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45.天界よりも

 地上、冒険者ギルド会館前。

 レライエを討伐した捜索隊一行は第三層を抜け、冒険者ギルドへと戻っていた。

 多数の死者が出ることもなく捜索終了。冒険者たちは討伐が成功したことに喜び、ほっと一息をついていた。

 しかし


「――っ!どうしてですか!!」


 アリシアの心中は全くの逆。目の前の頑固な老人に、怒りと焦りの入り混じった感情をぶつけていた。


「すぐに捜索隊を編成してください!!エルが、第三層でそう長く生き延びられるとは思えません!」

「しかしな、アリシア。高ランク冒険者たちは遠征で疲れておる。もう一度行くとなれば相当の準備も必要じゃ。時間をおいて……」

「それでは遅すぎます!……では私だけでも!!」

「それはならん。まだ彼らの目的の悪魔が潜んでいる手前、単独行動を許すことはできん」

「しかし!」


 地上に戻り捜索隊全体の負傷者確認などを行ったところ、エルが帰ってきていないことにアリシアは気づいた。

 知った瞬間、アリシアは一人で迷宮に戻ろうとしたのだがヴェイペールが止め、それからずっとこの問答が続いている。


「……たかが、と言ってはあれだがただの冒険者一人ではないか。なぜそこまでこだわる?」

「――っ!……エルは私、の……」


 アリシアはヴェイペールの質問に言葉を詰まらせる。

 聖人は人類の護り手、特定個人に対する感情を持つことはあまり好ましくないと考えられている。

 アリシアがエルのことを「大切」だと言ってしまえば、もしかしたら引き離されてしまうかもしれないという考えがあったからだ。

 


「……一人であっても、救うべき冒険者には違いありません。助けに行くべきです」

「じゃから、捜索隊を出さんとは言っていない。ただ、物事には優先順位というものがあってじゃの……」


 ヴェイペールはそう言葉を濁す。

 彼にとっても冒険者を半ば見捨てるという選択肢を選ぶのは聖人として許容しがたいのだろう。その負い目が、アリシアに強い反論ができないことの原因となっていた。


「……レライエが探していた悪魔。それがどれほどの脅威なのかわかってからじゃ」

「分かったら行かせていただけるのですか?」

「場合によってはじゃな」


 ぎりっ、っと。アリシアは歯を食いしばる。

 

作戦の一環でとらえた数名の悪魔から、彼らの目的が一人の悪魔の捜索だということが分かっている。その名前はレライエのかけた呪いに邪魔をされ聞き出すことに難航しているが、解呪を専門とする聖人の力で探っている。

レライエは侯爵級だった。今回はアリシアとの相性が悪かったために簡単に倒せたが、本来はもっと苦戦してもおかしくない。それでも自分が負けるとは思っていないが。

では侯爵級が隊を率いてまで追う悪魔はどれほどの者だろうか。仮にレライエよりも階級の高い悪魔であったのならばアリシアでも荷が重い。

単独行動などもってのほかだと、アリシア自身も分かっていた。


分かっていたのだが、しかし――


「……わかりました。そう言うことなら……」

「……アリシア?」


 耐えられなかった。

 幼い時自分を守りおとりとなったエルの姿が、思い出される。死んだと思って、でも奇跡的に生きていた大切な幼馴染。

 このまま命令に従い、結果エルとまた会えなくなってしまったら。

 一度失ったものをまた失うことの恐怖に、アリシアは耐えられなかった。


(命令違反になっても……)


 聖人の権限は、その主の神の権力に左右される。

 アリシアの主の序列は第七位。ヴェイペールの主や議会の権限よりも上なので、「ヴェイペールを最高責任者に据える」という命令を無視できる。

 ただ、無視できるというだけで無視していいというわけではない。

仮に命令違反があった場合、秩序を乱したということで何らかの罰は免れないだろう。


「……少し外で、頭を冷やしてきます」


外に出て、ヴェイペールが気づかない間に救出まで終える。

 ばれなければそれでよし、仮にばれても仕方がない。今は罰を受けることよりも、命令を破ることよりも、何よりもエルの安全が心配だ。

 一度失い、そして取り戻すことのできた幼馴染の命が。

 

 聖人となって初めて命令よりも感情を優先させる。天界よりも、エルを優先させる。

 場合によっては天界に背を向けるのも辞さないと覚悟を決め、ギルドの受付に通じるドアをバンッ!と勢いよく開けると――



「――やっぱりひどくないですか?僕死にかけたんですよ?」

「い、いや。エルさんなら大丈夫かなーって」


 受付嬢に詰め寄っている、エルがいた。



久々に更新しました

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