第27話 退けない場所
その戦場は、最初からおかしかった。
地形は、悪くない。
補給路も、繋がっている。
敵の配置も、想定の範囲内。
――戦える。
前線の指揮官たちは、そう判断した。
だが、アレン・フォルツは、地図を見た瞬間に違和感を覚えた。
(……逃げられない)
直感だった。
論理よりも先に、嫌な感覚が走る。
「ここは」
「民間人区域が、近すぎる」
地図の端。
戦場のすぐ裏に、街がある。
「撤退すれば」
「……巻き込む」
リーシャが、低く言った。
「はい」
「それも、大量に」
退路自体は、存在する。
道も、灯りも、準備してある。
だが。
(……使えない)
退けば、街に敵が流れ込む。
その瞬間、民間人は盾になる。
撤退=虐殺。
それを、敵は分かって配置している。
「フォルツさん」
「……」
「止めますか」
その問いが、今までと意味を変えていた。
止めれば。
戦わなければ。
だが、敵は街を使って前進する。
被害は、避けられない。
進めば。
撤退できない。
消耗戦になる。
死者は、増える。
(……選択肢が、ない)
アレンは、初めてそう感じた。
「……判断を、保留します」
言葉が、かすれる。
前線では、戦闘が始まった。
敵は、深追いしない。
だが、退かせない。
常に、街の方向へ押す。
「将軍」
「退路が、機能しません!」
「分かっている」
指揮官の声には、焦りがあった。
「だが、退けない」
「ここで退けば、街が――」
通信は、途中で切れた。
アレンは、歯を食いしばる。
(……これが)
(……殺される、ということか)
夜。
負傷者の報告が、次々と届く。
撤退は、していない。
出来ない。
準備した灯りも。
整えた道も。
すべてが、無意味だ。
「……フォルツさん」
イリスが、疲れ切った顔で言った。
「今回は」
「退路が、死に道です」
その言葉が、胸を刺す。
「逃げ道が」
「人を殺す」
沈黙が、場を支配する。
誰も、アレンを責めない。
だが、誰も救われてもいない。
翌朝。
戦線は、かろうじて維持されていた。
だが、代償は大きい。
民間人にも、被害が出た。
退いていないのに。
それでも。
アレンは、瓦礫越しに街を見る。
(……俺は)
(……何を、準備してきたんだ)
逃げるための道は、
逃げられる前提があってこそ意味を持つ。
その前提を、敵は壊した。
アレン・フォルツは、
初めてはっきりと理解した。
**準備するだけでは、救えない。**
そして。
沈黙は、
もはや中立ではなかった。
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