EP 2
最悪の再会! パンの耳と特上寿司
「特上寿司女ァァァッ!!」
「パンの耳女ァァァッ!!」
ポポロ村の近郊に突如出現した、禍々しい未知のダンジョンの入り口。
そこは今、剣と魔法のファンタジー感など微塵もない、ルナミス帝国時代の『底辺配信者』と『トップインフルエンサー』による血みどろの煽り合いの舞台と化していた。
「キーッ! アンタあの時、私が三日ぶりの食事で大事に大事にかじってた『パンの耳』の横で、『今日はリスナーさんのスパチャで特上寿司の出前頼んじゃいましたぁ♡ 大トロとろけるぅ〜♡』って、わざとらしく見せつけながら食べてたわよね!!」
リーザが魚人族の鋭い牙を剥き出しにして、キュララに詰め寄る。
「はぁ? 貧乏くさい被害妄想やめてくれる? 私はただ、応援してくれる熱心なファン(財布)の期待に応えて、高級料理のレビュー(自慢)をしてただけだしぃ!」
キュララが鼻で笑い、純白の天使の羽をふんぞり返らせる。
「何よその態度! そもそも、私の数少ない太客だった『農家の三男坊』さんを、あざといDMで引き抜いたのはアンタでしょ!! おかげで私のスパチャ収入はゼロになって、公園のハトと餌を奪い合う羽目になったのよ!!」
「あははっ! 魅力がない底辺アイドルは辛いねぇ! そもそもあの人、私に『キュララちゃんの羽をモフモフさせて!』って5万ゴールドも投げ銭してきたから、ちょっとウィンクしてあげただけだもん!」
二人の罵声が飛び交う中、優太は頭を抱え、キャルルはウサギ耳をペタンと垂らして呆然としていた。
「……おいルナ。あいつら、知り合いなのか?」
優太がヒソヒソと尋ねる。
「ええ。私たちがルナミス帝国で暮らしていた頃、同じ安いシェアハウスに住んでいたのよ。キュララは最初はメイド喫茶で働いていたんだけど、すぐにT-チューバーとして爆発的に売れてねぇ。……廊下に高級寿司の空き箱を置きっぱなしにする、自己中心的な子だったわ」
ルナが呆れたようにため息をついた。
「なるほどな……」
優太は、冷徹な元特殊部隊の教官としての目で、キュララを分析した。
身体能力や魔力は、おそらく大したことはない。
しかし、彼女の周囲を飛ぶドローンカメラと、そこにリアルタイムで流れてくる『うおおお! キュララちゃん可愛い!』『そこの魚女、俺たちの天使に何因縁つけてんだ!』という異常な熱量のコメント欄。
(物理的な戦闘力は皆無に近いが、強力な情報発信力と、狂信的なフォロワー(特定班)という『群衆の暴力』を操るタイプか……。現代戦においては、下手に手を出せば一番厄介な相手だ)
医学生であり戦術家である優太は、瞬時に「物理攻撃NG対象」としてキュララを危険リストに叩き込んだ。
「ねえねえ、そこのお兄さん!」
不意に、キュララがドローンカメラを引き連れて優太の目の前にパッと飛び出してきた。
リーザに向けられていたゲスい表情は一瞬で消え去り、そこには100点満点の「あざといアイドルスマイル」が張り付いている。
「お兄さんたち、これからこのダンジョンを攻略(凸)するんだよね? キュララも一緒についていっていいかなぁ?♡ 可愛い女の子が一緒の方が、テンション上がるでしょ?♡」
上目遣いで、優太の腕に胸を押し当てようとしてくるキュララ。
「……断る。遊びじゃないんだ。ここは未知の病原菌やトラップがあるかもしれない危険地帯だ。素人はすっこんでろ」
優太は一切のデレを見せず、冷たく言い放った。
「えーっ! ひどぉーい! リスナーのみんなぁ、このお兄さん、キュララのこといじめるのぉ……っ!」
キュララがカメラに向かって、嘘泣き(即席)を始める。
ピコンッ! ピコンッ!
空中のホログラム画面に、次々とコメントが滝のように流れ始めた。
『俺たちの天使を泣かすな!』
『おい特定班! この黒服の男の身元洗え!』
『田舎の村ごと炎上させてやる!』
「……チッ。めんどくせぇ……」
優太が舌打ちをした。ここで揉めて特定班に村の情報を嗅ぎ回られれば、ルナキンの運営(莫大な利益)にも支障が出かねない。
「優太様! こんな性悪天使、私が海流一本背負いでダンジョンの底に沈めてやります!」
「待てリーザ。炎上する。……おい天使、ついてくるなら勝手にしろ。ただし、俺たちの指示には絶対に従え。少しでも危険な真似をしたら、即座に追い出すぞ」
「わぁい! さすがお兄さん、優しーい!♡」
キュララはケロッと泣き止み、満面の笑みでカメラに向かってピースをした。
「それじゃあリスナーのみんな! 辺境の未踏破ダンジョン、突撃配信スタートだよーっ!!」
ダンジョン特有の重苦しい空気を、底抜けに軽い配信ノリでぶち壊しながら、キュララは優太たちの前をウキウキと歩き出した。
(……やれやれ。紅竜の次は、サイバーテロリストのお守りかよ)
優太は深いため息をつきながら、ワスプ薙刀を手に、忌々しい情報化社会の権化(天使)の後を追って、ダンジョンの第一層へと足を踏み入れたのであった。




