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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第38話 中立の終わり

 戦線は、また静かに燃えていた。


 崩壊ではない。

 突破でもない。


 じわじわと削られる、いつもの形だ。


 アレン・フォルツは、地図を前に立っていた。


 三方面同時圧力。

 敵は大きく動かない。

 だが退かない。


 こちらも、退けない。


「……また、優先順位ですか」


 リーシャの問いは、責めるでもなく、諦めるでもない。


 ただ事実の確認だった。


「いいえ」


 アレンは、静かに首を振る。


「もう、優先順位はつけません」


 それは、以前の「拒否」とは違う。


 逃げではない。


「選ばないことで」

「均衡を保とうとしていました」


「……はい」


「でも」


 彼は地図から目を離す。


「選ばないこと自体が、選択でした」


 沈黙は、中立ではなかった。


 誰かが解釈し、

 誰かが進み、

 誰かが死んだ。


 自分が刃を握らなくても、

 刃は振るわれた。


 それを、ようやく認める。


 通信が入る。


「第十一戦線、圧迫強まる!」

「包囲の兆候あり!」


 以前なら、

 完成するまで様子を見た。


 今は違う。


「退けますか」


 アレンは、短く問う。


「……可能です」

「今なら」


 今なら。


 その言葉に、迷いはなかった。


「退いてください」


 即断だった。


 リーシャが、わずかに目を見開く。


「理由は」


「理由は、いりません」


 アレンは続ける。


「退いていい場所です」


 それだけだった。


 合理性の説明も、

 被害拡大の試算もない。


 ただ。


 退いていい。


 それだけを基準にした。


 通信の向こうで、指揮官が息を呑む。


「……了解」


 命令は、実行される。


 敵は前進する。

 戦線は一歩下がる。


 だが、包囲は完成しない。


 医療区画。


 イリスが、報告を受ける。


「損耗、軽微」

「後送、問題なし」


 彼女は、静かにアレンを見る。


「今回は」

「早かったですね」


「はい」


「基準は?」


「……ありません」


 正確には、ある。


 だが言語化しない。


「退いていい場所かどうか」

「それだけです」


 イリスは、少しだけ笑う。


「ずいぶん、曖昧ですね」


「ええ」


「でも」


 彼は地図を閉じる。


「曖昧じゃないと」

「戦争は、全部を合理化します」


 合理性は、刃になる。


 優先順位は、刃になる。


 沈黙も、刃になる。


 ならば。


 刃にしない線を引く。


 退いていい。

 そこは守らなくていい。

 勝たなくていい。


 それを決める。


 夜。


 敵の攻勢は止まり、

 戦線は落ち着きを取り戻す。


 大きな戦果はない。

 だが、壊滅もない。


 レオニードから、短い通信が届く。


「勝てたかもしれません」


 アレンは、少し考えてから返信する。


「勝たなくていい」


 それが、今の答えだった。


 倉庫で一人。


 アレン・フォルツは、ようやく理解する。


 逃げるとは、

 後ろを向くことではない。


 どこで立ち止まるかを、

 自分で決めることだ。


 選ばないという選択は、終わった。


 これからは。


 退いていい場所を、決める。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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