第六章 キュララの突撃やらせ生配信
辺境ダンジョン出現! と、迷惑系(?)天使の降臨
紅竜襲来という未曾有の危機を乗り越え、ポポロ村には再び長閑な日常が戻ってきていた。
連日大繁盛のファミレス『ルナキン』の売上によって村のインフラは劇的に改善され、村民たちの顔には笑顔が溢れている。
しかし、ファンタジー世界における『平和』とは、次のトラブルへの短いインターバルでしかない。
「優太! 大変よ!」
ある日の午前中。村の診療所で薬品の調合をしていた優太のもとに、真紅のワンピース(コンバットドレス)を着たキャルルが血相を変えて飛び込んできた。
彼女の背後には、リーザとルナも険しい顔で続いている。
「どうしたキャルル。またルナキンで食い逃げのオークでも出たか?」
「違うわ! 村の北側……『迷いの森』の入り口付近に、突然『未踏破ダンジョン』が出現したの!」
「ダンジョンだと!?」
優太は調合器具を置き、スッと戦術家(元SEALs教官)の顔つきになった。
「ええ。昨日の夜まではただの森だったのに、今朝になったら地下へと続く巨大な石造りの階段と、禍々しい門が口を開けていたらしいわ。村の自警団が少し覗いたんだけど、中から濃密なマナと、魔物の咆哮が聞こえたって……」
「……放置すれば、ダンジョンから魔物が溢れ出して村を襲う危険性があるな。それに、未知の地下空間にはどんな未知の病原菌や有毒ガスが潜んでいるか分からない」
優太は壁にかけてあった漆黒の『ワスプ薙刀』と、防毒マスク、医療キットが詰まったタクティカルバックパックを手早く装備した。
「村の危機管理だ。俺たちで第一層の調査と、脅威度の判定を行う。お前ら、準備はいいか?」
「もちろんよ! 村長として、被害が出る前に対処しなきゃ!」
「ふふっ。新しいダンジョンなら、珍しい魔法薬の素材が生えているかもしれないわねぇ」
「私はお腹空いたから早く終わらせて、ルナキンでハンバーグ食べたいわ!」
三者三様の動機を胸に、優太たち四人はポポロ村の北、迷いの森へと向かった。
***
「……ここか。確かに、嫌な空気が漂ってやがる」
森の入り口にぽっかりと開いた、地下へと続く巨大な階段。
周囲の木々はダンジョンから漏れ出す瘴気によって枯れ果てており、いかにも『危険地帯』という重苦しいプレッシャーが漂っていた。
「キャルル、前衛は俺とお前で固める。ルナは中衛から魔法支援とマナの探知。リーザは後方でバフの準備だ。絶対に単独行動は……」
優太がプロの部隊指揮官として、厳格なフォーメーションの指示を出そうとした、その時だった。
「やっほーーーーーっ☆ 全国、いや全異世界のリスナーのみんなぁ! 見てるぅ〜!?」
「「「……は?」」」
重苦しいファンタジーの緊張感を木っ端微塵に粉砕する、信じられないほど場違いで、底抜けに明るく、そして『あざとい』声が上空から降ってきた。
優太たちがポカンと見上げると、そこには純白の小さな羽を羽ばたかせ、ふわりと空から舞い降りてくる一人の美少女の姿があった。
誰もが振り返るような愛らしいルックス。フリルがふんだんに使われた可愛い衣装。
そして何より異様なのは、彼女の周囲をブンブンと飛び回る『ソフトボール大の浮遊する水晶玉(魔法のドローンカメラ)』と、空中にホログラムのように浮かび上がる『無数の文字(コメント欄)』だった。
『うおおおお! キュララちゃん今日も可愛い!』
『辺境のダンジョン凸配信キタコレ!』
『赤スパチャ投げとくぞ!』
「みんなコメントとスパチャありがとう〜♡ 今日はね、突如ポポロ村っていうド田舎に現れた、未知のダンジョンに突撃配信(ソロ凸)しちゃおうと思いまーす! 再生数稼ぐぞー、おーっ!」
美少女――天使族のキュララ・アルセルラは、カメラに向かって完璧なアイドルスマイルとウインクを決めながら、ピースサインを作った。
「な、なんだあいつ……? ドローンカメラに、ARのコメント欄!? なんで異世界の辺境で、地球のT-チューバーみたいなことやってる奴がいるんだ!?」
優太は信じられないモノを見る目で、眉間を激しく揉んだ。
「あ、あれはルナミス帝国で開発された『広域魔導通信網』を使った動画配信よ! 確か最近、帝国の一部で爆発的に流行ってるって聞いたけど……」
ルナが目を丸くして解説する。
「おっ! こんな辺境にも村人(NPC)がいるね! ちょっとインタビューしてみよっか!」
キュララが優太たちに気づき、ドローンカメラを引き連れてタタタッと駆け寄ってきた。
「そこのお兄さんたち! 今からキュララと一緒にダンジョン入って、配信に映って……」
キュララが営業スマイル全開で話しかけようとした瞬間。
優太の背後にいた魚人族のアイドル、リーザの顔が、信じられないものを見たかのように青ざめ、そして次の瞬間には『般若』のような怒りの形相へと変貌した。
「……あ、アンタはぁぁぁぁぁっ!!」
「えっ?」
リーザはワナワナと震える指で、キュララの顔をビシッと指差した。
「特上寿司女ァァァッ!! 視聴者に貢がせたお金で、いっつもいっつも回らないお寿司を頬張って自慢してた、あの腹黒天使じゃないのよォォォォッ!!」
「……げっ。その貧乏くさいオーラ……。まさか、公園で鳩の餌(パンの耳)を巡ってハトと大喧嘩してた、底辺アイドルのパンの耳女!?」
先ほどまでの完璧なアイドルスマイルが一瞬で崩れ落ち、キュララの口から素の(ゲスい)声が漏れた。
未知のダンジョンの入り口という緊迫のシチュエーションで、ルナミス帝国時代の『最底辺』と『最上位』の配信者による、因縁の再会が最悪の形で果たされてしまったのである。




