EP 4
赤スパチャ乱舞と、聖騎士の無駄な変身バンク
ズドォォォォンッ!!
ポポロ村近郊のダンジョン第一層。
鋼鉄レベルに圧縮・魔改造された超巨大ウッドゴーレムの丸太のような腕が、石畳を次々と粉砕していく。
「きゃあああああっ!! ピ、ピンチいいっ!! みんなの応援が無ければ、負けちゃうかもぉぉぉっ!!」
逃げ惑う天使・キュララは、魔法のドローンカメラのレンズの真正面に自分の顔が来るように緻密な計算をしながら、大粒の涙をこぼした。
半分はルナの容赦ない魔改造ゴーレムに対する「ガチの恐怖」であったが、もう半分はプロの配信者としての「完璧な演技」である。
ピコンッ!! ピロリンッ!!
彼女のあざとすぎるSOSが魔法通信網に乗って配信された瞬間。
空中に浮かび上がっていたホログラムのコメント欄が、一斉に『真っ赤な帯』で埋め尽くされた。
『うおおおお! 俺たちのキュララちゃんのピンチだ!』
『あんな恐ろしい魔物から、天使を守れ!!』
『ボーナス全部突っ込むぞ! 赤スパチャだ!!』
『【ユーザー名:農家の三男坊】さんが、50,000ゴールドの投げ銭をしました!』
『【ユーザー名:帝都の騎士】さんが、100,000ゴールドの投げ銭をしました!』
チャリンチャリンチャリンチャリンッ!!!
キュララの持つ魔導端末から、滝のような勢いで『金貨が振り込まれる効果音』が鳴り響く。
画面の右上に表示された【本日の投げ銭総額メーター】が、狂ったような速度でギュンギュンと跳ね上がっていく。
「…………は?」
少し離れた安全圏からその様子を見ていた優太は、完全に真顔になっていた。
ワスプ薙刀を構えたまま、自分の目を疑う。
「おい……なんだあの空中の赤い文字の羅列は? つーか、あいつの端末からものすごい額の送金音が鳴り続けてるんだが……」
優太が頬を引きつらせて呟く。
「あれが『すーぱーちゃっと(投げ銭)』よ! 画面の向こうにいるバカな男たちが、キュララを応援するために自分のお金を貢いでるの! ……あーっ! また私の太客だった三男坊が5万ゴールド投げてる! キィィィッ!!」
リーザが悔しさのあまり、自分の魚人族の爪をギリギリと噛みながら地団駄を踏んだ。
(……マジかよ。いくらなんでも狂ってるだろ)
医学生であり、元特殊部隊(SEALs)の教官である優太の常識が、音を立てて崩れ去っていく。
目の前で行われているのは、どう見てもルナが仕込んだ自作自演の茶番である。
しかし、画面の向こう側の数万人のリスナーたちは、完全にそれを『悲劇のクライシス』だと信じ込み、一人の性悪天使を助けるために、数十万円、数百万円という大金を、わずか数秒の間に投げ打っているのだ。
(これが、現代の錬金術……! 剣や魔法で命懸けで稼ぐのが馬鹿らしくなるほどの、圧倒的な情報と群衆の暴力……!)
ある意味で、紅竜よりも恐ろしい『狂気』を目の当たりにし、優太は戦慄した。
***
「(……よっしゃああああああっ!! 今月の投げ銭ノルマ、たった3分で達成ェェェッ!! 特上寿司どころか、帝都のタワマン買えるわこれ!!)」
一方、逃げ惑っていたキュララは、魔導端末のカンストしそうなメーターをチラ見し、心の中でゲスなガッツポーズをキメていた。
「(それにしてもこのゴーレム、硬すぎ! ルナお姉様、絶対わざと私を殺しにきてるでしょ!? もうスパチャは十分集まったし、怪我する前にさっさと終わらせる!)」
キュララはピタッと逃げるのをやめ、ドローンカメラに向かってクルリと振り返った。
その顔から「怯える美少女」の仮面が剥がれ落ち、凛々しい「戦う天使」の顔へとスイッチする。
「みんな、いっくよー! みんなの熱い想い(スパチャ)、キュララが確かに受け取ったからねっ!!」
キュララが天に向かって両手を掲げた。
「――へんし〜〜〜んっ!!」
シャララララララララァァァァァァッ……☆ミ
その瞬間、ダンジョンの薄暗い通路が、目が潰れるほどの『ピンクと金色の魔法光』に包まれた。
キュララの純白の衣装が光の粒子となって弾け飛び、スローモーションのように、彼女の華奢な身体に『白銀の聖騎士の鎧』がパーツごとにガシャン、ガシャンと装着されていく。
背中には光り輝く巨大な天使の羽。手には、宝石が散りばめられた美しき細身の剣。
そして、無駄にウインクと決めポーズを連発しながらカメラの周りを360度ターンするという、およそ実戦ではあり得ない『約30秒間の無防備な変身バンク』が展開されたのである。
「……おい。あいつ、戦闘中に何やってんだ。隙だらけにも程があるだろ」
優太が唖然としてツッコミを入れる。
「ふふっ。大丈夫よ優太。ああいう『魔法の変身中』は、なぜか魔物も空気を読んで攻撃してこないという絶対の法則(無敵時間)があるのよ」
ルナが世界樹の杖をつきながら、クスクスと笑って解説した。
事実、鋼鉄のウッドゴーレムは、眩しすぎる変身エフェクトの前で「お、おう……」と戸惑ったように動きを止め、律儀に変身が終わるのを待っていた。
「みんな、お待たせっ☆ 聖天使騎士キュララ、降臨だよっ!」
シャキンッ! とレイピアを構え、完璧なカメラ目線でキメ台詞を放つキュララ。
スパチャ(金)の力で完全武装したインフルエンサーによる、無駄に派手で、無駄に映える反撃のターンが、いよいよ幕を開けようとしていた。




