EP 9
満月のウサギ! マッハ1の電光流星脚
ドズゥゥゥンッ!
右翼の腱を両断され、ポポロ村の広場に無様に這いつくばる紅竜。
その巨大な顎が、痛みにのたうち回りながらも、憎き人間たちを噛み砕こうと大きく開かれた。
だが、その死に体となった巨竜の眼前に、真紅のワンピースを纏った小柄な影が立ちはだかる。
全身から銀色の闘気を立ち昇らせたウサギ耳の村長、キャルルだ。
彼女の足元では、優太が地球ショッピングで買い与えた『特注のタクティカル・ブーツ』に仕込まれた【電竜石】が、バチバチと激しい青白い火花を散らしている。
「決めるわ! 私の……ポポロ村を汚した事を、後悔させるんだから!!」
キャルルは大地に手をつき、極限まで姿勢を低くした『クラウチングスタート』の構えをとった。
月影流の奥義たる銀色の闘気が、彼女の強靭な両脚へと一極集中していく。
リーザが歌い続ける『戦神の歌』のバフが、その闘気にさらなる爆発的な出力を与えていた。
「グルルガァァァァァァッ!!」
紅竜が最後の力を振り絞り、キャルル目掛けて巨大な牙を剥いて突進してくる。
その瞬間。
ダンッ!!! と、キャルルが地を蹴った。
爆発的な初速。踏み抜かれた石畳が粉々に砕け散り、クレーターを穿つ。
キャルルは闘気を乗せた脚で、瞬く間にトップスピードへと到達した。
1秒、2秒、3秒……加速は止まらない。5秒を超えた時、彼女の周囲の空気が、異常な圧縮の軋みを上げ始めた。
「私は……音速を超える!!」
キャルルが叫んだ直後。
パァァァァンッ!! と、広場の空気を叩き割るような『ソニックブーム(衝撃波)』が弾けた。
物理的な音の壁を突破した電光石火の走り込み。
キャルルはその超音速の勢いを殺すことなく、紅竜の目前で力強く大地を蹴り、天空へと大ジャンプを放った。
空中で体を丸め、前方へと高速で宙返り(前宙)をする。
その時、紅竜が呼び寄せた赤黒い雲が割れ、夜空にポッカリと『満月』が顔を出した。
真紅のドレスと銀色の闘気を纏い、満月を背にして宙を舞うその姿は――まさに、天空から舞い降りた『雷神の月兎』。
「ハァァァァァァッ!!」
宙返りの遠心力と、重力、そして音速の運動エネルギー。
そのすべてに、月影流の全闘気が合わさり、キャルルの両足の『特注靴』へと注ぎ込まれる。
「でええええい!! スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク!!」
紅竜の巨大な顔面に向けて、キャルルが天空から必殺の蹴り(ライダーキック)を振り下ろした。
限界突破した特注靴の電竜石から、凄まじい『紫雷』が極太のレーザーのように放出され、紅竜の眉間へと直撃する。
バリバリバリバリッ!!!
ドガガガアアアアンッ!!!
数万ボルトの雷撃と、マッハ1の物理的質量が完全に融合した、究極の破壊エネルギー。
紅竜の強靭な頭蓋骨が、乾いた音を立てて陥没する。
巨竜の顔面は紫色の雷によって黒焦げに焼き尽くされ、数十トンはある巨体が、ボールのように後方へと吹き飛ばされた。
ズドドドドドォォォォンッ……!!
広場の端まで吹き飛んだ紅竜は、二度、三度と地面を跳ね、やがて完全に動かなくなった。
絶対的な死。災害級の魔物の、完全な沈黙であった。
「……う、美しい……」
少し離れた場所からその完璧な一撃を見届けていた優太は、ワスプ薙刀を下ろし、思わず感嘆の声を漏らした。
魔法使いのチートではなく、鍛え抜かれた肉体と科学(物理法則)が到達した、究極の暴力の美学。元特殊部隊の教官として、そして兵器マニアとして、これ以上なく心を奪われる『完璧な制圧』だった。
「やったわね! キャルル!」
世界樹の杖を下ろしたルナが、満面の笑みで歓声を上げる。
「素晴らしいわ! アイドルのステージの特効(花火)よりもド派手だったわよ!」
『戦神の歌』を歌い終え、荒い息をつきながらもリーザが両手を叩いて称賛する。
「はぁ……はぁ……やった……」
着地したキャルルは、全身の力が抜けたように膝をついた。
真紅のワンピースの裾が、夜風にふわりと揺れる。
彼女は見事に、ポポロ村の平和とファミレスを守り抜き、最強の村長としての務めを果たしたのだ。
激戦の終わり。
土煙が晴れていくポポロ村の広場に、勝利の歓喜が静かに、そして熱く広がっていった。




