EP 10
12時間耐久ファミレス女子会と、恐怖の長距離伝票
「……よし、メロン水と、アイス珈琲と……最後に、少しだけコンソメスープを混ぜて……完成よ! これが究極の『どりんくばー錬金術』!」
「キャルル、凄い色してるわよそれ……。でも、ポテトフライの塩気には意外と合うかもしれないわね」
外はすっかり日が暮れ、ポポロ村は夜の静寂に包まれていた。
しかし、広場にそびえ立つ『ルナミスキング(ルナキン)』の窓際のBOX席だけは、異常な熱気とカオスに支配されたままだった。
時刻は夜の8時。
今日の午前8時のグランドオープンから、実に【12時間】。
真紅のワンピースを着た村長、魚人族のアイドル(リーザ)、ハイエルフ(ルナ)、そして駄女神の四人は、ただの一度も席を立つことなく、ファミレスのBOX席に居座り続けていたのである。
テーブルの上は、まさに戦場だった。
積み上げられた「からあげ」の空き皿。山盛りの「ポテトフライ」が入っていた巨大な木のボウル。そして、色とりどりの謎の液体が並ぶグラスの群れ。
「でねでねっ! その時、優太が怪我だらけの顔で片膝をついて……『お前を世界一可愛い村長にする』って……っ!」
「ひゅーっ! 言うわねぇ、あの朴念仁! それでキャルルはどうしたのよぉ!」
ドリンクバーの糖分とカフェインで完全にテンションがおかしくなったキャルルとリーザが、無限に『恋バナ』をループさせている。
ルチアナは完全にポテトをかじる機械と化し、ルナに至っては「ふふっ。店内のマナ(コンソメスープ)が尽きるのが先か、私の胃袋が満たされるのが先か……勝負ね」と、一人で魔導ドリンクバーのサーバーと持久戦を繰り広げていた。
***
「……優太様。お、お願いでございます……。どうか、あの方々をお連れ帰りください……っ!」
一方、ルナキンのレジカウンター裏。
ルナミス帝国から派遣された誇り高き店長(エリート商人)が、血走った目で、優太の足元にすがりついて号泣していた。
「魔導ドリンクバーの『氷の魔石』が、オーバーヒート寸前なのです! サイドメニューの在庫も、あと三日で消費するはずだったポテトとからあげが、あの1テーブルだけで全滅しました……! このままでは、初日でルナキンが破産してしまいますぅぅぅっ!!」
「……あいつら、マジで12時間ぶっ通しで食って喋ってんのか」
優太はこめかみをヒクヒクと引きつらせた。
医学生としての常識(カロリーと塩分の過剰摂取)も、元教官としての常識(規律の乱れ)も、完全に限界を突破している。
「店長、すまない。村の代表として、俺が責任を持って『制圧』する」
優太はワスプ薙刀こそ持っていなかったが、全身から『激怒した元特殊部隊教官』のすさまじい殺気を放ちながら、ドスドスと足音を立ててBOX席へと歩み寄った。
「あははははっ! だから優太様ってば……ひぐっ!?」
「いい加減にしろお前らァァァァッ!!」
優太の怒声が、店内に響き渡った。
「ゆ、優太!? ど、どうしたの急に怒鳴ったりして!」
キャルルがビクッとウサギ耳を跳ね上がらせる。
「どうしたもクソもあるか! 外見てみろ、真っ暗だぞ! 12時間もドリンクバーとサイドメニューだけで粘る客がいるか! 店長が裏で泣いてたぞ!!」
優太はリーザの首根っこをヒョイッと掴み上げ、さらに魔導サーバーに張り付こうとしていたルナの襟首を引っ張った。
「ああっ! 私の三十杯目のスープがぁっ!」
「優太様ぁ、離して! まだシメの『ちょこ・ぱふぇ』を頼んでないのよぉ!」
「うるせぇ! 撤収だ! キャルル、ルチアナもさっさと立て! ファミレスはお前らのリビングじゃないんだよ!!」
バタバタと暴れる異世界のヒロインたちを、医学生の膂力(と関節技の知識)で強引に引き剥がし、優太はどうにか四人をレジ前まで引きずり出した。
「はぁ、はぁ……。まったく、どいつもこいつも……。店長、迷惑かけたな。お会計を頼む」
優太が息を切らしながら言うと、涙目の店長が「は、はい……!」と震える手で『魔導レジスター』を操作した。
ジリリリリリリリリリッ……!!
レジから、羊皮紙で作られた『伝票』が吐き出され始める。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ……!!
「……ん?」
優太が首を傾げた。
吐き出された伝票は、優太の足元に落ち、さらに床を這い、まるで巻物のようにズルズルと長く伸びていく。
「な、なんだこの長さは……?」
優太が床に伸びた伝票の端を拾い上げると、そこには目を疑うような印字がズラリと並んでいた。
『山盛りポテトフライ × 35』
『特大からあげプレート × 42』
『粗挽きソーセージの山 × 28』
『魔導ドリンクバー × 4(※12時間延長料金追加)』
「……おい」
優太の声が、地を這うように低くなった。
彼は、顔を背けて口笛を吹いている魚人族のアイドル(リーザ)をギロリと睨みつけた。
「てめぇ……! 俺が『ペースを考えろ』って言ったよな!? なんだこのサイドメニューの異常な連打数は!!」
「だ、だってぇ! ルナキン名物『たっちぱねる』のボタンを押すのが楽しくて……つい、Push!Push!って……♡」
「ふざけんな! これ、オープン記念の割引を適用しても、金貨数枚(数十万円クラス)飛んでるじゃねぇか!!」
優太が絶叫する。
「ま、まぁまぁ優太。村の金庫には、ラスティアちゃんから巻き上げた銀貨が山ほどあるじゃないの」
ルチアナが鼻をほじりながらフォロー(?)を入れるが、優太は白目を剥いて伝票を握りしめた。
「アホか! あれは村のインフラ整備のための公金だ! ファミレスの暴食で溶かしていい金じゃねぇ! ……くそっ、結局俺の『地球ショッピング』の稼ぎ(GP)から補填するしかねぇのかよ!!」
「優太……ごめんなさい……。私、楽しくなっちゃって……」
真紅のドレスを着たキャルルが、申し訳なさそうにウサギ耳をペタンと垂らして上目遣いをしてくる。
「……あーもう! お前がその服でそんな顔したら、俺が怒れないの分かっててやってるだろ!!」
優太はガシガシと頭を掻きむしり、泣く泣く財布を取り出した。
「次は絶対に、制限時間つきの『焼肉食べ放題』にしてやるからなァァァッ!!」
夜のポポロ村に響き渡る、医学生の悲痛な叫び。
村長への最高のエスコートは、結局のところ、底なしの胃袋を持つヒロインたちによる『恐怖の伝票(物理ダメージ)』という、見事なサバイバル・ギャグオチへと繋がったのであった。
――【第4章:ポポロ村ファミレス誘致&虹色孔雀のドレス編】 完 ――




