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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第32話 優先順位という名の刃

 第七戦線の報告は、王都に届いていた。


 届いた上で、整理され、分類され、評価が付けられた。


 ――戦略的判断の結果、やむを得ない損耗。


 その一文が、すべてを象徴している。


 後方拠点の会議室には、これまでにない緊張が漂っていた。


 前線指揮官。

 補給責任者。

 そして、王都から派遣された監察官。


 アレン・フォルツは、いつも通り端の席に座っている。


「優先順位をつけたのは、フォルツ殿ですね」


 監察官の声は、静かだった。


「はい」


 否定しない。


「一番被害が拡大する可能性の高い戦線を、最優先と判断しました」

「その結果、第七戦線は突破された」


「……はい」


 室内が、わずかにざわつく。


 前線指揮官の一人が口を開いた。


「私は、判断自体を責めるつもりはない」

「だが」


 視線が、まっすぐに向けられる。


「我々は、何を基準に切り捨てられたのか」


 その問いは、感情ではなく、論理だった。


 アレンは、言葉を探す。


「被害の広がり」

「民間人密集度」

「補給線の持続可能性」


「総合的に見て」

「第七戦線は、局地で収束する可能性が高いと判断しました」


「……結果は」


「読み違えました」


 即答だった。


 沈黙が落ちる。


 言い訳は、しない。

 だが、謝罪もしない。


 事実だけを置く。


「王都の評価は、合理的判断だと出ています」


 監察官が淡々と告げる。


「損耗は大きいが、全体崩壊は防がれた」

「国家としては、妥当な決定と」


 その言葉に、前線指揮官の表情が硬くなる。


「国家としては、か」


 小さな声だった。


 だが、重い。


 会議が終わり、人が散っていく。


 リーシャが、静かに隣に立つ。


「評価は、あなたの味方です」

「そうですね」


「でも」

「……はい」


「現場は、そう単純ではありません」


 アレンは、ゆっくりと立ち上がる。


 廊下の先で、数人の兵士が小声で話しているのが聞こえる。


「フォルツの判断らしい」

「合理的だってさ」

「俺たちは、合理的じゃなかったのか」


 責める声ではない。


 だが、刺さる。


 合理的。


 それは、正しいという意味ではない。


 冷たい、という意味にもなる。


 その日の夕方。


 王都から、正式な文書が届いた。


 ――アレン・フォルツの判断を、今後も作戦立案の基準とする。


 制度化。


 完全な。


 バルドの署名がある。


 アレンは、その紙をしばらく見つめた。


「……刃だな」


 小さく呟く。


 優先順位という名の刃。


 振るえば、誰かが切れる。


 振るわなくても、誰かが切れる。


 イリスが、医療区画から出てきた。


「あなたの判断で」

「助かった人もいます」


「でも」

「切られた人もいます」


 彼女は、まっすぐに言う。


「それが、刃です」


 アレンは、否定しなかった。


 沈黙していれば、刃は見えなかった。


 だが、優先順位をつけた瞬間。


 自分の手に、それは握られている。


 夜。


 倉庫で一人、地図を広げる。


 もう、逃げ道を作るだけでは足りない。


 優先順位をつけるということは、

 「守らない場所」を決めることだ。


 アレン・フォルツは、

 静かに息を吐いた。


 合理的。


 妥当。


 国家として正しい。


 そのすべてが、

 人間として正しいとは限らない。


 それでも。


 刃は、手放せない。


 手放した瞬間、

 もっと鈍い刃が、無差別に振るわれるのを知っているから。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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