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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第31話 選ばれなかった戦線

 報告は、一通だけ遅れて届いた。


 他の戦線の報告が、すでに整理され、評価され、

 「持久成功」「被害軽微」と書かれていく中で。


 その一通だけが、机の端に残されていた。


 アレン・フォルツは、しばらくそれを開けずにいた。


(……分かってる)


 読まなくても、内容は想像できる。

 優先順位をつけた時点で、結果は決まっていた。


 それでも。


 逃げ切れはしない。


 封を切る。


 文字は、淡々としていた。


 ――第七戦線、防衛失敗。

 ――敵部隊、突破。

 ――市街地へ侵入。


 指先が、わずかに震える。


 続く行。


 ――民間人被害、確認中。

 ――後送路、寸断。


(……ああ)


 選ばれなかった戦線。

 それは、切り捨てられた戦線だ。


 アレンは、椅子に深く腰を下ろした。


 そこへ、リーシャが静かに入ってくる。


「……届きましたか」

「はい」


 短いやり取り。

 それだけで、十分だった。


「現地から」

「生存者の報告が」


 リーシャは、言葉を選びながら続ける。


「全滅では、ありません」

「……それは」


「ですが」

「逃げ遅れた人が、多い」


 希望とも絶望ともつかない情報。


 アレンは、目を閉じた。


(……俺が、選んだ)


 自分でそう言った。

 一番被害が広がる場所を、優先すると。


 だが、それは裏を返せば。


 一番被害が広がらないと判断した場所を、後回しにしたということだ。


「医療班が」

「入れないそうです」


 リーシャの声が、少しだけ揺れる。


「敵が、市街を押さえています」

「……そうですか」


 言葉が、やけに軽く聞こえた。


 頭が、追いついていない。


 しばらくして。


 イリスが、医療区画から顔を出した。


「……フォルツさん」

「はい」


「第七戦線から」

「負傷者が、まだ来ていません」


 その意味を、誰も説明しなかった。


 説明しなくても、分かるからだ。


 救えなかった。

 近づけなかった。

 間に合わなかった。


「あなたの判断が」

「原因だとは、言いません」


 イリスは、はっきりと言った。


「でも」

「結果として、ここに人はいません」


 医療区画の空きベッドが、やけに目に入る。


 本来なら。

 本来なら、誰かがここに運ばれていたはずだ。


 生きていれば。


「……すみません」


 アレンの口から、自然に言葉が落ちた。


 誰に対してかも、分からない謝罪。


 イリスは、首を振った。


「謝らないでください」

「謝られると」


 少し、言葉を詰まらせる。


「理由が、分かった気になってしまう」


 それ以上、彼女は何も言わなかった。


 夕方。


 王都への正式報告がまとめられる。


 第七戦線の項目は、短かった。


 ――局地的突破。

 ――現在、再編中。


 民間人被害については、未確定。

 別紙。

 後日精査。


 アレンは、その書式を見つめる。


(……切り捨てる、というのは)


(……こうやって、整理されることなんだな)


 感情は、入らない。

 悲嘆も、後悔も、不要だ。


 ただ、記録される。


 夜。


 倉庫で一人、灯りを落とす。


 優先順位をつけた。

 合理的だった。

 必要だった。


 それでも。


(……選ばれなかった)


 その事実だけは、消えない。


 アレン・フォルツは、

 初めてはっきりと理解した。


 逃げ続けてきた結果、

 **自分は、切り捨てる側に立っている**のだと。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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