは真紅のウサギ耳をピンと立て、ビシッとリーザを指差した。
「液体でお腹がタプタプになって、一番原価が高くて美味しい『特大唐揚げ』や『ハンバーグ』が食べられなくなるだけよ! それはファミレスにおいて、完全なる『敗北』なのよ!!」
「――――ッ!!?」
キャルルの放った、現代日本のファミレスにおける【絶対的真理】。
その残酷なロジックを突きつけられ、リーザは雷に打たれたように硬直した。
「そ、そんな……! じゃあ私が今まで必死に飲んでた5杯のメロンソーダは……ッ!」
「ええ。ただお腹を膨らませて、メインディッシュを遠ざけただけの『無駄な水分』ね」
「キャアアアアアアアッ!? 私の唐揚げぇぇぇぇぇっ!!」
リーザはお腹をさすりながら、テーブルに山積みになった唐揚げを見て絶望の悲鳴を上げた。すでに彼女の胃袋はメロンソーダの炭酸でパンパンに膨れ上がり、固形物を受け付けるスペースはほとんど残されていなかったのである。
「……キャルルの言う通りだ」
頭を抱えていた優太が、医学生としての冷静なツッコミを入れた。
「医学的に見ても、短時間での大量の糖分と水分の摂取は、急性の『水中毒』や『血糖値スパイク』を引き起こす。満腹中枢がバグって、必要な栄養素(タンパク質)が摂れなくなるんだよ。……ほら、腹壊す前に消化薬のポーション飲んどけ」
優太は呆れながら、小さな小瓶をリーザに放り投げた。
「うぅぅ……。パンの耳女の復讐、失敗したぁ……っ。特上寿司女のリスナーから、もっと搾り取ってやりたかったのにぃ……」
リーザはテーブルに突っ伏し、シクシクと嘘泣きを始めた。
「ふふっ。浅ましいわねぇ。私は世界樹の紅茶を優雅にいただきながら、この高級な『黒毛和牛のサイコロステーキ』をいただくわ。……うん、美味しい♡」
ルナがクスクスと笑いながら、一番単価の高い肉を上品に頬張っている。
「……ちょっと、ルナお姉様! それ頼んだのキュララなんだけど!? なんで勝手に食べてるの!?」
「あら。奢り(リスナーの金)なんでしょう? 遠慮はいらないわよね」
「あーっ! もう! そもそも私の右手が痛くてフォークが持てないのがいけないんだからぁ……っ!」
キュララが涙目で、机の下に隠していた右手をバタバタと振った。
その言葉に、優太の目がスッと細められた。
「……おい、キュララ」
「へっ?」
「お前、右手だけじゃない。……左脚の太もも、血が滲んでるじゃないか。見せてみろ」
優太は立ち上がり、キュララの隣へと移動した。
先ほどのダンジョン配信。無駄に派手なアクションや、鋼鉄のゴーレムとの戦闘の最中。彼女はカメラには映らないように隠していたが、有毒な茨に掠り、そして無茶な剣撃の反動で身体中にダメージを負っていたのだ。
「え? ああ、これ? 擦り傷かしら。リスナーに心配かけたくないし、これくらい平気だよぉ……」
キュララが誤魔化そうと、いつものアイドルスマイルを浮かべた、その時。
「平気なわけあるか、バカ野郎」
元特殊部隊の教官であり、医学生である優太の、これまで見せたことのないほど真剣で、そして静かな『怒り』を含んだ声が、ファミレスのBOX席に響いた。




