EP 9
開戦! 12時間耐久ファミレス女子会と、恐怖のタッチパネル
「ルナミスキング・ポポロ村支店、これよりグランドオープンです!!」
村の広場に、エリアマネージャーの高らかな宣言が響き渡った。
魔法の蔦が切られた瞬間、待ちわびていた村人たちや行商人たちが、ワーッと歓声を上げて真新しい店舗へと雪崩れ込んでいく。
「さあ優太! 私たちも行きましょう!」
先ほどまでの感動的な空気はどこへやら。真紅のワンピースを翻し、ウサギ耳をビンビンに立てたキャルルが、優太の腕を引いて店内へと突撃した。
一行が当然のごとく陣取ったのは、ファミレスの特等席――窓際の広々とした『BOX席』である。
ふかふかのソファに腰を下ろした瞬間、サバイバルアイドル・リーザの魚人族特有の鋭い視線が、テーブルの端に置かれた『黒い魔導板』を捉えた。
「……まぁ、これで食べ物が注文出来るのね♡」
リーザは目をギラリと光らせると、誰よりも早くタッチパネルを強奪した。
彼女の指先が、目にも止まらぬ速さで画面上の【サイドメニュー】の項目をタップしていく。
ピピッ! ピピッ! ピピピピピッ!!
「ポテトフライ大盛り! からあげ! ポテトフライ! からあげ! あ、この『山盛りソーセージ』も頼んじゃえ!」
「お、おい馬鹿! 何皿注文するんだ!」
狂ったような連打音に、優太が慌てて身を乗り出す。しかし、かつてルナミス帝国でパンの耳をかじって飢えを凌いでいたリーザの執念は、医学生の制止を容易く振り切った。
「手、手が止まらないわ♡ Push! Push! 全部持っていきなさい、私の銀貨をォォォッ!!」
「お前の金じゃないだろ! 村の(魔王の)金だ!」
リーザが歓喜の悲鳴を上げながらタッチパネルを連打している横で、今度はキャルルとルナが、備え付けのグラスとカップを両手に抱えて『魔導ドリンクバー』から帰還した。
「優太! 見て見て、野菜ジュースが飲み放題だよ!」
キャルルが真紅のドレス姿で、満面の笑みを浮かべながらなみなみと注がれた緑色の液体(野菜ジュース)を掲げた。その瞳は、地球のシステム(無限ジュース)への感動でキラキラと輝いている。
「ふふっ。優太、スープも飲み放題ですわ」
さらにその後ろから、エルフのルナが、優雅な微笑みを浮かべながら『コンソメスープ』のカップを両手で大事そうに持ってきた。
しかし、彼女の席のテーブルの上には、すでに同じスープのカップが【5杯】も並べられている。ハイエルフの底知れぬ胃袋が、無料のスープをロックオンしていた。
「お前ら……!」
優太は頭を抱えた。
BOX席のテーブルは、すでにリーザが召喚した「からあげの山」と「ポテトフライの山」、そしてキャルルとルナが運んできた「大量のジュースとスープ」によって、要塞のように埋め尽くされている。
「おい、ペースを考えろ! 料理もジュースも逃げはしないから! そんなにガブ飲みしたら、全員トイレ直行コースになるぞ!!」
優太の真っ当すぎる(そして医学生らしい消化器系への)ツッコミが炸裂する。
「大丈夫よ優太様! アイドルはトイレに行かないの!」
「そうよ優太。それに、ファミレスのBOX席っていうのはね……女の子同士で、無限にジュースを飲みながら『おしゃべり』をするための神聖な場所なのよ!」
「ええ。世界樹の朝露よりも、このコンソメスープの方が塩分が効いていて美味しいわねぇ」
優太の忠告などどこ吹く風。
キャルルはメロンジュースと野菜ジュースを混ぜるという「ドリンクバー特有の禁忌(錬金術)」に手を染め始め、リーザは両手でからあげを頬張り、ルチアナに至っては「店員さぁーん! 生ビール!」とファミレスで居酒屋ムーブをかましていた。
「……あ、これアカンやつだ」
優太の背筋に、オークの群れに囲まれた時よりも冷たい汗が伝った。
女たちがBOX席に陣取り、ドリンクバーという無限の燃料を手に入れた時。
それはすなわち、男にとって最も恐ろしい時間――終わりの見えない『ファミレス女子会』の開戦を意味していたのである。
「ねえねえキャルル。さっき優太様からそのドレスもらった時、ぶっちゃけどう思ったのぉ?♡」
「えっ!? そ、それは……その……」
山盛りのポテトをつまみながら、リーザがニヤニヤと『恋バナ』の口火を切る。
ポポロ村に誕生したルナミスキングのBOX席で、優太のライフ(と村の予算)を削り取る「地獄の12時間耐久レース」が、今、賑やかに幕を開けた。




