EP 3
合法的な撃退と治療! 腹黒エルフの偽金錬金術
「にゃははははっ! 妖精しゃんが飛んでるぅ〜っ!」
ルナキン(ファミレス)の店先で、ルナミス帝国の特別徴税局長ガメッツとその兵士たちが、幻覚ハーブ『ハッピードリーム』によって完全にラリって踊り狂っている。
「……どけ、ルナ。これ以上脳にダメージがいったら、マジで国際問題(薬害テロ)になる」
白衣を羽織り、医療用マスクをつけた優太が、呆れ顔のルナを押しのけて前に出た。
彼の手には、地球ショッピングで取り寄せた『強烈なアンモニア水(気付け薬)』と、ポポロ村で採れた世界一苦い薬草をすり潰した『特製・超苦汁ポーション』が握られている。
「おい役人。妖精さんにお別れの時間だ」
優太はガメッツの鼻先にアンモニア水を突きつけ、同時に無理やり口をこじ開けて超苦汁ポーションを一気に流し込んだ。
「んぐっ!? ……ッッッッッ!!??」
ガメッツのガンギマリだった瞳孔が一瞬で収縮し、顔面が紫、赤、そして青白へと信号機のように変色した。
「ぶばぁぁぁぁぁっ!?」と盛大に咽せ返り、涙と鼻水を撒き散らしながら、強制的に現実世界へと引き戻される。
兵士たちにも次々と気付け薬を嗅がせ、ビンタ(物理)で叩き起こしていく優太。
「ぜぇっ、はぁっ……! き、貴様ら……私に毒を……っ!?」
ガメッツが喉を掻きむしりながら後ずさる。
「毒じゃない、治療だ」
優太は白衣のポケットに手を突っ込み、極めて冷徹な、そしていかにも「権威ある医者」のような低い声で言い放った。
「あんたたち、この辺境の風土病である『幻覚性急性脳炎』に感染していた。放っておけば今頃、脳細胞が完全に溶けて死んでいたぞ。俺の特効薬(クソ苦い汁)で命拾いしたな」
「ふ、風土病……だと!?」
「ああ。ポポロ村の住人は免疫があるから平気だが、都会から来たあんたたちには致死率90%の猛毒環境だ。法律(検疫法)に基づき、直ちにこの村から退去して、帝都で2週間の隔離生活を送ることを強く推奨する」
優太のよどみない医学的ハッタリと、先ほどまで「妖精が見えていた」という恐ろしい実体験が合わさり、ガメッツたちの顔から完全に血の気が引いた。
「ひぃっ……! そ、そんな恐ろしい病が蔓延している村だったのか……っ! た、退却だ! 今すぐ帝都に帰るぞ!!」
ガメッツが尻餅をつきながら馬車に向かって這いずろうとした、その時である。
「あらあら、お待ちになって」
ふわりと。天使のような微笑みを浮かべたルナが、ガメッツの前にしゃがみ込んだ。
彼女の手には、羊皮紙の『書状』と、羽ペンが握られている。
「帝国の役人様。いくらご病気とはいえ、税の徴収にいらしたのでしょう? このまま手ぶらでお帰りになられては、帝国での局長様の立場が危うくなってしまいますわ」
「そ、それはそうだが……しかし命には代えられん!」
「ご安心を。私どもポポロ村は、善良なる帝国の隣人です。要求された『税金』は、しっかりとご用意させていただきました」
ルナはそう言うと、背後に控えていたリーザに合図を送った。
リーザが「よいしょっと!」と、ズシリと重い麻袋をガメッツの目の前に置く。ジャラッ、と中から黄金色の眩い輝きが溢れ出した。
「こ、これは……金貨!? こんな辺境に、これほどの金が……!」
「ええ。ですから局長様、どうかこちらの書状に『ポポロ村からの税の徴収を、確かに完了した』とサインをお願いいたします。そうすれば、すぐにお帰りいただけますから」
ルナの甘い声に誘導されるまま、恐怖と混乱で判断力を失っていたガメッツは、震える手で羊皮紙にデカデカとサインを書き殴った。
「よ、よし! 確かに徴収したぞ! 馬を出せ! 一秒でも早くこの呪われた村から離れるのだ!!」
ガメッツと兵士たちは、黄金の入った麻袋を馬車に放り込むと、逃げるようにポポロ村から去っていった。土煙を上げ、あっという間に見えなくなっていく。
「……おい、ルナ」
馬車が見えなくなった後。
優太は、ルナがひらひらと振っている『徴収完了のサイン入り書状』と、逃げ去った方向を交互に見て、顔を引きつらせた。
「お前……あの麻袋の中に、村の金庫の金を本当に入れたのか? ルナキンで稼いだ、大事な売上だぞ?」
「ふふっ。まさか」
ルナは優雅に微笑み、足元に落ちていた手頃な『石ころ』を拾い上げた。
「エルフの『幻影錬金術』よ。ただの石ころの表面に、マナで純金の光と質感をコーティングしただけ。まあ、もって三日ってところね」
「――――ッ!!」
優太は息を呑んだ。
「三日後にはただの石ころに戻る偽金を掴ませて、大義名分(サイン入りの領収書)だけは完璧にぶん取ったってことか……! お前、マジで悪魔だな!?」
「人聞きが悪いわねぇ、優太。あちらが理不尽な要求をしてきたのだから、少し『夢』を見せてあげただけよ? ハッピードリームみたいにね」
クスクスと笑うハイエルフの美貌の裏に隠された、圧倒的な腹黒さと政治力。
もし三日後にガメッツが「石ころだった!」と騒いでも、こちらには「彼は確かに金貨を受け取ったというサインがある」と主張できる。むしろガメッツが「途中で税金を横領して石にすり替えた」と疑われるという、完璧な罠であった。
「……絶対にお前だけは敵に回したくねぇ」
優太は、エルフの恐ろしさに心底震え上がりながら、そっと白衣を脱いだ。
こうして、ポポロ村の財産と平和は、医学生の(物理的な)治療ハッタリと、エルフの極悪非道な詐欺テクニックによって、無血で守り抜かれたのであった。




