56.空間神との戦い 2
飛翔魔法と加速魔法を駆使し空をめちゃくちゃな挙動で駆けまわる僕に、追従するようにして黒い球が現れては消える。
黒い球が消えた後には例外なく真空が生まれる。ただでさえ体に負荷がかかる動きをしているのに、空気がそれを埋め尽くす際に発生する風が飛翔をさらに難しくしていた。
「――クソッ!火球!」
「ふん、そんな魔法なぞ効かんわ!」
隙を見て、発動の簡単な低級の魔法を撃ちこむも、見えない壁に阻まれてウォルトには届かない。
攻撃を通すためにはより強力な魔法を撃ちこむか、見えない壁に干渉するかしなければならないが、ウォルトの息を突かせぬ連撃にそんな暇もない。魔力を練る時間どころか、じっと一点を見る暇ですら与えてくれなかった。
「……ちっ、ちょこまかと。――『分断』」
「――!?」
左右前後上下の六方向に気配を感じ、それが直接的な攻撃でなかったこともあり思考が一瞬停止する。
はっと我に戻った時にはもう遅い。高速で飛行していた僕の体が目に見えない壁にぶつかった。
目の前には見えない壁、六方にも同じもの。
囲まれた。そう判断した次の瞬間目の前の壁を壊すために魔力を生成する。
「光槍っ!?」
「――無駄だ」
なぜか追撃はなく、故に膨大な魔力を要した強力な魔法が放たれる。
しかし、無傷。
空間が破れる様子もなく、何か穴が開くこともなく、壁に沿って大きなエネルギーが発散され消えた。
龍神にさえ効果を発揮した魔法が、全く損傷を与えられなかった。その事実に僕は動揺する。
そして
「――そして、これで終わりだ。……『黒球』」
なぜ追撃がなかったのか。少し考えればわかることだ。
僕が魔力を高めて強力な魔法を撃ったように、相手も同じことをしようとしていたのだと。
空間を消滅させるほどの魔法をポンポンと打ってくる彼が、さらにためを必要とするような魔法。例えば、より広範囲に影響を及ぼすような魔法。
「まさかっ――」
僕を中心とした範囲数十メートル。今までよりはるかに広い範囲に膨らんだその魔力。周りは破れない壁に挟まれて必死。
万事休すかと全身の鳥肌が立ち、イチかバチか脱出を試みて最大火力の加速魔法を使おうとした瞬間。
――黒い球が顕現する直前、壁を作っていた魔力が霧散し、僕の体は空に投げ出された。
危機一髪、出現した黒が僕の下半身を食らいつくす。が、脳は無事。
咄嗟に錬金魔法で仮の下半身を作り出し、必死の思いでそれを上半身とつなげる。応急処置もいいところだが、時間をかければ元に戻るだろう。
脳を失わない限りは、死ぬことはない。しかしじりじりと体力や気力を奪われ、不利な状況になるのは間違いない。
「……再生能力もあるのか。今のは取ったと思ったのだがな」
「こっちもやられたと思ったよ……」
本音が思わず口から出た。今のは壁が消えていなければ、確実にやられていただろう。
逆に言えば、ウォルトはあの壁を解除する必要があったということだ。壁を消さなければ勝てたのだから、わざわざ解除するということは、なにかしらの理由があるということだ。
それは二つの種類の魔法を使えないという理由ではないだろう。ウォルトは壁で魔法を防ぎながら黒い空間を僕に放ってきたのだから。
(とするとあれは、空間を消す魔法じゃない……?)
黒い球なり平面なりが空間を消し去る魔法なのであれば、壁を消し去る必要はない。
考えられる可能性は、壁が黒い空間を防いでしまうから。
封じ込めるのと守るのは表裏一体。ウォルトも壁を守りに浸かっていたことだし、それが僕に適応されてもおかしくはない。
「……っく。情報が足りない!」
僕の特殊魔法を知っているわけでもないだろうが、ウォルトは解析をする隙を与えてくれない。
対特殊魔法の戦いを熟知しているということだろうか。
ともかくこのままではじり貧。ちょうどよく加速魔法のせいで彼方へすっ飛んでってる最中であるし、このままウォルトと距離をとって――
(いや、距離をとるのはむしろまずい!?)
相手の力は未知数、ロングレンジであの黒い球を出せるというのであれば、僕の魔法が届かない場所から一方的に攻撃をくらう。
そう思ってピタッと空中で止まる。追撃が来るようなのであれば急いで戻る必要があるかもしれないと思った瞬間。
「――逃がすと思うか?」
目の前数十メートルに、宙に浮くようにしてウォルトが現れた。
強敵が距離を無視して追ってくる。
絶望を感じる場面なのであろうが、いや実際に少し恐怖を感じはしたのだが、僕はそれ以上に助かったと安堵した。
「逃げる」手段が有効だと判断して。
「……目視か、それに準ずる距離を保つ必要がありそうだな。その黒い攻撃は」
「さあ、どうだかな」
ロングレンジで攻撃できるのならば、ウォルトがわざわざ転移してくる理由もない。とすれば硬度無視防御無視の黒い攻撃は、近くの空間にしかできないのだろう。
これでまた一つ、敵の能力の制限が分かった。
同じことを何回か続けて、敵の能力を丸裸にする。これはそう言う戦いだ。
「とぼけても無駄だね。そうでないとお前が転移してくる理由がない」
「……例えばそれが本当だったとして、それが何になる。私は転移が可能、逃げたというのなら同じように追えばいいだけだ」
「言ってろ。丸裸にされてもなお同じことが言えるかな?」
とはいえ能力の相性が悪いのも、不利な状況なのも確か。
苦しい戦いになりそうだと僕は今日何度目かの舌打ちをした。




