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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第34話 信奉者の解釈

 第九戦線の撤退判断は、軍内部で静かな波紋を広げていた。


「早すぎる撤退だ」

「いや、被害は最小だ」

「敵の包囲を未然に防いだ英断だ」


 評価は割れたが、結果の数字は悪くない。

 それが、議論を決定づける。


 ――フォルツの判断は、有効。


 その認識が、また一段強まった。


 レオニード・アルヴァは、その報告を読んでいた。


「……なるほど」


 彼は、静かに笑う。


「完成する前に退く、か」


 彼にとって、それは“弱さ”ではない。


「フォルツは」

「無駄な消耗を嫌う」


 それは理解している。


「ならば」


 彼は地図を広げる。


「無駄でなければ、問題ない」


 彼の戦線は、平原地帯。

 敵は正面から圧力をかけてきている。


 包囲の兆候は、ない。

 退路も広い。


「将軍」

「敵の圧が増しています」


「問題ない」


 レオニードは即答する。


「包囲ではない」

「退路は、まだ機能している」


 参謀が慎重に言う。


「しかし、損耗が」

「想定内だ」


 彼は、迷いなく言った。


「フォルツは」

「無意味な死を嫌う」


「この死は、無意味ではない」


 進軍によって得られる戦果。

 敵の士気低下。

 戦線の押し上げ。


 それは、合理的だ。


 撤退基準は、守っている。


 包囲されていない。

 退路はある。

 政治的拘束もない。


「つまり」


 レオニードは、はっきりと口にする。


「進める」


 戦闘は、激化する。


 前進。

 押し合い。

 消耗。


 兵士が倒れる。

 それでも、戦線は押し上げられる。


「将軍!」

「損耗が!」


「退路は?」


「確保されています!」


「なら、問題ない」


 後方拠点。


 アレンは、その報告を受けていた。


「……損耗率が」

「上昇しています」


 リーシャの声が、硬い。


「ですが」

「包囲の兆候はありません」


 アレンは、目を閉じる。


(……基準は、満たしている)


 自分が示した撤退判断の論理。

 それに照らせば、止める理由は弱い。


「フォルツさん」


「……はい」


「止めますか」


 問いは、以前よりも重い。


 止めれば、戦果は減る。

 止めなければ、死者は増える。


 だが、今回は。


(……無駄、か)


 無駄ではない。

 確実に、前進している。


 レオニードの理屈は、間違っていない。


「……様子を見ます」


 その言葉は、慎重だった。

 だが、決断でもある。


 夜。


 報告が続く。


 戦線は、押し上げられた。

 敵は、後退。


 戦果は、明確。


 そして。


 損耗は、想定より多い。


 イリスが、医療区画から出てくる。


「……今回は」


「はい」


「あなたは、止めませんでした」


「はい」


 イリスは、まっすぐに言う。


「あなたの基準は、守られています」

「包囲もない」

「退路もある」


「でも」


 彼女は、言葉を選ぶ。


「死者は、増えています」


 アレンは、数字を見る。


 戦果。

 損耗。

 前進距離。


 合理的に見れば、成功だ。


 だが。


(……基準が、拡張されている)


 自分が示した「退いていい条件」は、

 いつの間にか「進んでいい条件」に変わっている。


 退路がある限り、進める。

 包囲されない限り、耐えられる。


 それは、理屈として間違っていない。


 だが。


「フォルツさん」


 リーシャが、静かに言う。


「レオニード将軍は」

「あなたの思想を、信じています」


 アレンは、苦く笑った。


「信じて、いるんでしょうね」


 だが、それは信仰だ。


 彼は理解した。


 自分の思想は、

 「止めるための理屈」ではなくなっている。


 「進むための保証」に変わり始めている。


 沈黙も。

 撤退も。


 どちらも、都合よく使われる。


 アレン・フォルツは、

 静かに地図を閉じた。


 逃げ道を作ったはずだった。


 だが今。


 その道は、

 前に進むための舗装路になりつつある。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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