EP 7
緑の巨人と、エルフの対空迎撃
「ルゥゥゥゥオォォォォォォッ!!」
上空を旋回する紅竜が、再び大きく息を吸い込んだ。
獲物である矮小な人間どもが、自分のブレスを避けたことに苛立っているのだ。その喉の奥で、先ほどよりもさらに巨大な、村を消し飛ばす規模のマグマの塊が圧縮されていく。
「ちぃっ! 次は広域の熱線か! あの高度から撃ち下ろされたら、バフがあろうと躱しきれねぇぞ!」
屋根の上でワスプ薙刀を構える優太が、歯噛みした。
しかし、その声に焦りはない。彼の視線の先では、ハイエルフのルナが、すでに圧倒的な反撃の準備を整えていたからだ。
「……私の大切な『ふぁみれす』。あそこで飲む甘い果実水と、熱々のコンソメスープの時間を邪魔するなんて……森の精霊たちが、絶対に許さないわ!」
ルナの現金すぎる、しかし絶対に譲れないハイエルフの怒りが爆発した。
ドンッ!!
彼女が両手で握りしめた『世界樹の杖』を、ポポロ村の石畳に力強く突き立てる。
同時に、リーザが歌い続ける『戦神の歌』の黄金のバフが、ルナの体内のマナを極限までブーストさせた。
「応えなさい! 大地の下に眠る根よ、天を衝く枝葉よ! 森の理を超え、今ここに集結しなさい!!」
ルナの詠唱と共に、ポポロ村の周囲を囲む『迷いの森』全体が、まるで生き物のようにざわめき始めた。
バキバキバキッ!! と、地鳴りのような音を立てて、無数の巨大な木の根が石畳を突き破って現れる。蔦が絡み合い、巨木の幹が凄まじい速度で融合していく。
「な、なんだあれは……!?」
優太が目を見開いた。
ルナの背後に現れたのは、周囲の森の植物という植物を圧縮・融合させて創り出された、体高数十メートルにも及ぶ超巨大な『緑の巨人』だった。
その質量と威圧感は、上空の紅竜にも全く引けを取らない。
「す、すごぉい! ルナお姉様、本気だわ!」
トンファーを構えたキャルルが、ウサギ耳をビンビンに立てて歓声を上げる。
「トカゲごときが、私たちを見下ろすんじゃないわよ! ……叩き落としなさい!!」
ルナが世界樹の杖を天空に向かって振り上げる。
それに呼応するように、緑の巨人が、大樹の幹で形成された両腕を大きく振り被った。その手には、巨木の根と岩盤を丸ごと固めて作られた、規格外の『ジャイアントハンマー』が握られている。
「ルガァァァァァァッ!!」
紅竜が、口内に圧縮した極大の火炎ブレスを放とうとした、まさにそのコンマ一秒の隙。
ゴオォォォォォォォォッ!!
緑の巨人が全力で振り抜いたジャイアントハンマーが、空気を切り裂き、竜巻のような風圧を伴って、一直線に上空の紅竜へと襲いかかった。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
大音響と共に、物理的な大質量が、紅竜の顎の下にクリーンヒットした。
いくら強靭な竜の鱗であろうと、数十トンもの圧縮された森の質量が、バフのかかった神速で叩きつけられては無事では済まない。
「ギャァァァァァァァァッ!!?」
紅竜の口内で圧縮されていた火炎のブレスが、衝撃で暴発する。
顎の骨を砕かれ、脳震盪を起こした紅竜の巨体が、完全に飛行のバランスを崩した。
「いよぉぉぉっし! 完璧な対空迎撃だ!!」
優太が思わずガッツポーズを取る。
紅竜は、巨大なコウモリのような翼をバタつかせながらも、重力に逆らうことができず、きりもみ状態でポポロ村の広場へと真っ逆さまに墜落していく。
ズドォォォォォォォンッ!!!
村を揺るがす大地震。
紅竜の巨体が、ルナキンの店舗のすぐ手前の広場に激突し、凄まじい土煙を巻き上げた。
「……ぜぇっ、はぁっ……! どう、よ……。これで、地上戦に持ち込めるわ……!」
ルナが世界樹の杖に寄りかかりながら、荒い息を吐いた。規格外の魔法を使った反動で、緑の巨人もパラパラと枯れ葉のように崩れ落ちていく。
「よくやったルナ! あとは俺たち前衛の仕事だ!」
優太が屋根の上から、土煙の上がる広場へと飛び降りた。
リーザの『戦神の歌』は、いまだに彼らの鼓膜と細胞を震わせ、限界突破のアドレナリンを供給し続けている。
(相手は地上に落ちたとはいえ、伝説の紅竜。硬い鱗と、あの巨大な翼がある限り、いつまた飛び立つか分からない……。なら、狙うべきポイント(急所)はただ一つ!)
医学生であり、元特殊部隊の教官である優太の脳内に、巨大爬虫類の「解剖図」と「制圧マニュアル」が瞬時に展開される。
「キャルル! 俺が先陣を切る! お前はトドメの準備をしておけ!」
「了解よ、優太!」
土煙が晴れ、怒り狂って立ち上がろうとする紅竜の死角へと、黒いサバイバル服の医学生が、ワスプ薙刀を手に神速の踏み込みを見せた。




