EP 10
甘いお酒と、創造主の微笑み
「はぁ……はぁ……やった……」
焦げた匂いと土煙が漂うポポロ村の広場。
マッハ1の『電光流星脚』を放ち終えたキャルルは、すべての闘気を使い果たし、真紅のワンピースを靡かせながらその場にへたり込んだ。
「キャルル!」
黒いサバイバル服姿の優太が、ワスプ薙刀を放り出して猛ダッシュで駆け寄る。
「優太……! 私、やったわよ……。ポポロ村、守ったわ……っ!」
「ああ、お前は最高に強くて、最高に綺麗だった。よくやった、村長」
優太がキャルルの小さな体を抱き起こした、その瞬間だった。
「優太様ぁぁぁぁぁっ!!」
「ふふっ、私たちも頑張りましたわよ!」
背後から、歌い終えた魚人族のアイドル・リーザと、巨大魔法を撃ち終えたハイエルフ・ルナが駆け寄ってきた。
そして勢いそのままに、リーザが優太の背中に飛びつき、ルナが優しく優太の腕に抱きついてきたのである。
「うおっ!? お、おいお前ら!」
「もうっ! 優太ってば、キャルルばっかりズルいわ! 私の『戦神の歌』のご褒美のハグも要求します!」
「ええ。エルフの魔力枯渇には、好きな人の温もりが一番効くのよ。……少しこのままでいさせてちょうだい」
右腕には涙目で微笑むキャルル。左腕には密着してくる豊満なルナ。そして背中には全力で抱きついてくるリーザ。
図らずも、村の広場のど真ん中で、ヒロイン3人からの強烈な『ハーレム状態』が完成してしまった。
「お、おい! みんな見てるだろ! つーか重い! 傷口が開く!」
顔を真っ赤にして慌てふためく、不器用な医学生。
しかし、その声はどこか嬉しそうで、ヒロインたちもそれを分かっていて、クスクスと楽しそうに笑い合っている。
災害級の魔物・紅竜の脅威が去り、ポポロ村には再び、騒がしくも温かい『日常』が戻ってきていた。
***
その光景を。
広場から少し離れた、村長宅の屋根の上から見下ろしている一つの影があった。
「……たく。どいつもこいつも、色ボケしちゃって」
この絶望的なクライシス(危機)を指パッチン一つで引き起こした張本人。
芋ジャージ姿の駄女神、いや、『創造主』ルチアナである。
彼女は屋根の瓦に寝転がるようにして腰掛け、手にはぽってりとした陶器の瓶を持っていた。
中身は、最近ポポロ村のルナキンで密かに開発されていた新メニュー――甘くて濃厚な『飲むさつまいも』に、エルフの森の湧き水を混ぜて発酵させた特製の芋酒だ。
「……ん、甘っ」
ルチアナは瓶に口をつけ、とろりとした飲む芋酒をチビチビと煽った。
濃厚な甘みとアルコールが、夜風に冷えた身体をじんわりと温めていく。
「あーあ。せっかく私が、手加減なしの絶望(紅竜)を用意してあげたっていうのに。……あの朴念仁の解剖学と、現金な女たちの意地だけで、完全に制圧しちゃったじゃない」
ルチアナの視線の先では、いまだに優太を巡ってキャルルたちがワーキャーと騒いでいる。
神の用意した試練すらも、彼らは笑いと気合と絆で乗り越えてみせたのだ。
「……あー、つまんね」
ルチアナは、もう一口、甘い芋酒を喉に流し込んだ。
口から出た言葉とは裏腹に。
夜風に揺れる彼女の口元には、自分のお気に入りたちがまた一つ壁を越え、強く、そして幸せそうに笑い合っていることへの、ひどく優しく、慈愛に満ちた『女神の微笑み』が浮かんでいた。
――【第5章:ポポロ村防衛戦と創造主の試練】 完 ――




