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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第26話 逃げ道を殺す設計

 その報告書は、三度読み返す価値があった。


 敵国中央戦略局。

 静まり返った執務室で、エルンスト・カイゼルは紙束を机に広げている。


 戦果。

 損耗。

 撤退回数。


 どれも、凡庸な数字だ。

 だが、配置図だけが異様だった。


「……美しいな」


 誰もいない室内で、そう呟く。


 撤退路が、常に複数。

 夜間灯の配置。

 後衛に回される部隊の質。


 すべてが一貫している。


「英雄ではない」

「だが、愚かでもない」


 エルンストは、指で地図をなぞる。


 敵軍は、無理をしない。

 決定的な勝利を狙わない。

 だが、壊れもしない。


 原因は、はっきりしていた。


「フォルツ」

「アレン・フォルツ」


 個人名を、あえて口にする。


 だが、彼が注目しているのは人物ではない。


「思想だ」


 即断しない。

 撤退を前提に準備する。

 最悪を想定し、最悪を避ける。


 その結果、戦線は長引く。

 兵は死ににくくなる。

 だが、戦争は終わらない。


「合理的だ」

「そして、脆い」


 エルンストは、ペンを取る。


 紙に、大きく一文を書く。


 ――撤退できるから、前に出る。


 フォルツ思想の核心。

 それは、希望だ。


 逃げられると思うから、人は踏み込む。

 最悪でも、生きて帰れると信じるから。


「なら」


 エルンストは、迷いなく続ける。


「逃げられない状況を、作ればいい」


 それだけだ。


 単純で、残酷で、効果的。


 彼は、新しい地図を広げる。


「民間人区域」

「補給中継点」

「政治的象徴」


 撤退不能条件を、次々に書き込む。


「ここで退けば、民間人が死ぬ」

「ここで退けば、補給が全滅する」

「ここで退けば、王国は政治的敗北だ」


 戦場を、戦場以外の要素で縛る。


 撤退=敗北ではない。

 撤退=破滅にする。


「フォルツは」

「判断を遅らせる」


 エルンストは、冷静に分析する。


「だが、遅らせる余地がなければ」

「沈黙は、無意味になる」


 彼は、部下を呼んだ。


「次の戦線」

「この設計を使う」


 部下が、わずかに顔を歪める。


「……民間人が、巻き込まれます」

「当然だ」


 即答だった。


「戦争とは、そういうものだ」


 だが、その声には感情がない。

 残酷さを楽しんでいるわけでもない。


 ただ、最適解を選んでいるだけ。


「目的は」

「敵を殲滅することではない」


「フォルツ思想を」

「無効化することだ」


 それが出来れば。


「敵は、迷う」

「迷えば、壊れる」


 エルンストは、最後にもう一度、報告書を見た。


 そこには、撤退に成功した記録が並んでいる。

 生き延びた兵の数。


「……いい準備だ」


 だが。


「準備できない戦場を、用意する」


 それが、次の段階だ。


 エルンスト・カイゼルは、ペンを置く。


 戦争を、終わらせるつもりはない。

 勝利すら、目的ではない。


 ただ。


 **逃げ道を、殺す。**


 それだけで、十分だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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