EP 5
必殺! レイピア・フラッシュと、完璧な幕引き(茶番)
「聖天使騎士キュララ、降臨だよっ☆」
ダンジョン第一層の薄暗い通路に、白銀の鎧を纏ったキュララのあざとい決めポーズと、完璧なアイドルスマイルが弾けた。
『うおおおおおおおッッ!!』
『聖騎士キュララちゃん、マジ女神!!』
『俺たちのスパチャが、今、光り輝く白銀の鎧になった!!』
『あんな恐ろしい魔物、光速で切り裂いちゃって!!』
浮遊する魔法のドローンカメラの向こう側で、数万人のリスナーたちが画面に齧り付き、熱狂のコメントと更なる赤スパチャ(投げ銭)を投げ続けている。
「(……よっしゃ、同接10万人突破!! 最高の撮れ高、最高の稼ぎ時!! さっさとこのトカゲ(ゴーレム)を、映える必殺技で沈めて、特上寿司食べるぞー!!)」
キュララは内心でゲスい笑みを浮かべ、宝石が散りばめられたレイピア(細身の剣)を優雅に構えた。
一方、変身が終わるのを律儀に待っていた鋼鉄のウッドゴーレム(ルナの極悪改造)は、ルナの「笑顔の遠隔操作」によって、再び『オオオオオオッ!!!』と凶悪な咆哮を上げ、丸太のような豪腕を振り上げた。
「みんなー! キュララとみんなの絆の力、見せてあげるねっ! 必殺ッッ!!」
キュララはドローンカメラに向かってウインクを決めると、リーザのバフ効果で極限まで加速した脚力で地を蹴った。
音速とまではいかないが、常人には捉えきれない神速の踏み込み。
「レイピア・フラッシュ(光速の剣技)ォォォォォッッ!!!☆」
キュララが叫んだ瞬間、彼女の姿が光の帯と化し、ウッドゴーレムの全身へと肉薄した。
白銀の聖騎士の鎧から放たれるピンクと金色の魔力が、レイピアの切先に集中し、文字通り『光速』のごとき、数千、数万もの突きが、ウッドゴーレムの全身へと降り注いだ。
シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャッ!!!
「(……ッ!? ちょっ……ッ!! 固ッッッッッッッッッッ!!!)」
光速の剣技を叩き込んだ瞬間、キュララはレイピアを握る右手に、凄まじい衝撃を感じていた。
ルナが施した『木の密度を鋼鉄レベルまで圧縮』した極悪調整。
宝石が散りばめられた、あざとくて映えるだけの高級レイピアの切先が、鋼鉄のゴーレムの表面を突くたびに、「ガチィン! ガチィン!」と、硬質な音を立てて弾かれる。
(なにこれ!? 木じゃない! 完全にアダマンタイト(超硬金属)だよこれ!! レイピアの刃が欠ける! 私の右手の骨が折れるぅぅぅっ!! ルナお姉様、殺す気かァァァァッ!!)
内心で阿鼻叫喚の悲鳴を上げながらも、キュララはプロのインフルエンサーだった。
ドローンカメラが特写している自分の顔は、100点満点の「凛々しい聖騎士の笑顔」を崩さない。激痛に涙が漏れそうになるのを、気合いと承認欲求で耐え抜く。
「ハァァァァァァッ!! ――散りなさいッッ!!」
キュララは激痛に痺れる右手に全闘気を込め、最後の一撃(映えポイント)をゴーレムの眉間へと突き立てた。
ガチィィィィンッ!!!
「…………ッ(激痛)!!」
キュララの右手が完全に痺れた。レイピアが折れる寸前。
その瞬間。
後方で世界樹の杖をついていたルナが、ふわりと慈愛に満ちた(極悪な)微笑みを浮かべた。
「ふふっ。妹分の頼みだもの。……最高の『撮れ高』、用意してあげなきゃね♡」
ルナが杖を石畳にコン、と突くと、ウッドゴーレムの全身に流れていた魔力が、一瞬にして暴走した。
ゴォォォォォォォンッ!!!
キュララのレイピアの最後の一撃が直撃した瞬間。
鋼鉄のウッドゴーレムは、まるで内側から爆発したかのように、凄まじい閃光と爆音と共に、ピンクと金色の光の粒子となって霧散した。
「えへっ☆ ――ミッション・コンプリート(完全制圧)だよっ!」
キュララは光の粒子が舞い散る中で、痺れて動かない右手を、気合いで背後に隠し、左手で完璧なウィンクとピースサインを作った。
背景の光の霧が、彼女の白銀の鎧をこれ以上なく美しく、そしてあざとく引き立てている。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』
『キュララちゃん、マジで光速の剣士!!』
『あんなバケモノを一瞬で霧散させるとか、最強の天使じゃん!!』
『【ユーザー名:農家の三男坊】さんが、100,000ゴールドの投げ銭(赤スパ)をしました!』
『【ユーザー名:帝都の貴族】さんが、500,000ゴールドの投げ銭(虹スパ)をしました!』
「みんなー! 応援本当にありがとう〜♡ みんなの愛が、キュララを強くしてくれたんだよっ!」
チャリンチャリンチャリンチャリンチャリンッ!!!
キュララの魔導端末から、滝のような勢いで金貨が振り込まれる効果音が鳴り響く。
投げ銭の総額は、すでにポポロ村のファミレスをもう一軒建てられるほどの額に達していた。
「(……へへっ。痛かったけど、これだけの稼ぎ(撮れ高)があれば大勝利ね!! 右手の治療費なんて誤差だし、特上寿司は『リスナーさんのお奢り(T-bar)』で頼めばいいし!!)」
キュララはカメラに向かって、最高にあざといアイドルスマイルを振りまいた。
「はいはい〜☆ 今日の配信は、辺境の未踏破ダンジョンで聖騎士に変身して、ボスを光速で倒してみた! でした! リスナーのみんな、楽しかったかな? チャンネル登録と、高評価もよろしくねっ!」
「それじゃあみんな! まったね〜〜〜っ★」
ブンッ!
キュララが魔導端末の画面をスワイプすると、空中に浮かんでいたホログラムのコメント欄と、ドローンカメラの魔法光がパッと消えた。
配信終了。
「……ハァ、ハァ、ハァ……ッ!!」
次の瞬間。
キュララは白銀の聖騎士の鎧を脱ぎ捨て、泥だらけのフリル衣装に戻ると、痺れて真っ赤に腫れ上がった右手を抱えて、その場にうずくまった。
「痛ッッッッッッいぃぃぃぃぃぃっ!!! ルナお姉様のバカァァァッ!! なんで第一層の雑魚のヤラセ(ゴーレム)が、帝都の防衛システムより硬いのよォォォォッ!!」
「ふふっ。妹分が『映えたい』って言うから、最高の素材(アダマンタイト級の圧縮木材)を用意しただけよ? ……あとで、ファミレスの『どりんくばー』代、奢ってくれるって約束、忘れないでね?」
ルナが可憐に微笑みながら、優雅に優太たちの元へと戻っていく。
「…………ッ」
優太は、痺れた右手を抱えてのたうち回る天使と、微笑むエルフを見て、激しい胃痛と共に頭を抱えた。
(……やれやれ。伝説の紅竜の次は、ヤラセと詐欺と情報戦のサイバーテロリストのお守りかよ)
不器用な医学生(元教官)の、忌々しい情報化社会の権化(天使)に対する、終わりの見えない面倒見は、まだまだ続くのであった。




