57.空間神との戦い 3
――相変わらず反則な能力だ。
目の前で繰り出されるウォルトの特殊魔法に、エレーナはそんなことを思う。
彼が能力を使って戦うところは久しぶりに見たが、一向の衰えがない。防御無効攻撃無効の能力を持つ彼を、どうやったら倒せるのだろうか。
少なくとも真正面から戦える相手はいないのではないかと、エレーナは思う。
(……いや、龍神とは戦って負けてたか。それに……彼も戦えてはいる)
木々の間をうまく飛び回りウォルトの猛攻を避け、攻撃が途切れた瞬間に発動が短くすむ――しかし無視できない魔法を放ち応戦するエル。
初動の逃げ回るだけだった彼とは違い、ウォルトの魔法にも段々と適応しているように思える。
木々の間を飛び、自分の位置を隠す。
硬度無視で貫通してくる攻撃を放つウォルトには効果が薄いように思えるが、しかし逆。どうやったのかは知らないが、ウォルトの多次元操作は目視の範囲内のみ可能だということを理解したのかもしれない。
(まあこうやって私が補佐してる限りは、そうでもないんですけどねぇ)
今回の討伐で直接戦闘力の乏しいエレーナに任されたのは、ウォルトの能力の補佐。具体的に言えば、敵の位置や魔法を使う細かい調整などだ。
ウォルトの能力は扱いに難しい。遠い昔に特殊魔法を手に入れた彼であってもその能力を十全に使うことなどできない。
ここまでぽんぽんと魔法を連発できているのも、彼女のサポートがあってのものだった。
とはいえ、恩人を手にかけたくはない。少しずれた座標を報告するにとどめているのではあるが。
(……少し隙が生まれれば、彼と接触できる?)
出発前に手は打った。この戦いを長引かせることが出来れば、ウォルトは彼を討伐する大義名分を失う。
エレーナが望んでいる戦いの決着としては、どちらもやられることなくウォルトが引いての引き分け。
それを彼に伝えることが出来れば、成功する確率は軍と上がるだろう。ついでにウォルトの能力を限定的にばらすこともやぶさかではない。
(彼に大魔法を撃ってもらって……それで私の『隠蔽』で身を隠す)
今自身にのみ適応させている彼女の特殊魔法は、他人に対しても付与することが出来る。至近距離で戦いを見ていてもエルにすら気づかれない万能さだ、当然ウォルトにも気づかれることはない。
そう考えたエレーナは、いまだ飛び回るエルを対象として『通信』を使った。
◇◆◇◆
「……ぉ」
突然頭の中に大量の情報が流れ込み、体が一瞬硬直する。
その隙をウォルトが見逃すはずがなく、しかしなぜか体から一つずれたところに黒球が現れ足首が消された。
相手が攻撃をはずしてくれた幸運に感謝しつつ、僕は再び体を加速させた。
(……それにしてもなんだ?さっきのは)
テレパシーのように音が聞こえない声のようなものでもない。ただ一瞬のうちに、今まで知らなかった情報を理解させられた。音ではなく概念で。
送られてきたことは大きく分けて三つ。
協力者――鑑定神の存在。そして、彼女が僕の敵ではないということの説明、そして三つめが
(ウォルトの攻撃を数秒止めるから、その間に大魔法を撃ちこめ、か……)
鑑定神というのは聞いたことがある。聖人となったアリシャの主。アリシャを魔獣から助けてくれた神だと彼女が言っていた。
天界に僕が亜神だということがばれたのはアリシャつながりで鑑定神のせいだと思っていたが、違うのだろうか。
流れ込んできた情報によれば、協力するのは龍神の攻撃から僕が彼女を守ったからだというが、心当たりもないしなんとも嘘くさい。ウォルトと協力していて僕を罠にかけようとしていると考える方が妥当だ。
(まあでも、ウォルトの攻撃を止めるメリットは敵側にはない。その後には特に何もしろとは言われてないし……)
仮にこの話に乗ったとしても、僕がやらなければいけないことは隙だらけのウォルトに一発食らわせるだけ。デメリットはどこにもない。
ならば言うとおりにした方が良いだろうか――
そう考えたところで、さっきからずっと追従していた黒球の生成が止まる。
「――なぁ!?……おい!エレーナ!?」
「話は本当みたいだな……」
動揺を口にしたウォルトに対し聞こえないように呟くと、僕は現段階で持ちうる最高の魔法を準備する。
すなわち龍神のブレス。
大量のエネルギーをただ解放するだけの魔法にして、魔法弱化の鱗を持っていた龍神自身ですら耐えることのできなかった最強の攻撃。
僕を中心として周囲から集まる魔力の高まりに、ウォルト息をのむ。
「――まさか、壊劫の――ッ!?」
慌てて回避行動をとろうとするウォルト。
今日初めての回避、どんな魔法を撃ちこんでもびくともしなかった壁だが、さすがに龍神のブレスには耐えられないのだろうか。
暢気にもそう思った次の瞬間。
――魔力が僕の手を離れ、光があたりを包み込む。
木々はなぎ倒され、地面は抉れ、小爆発が幾度と起こる音が聞こえてくる。
そんな地獄の様相の中。
「……あなた、やっぱりとんでもないわね」
ずっと近くにいた鑑定神をやっと知覚した。




