35.班分け
「大体集まったようですのでこれより説明をさせていただきます!」
冒険者ギルドに隣接する訓練場。
あふれかえるほどにたくさん集まった冒険者たちが、声を出したギルド職員に注目する。
冒険者たちはいずれもD級以上の中、高ランク冒険者。
その面持ちは、数多の危機を乗り越えてきた頼もしさがあると同時に、これから行われる作戦に対しての不安が見て取れるものもいた。
僕はそんな緊張した群衆の端の方に、一応、と連れてきたクロを連れて立っていた。
「今日、冒険者ギルド、そしてこの街の合同で特殊依頼が出されることとなりました。依頼の内容は、皆さん知っての通り、迷宮内に潜む悪魔の捜索です」
職員が発した言葉に、何人かの中級冒険者がぶるりと身震いをする。
事前にわかっていたとはいえ、「悪魔」という存在は人類にとっては明確な悪。
おとぎ話でも語られるほどの邪悪な存在に、潜在的な恐怖を感じてしまうのも仕方がない話ではあった。
しかし僕は、そんな彼らとはまた別の意味での恐怖を、焦燥感も混じった恐怖を感じていた。
(結局悪魔の討伐はできずじまいか……。時間もなかったし仕方がないっちゃないんだけど。……侯爵級に、王級だったか。絶対神様案件だよなあ……)
それは神の降臨に対する恐怖。
あれからクロの訓練やらアリシャの襲来やらいろいろなことがあって、思うように悪魔討伐ができなかったのだ。
もちろん完璧にできていても終わったかどうかはわからないが。
とにかく不完全のまま悪魔を狩りつくし、場を荒らしてしまったことは否めない。
ここまで来たら、公爵級の悪魔が見つからず、そしてとらえられた悪魔が情報を漏らさないように祈るしかない。
(……はは、祈るって言ってもなあ。神が来ないのを神に祈れ、ってか?)
半ば自嘲するようにそう考えると、僕は前に立っている職員の話に意識を戻す。
職員は悪魔の説明や目撃情報、予想脅威などを話し終えると、冒険者たちの集まりとは離れたところにいる聖人たちに、視線を移した。
「――そして今回、この依頼に関して教会に要請をしたところ、六名の聖人様を送っていただきました。うち四名、ヴェイペール様、リオネル様、ランジリオ様、アリシア様が皆さんのサポートをしてくださいます」
右に立ってる老人がヴェイペールで、横の若いのがリオネルとランジリオだろうか。
そんなことを考えながら聖人たちを見ていると、ふいにアリシアと目が合った。
向こうもこっちに気づいたのかアリシアの表情が満天の笑顔へと変わり、小さく手を振ってきた。
とたんに周りの冒険者が「今のは俺に」「いや俺を見て笑ったぞ」などとざわめき始める。
「うぇ……」
いや、手を振ってくれること自体は決して嫌なわけではないのだが。
時と場所をわきまえて行動してほしい。
ただでさえアリシャは、なぜか人気のある聖人なのだから。
クロも僕と同じ考えに至っていたのか、苦い顔をしてアリシャの方を見ていた。
それか、もしかするとここ最近のアリシャの行為を思い出していたのかもしれないが。
「――それでは全体の確認はこれで終わりです。続いて各層ごとの隊に分かれ、詳細の説明を行います。右から、第一層から順に集まってください」
職員は近くに立っていた別の職員から資料を受け取り、班割りを読み始める。
てっきり僕はパーティーごとに行くものだと思っていたが、どうやらギルドの方で決めた班割りで行くらしい。
「――第三層は第一班から第五班までが担当となります。第一層はヴェイペール様、ルビヨン様、……」
なるほど、見ていると最高ランクの冒険者たちが第一層に導入されているようだ。
S級A級の名前なんて知らないが、この前ギルドマスターの部屋で見た冒険者たちが呼ばれている。
まあ考えてみれば当たり前だが、強いものから順に下の階層にあたらせているのだろう。
(そうすると僕は第一層か……)
安全なところに、と頼んでおいたこともあるし、十中八九そうなるであろう。
第一層の悪魔は大体全滅させたし、また新たに来ていない限りは楽になりそうだなと思いながら次々と呼ばれる高ランク冒険者たちを眺めていたその時。
「――そして第五班は、アリシア様、シードル様、エレン様、エル様です」
「……は?」
第三層へと向かう五班。
あり得ない所で、僕の名が呼ばれた。
「えーっと、これは……」
困惑しながら集結しつつある第三層担当冒険者たちの集まりを向くと、アリシャが満面の笑みで手招きしているのが見えた。
僕一人のために進行を滞らせるわけにはいかないので、とりあえずクロと一緒にアリシャたちの元へ行くと、アリシャが嬉しそうに僕の手を取った。
「ねえエル!一緒だったね、頑張ろう?」
「一緒だったって……ねえアリシャ、なんかしたでしょ」
「えっ、え?えーっと、なんかっていうのは?」
「僕の班とか、僕がどこに行くとか。……ほらやっぱり」
アリシャの慌てた様子を見て、僕は予想を確信に変える。
D級の僕が第三層に行くだとか、それもアリシャと同じ班だとか、あまりにもできすぎている。
ぐるっとギルド職員の方を向くと、ルネさんが両手を合わせて深々と頭を下げた。
見たところ、アリシャが何かしらの圧力を上にかけたのだろう。
こんなのでも一応は聖人、冒険者一人の配置なんて簡単に変えられる。
こんな稚拙な策、ばれないとでも思っていたのだろうか。
「はぁ……、言い訳は?」
「だってだって、エルが悪魔退治に行くっていうんだもん!自分で低級冒険者だって言ってたのに!」
アリシャが唇を尖らせて少し怒ったように言う。
「で、どうせ危険なところに行くなら私が守ってあげようと思って!私のそばにいればもう安心だよ!」
「……もっと危険なところに誘い込んだのはそっちだけどな……」
聖人らしからぬ私的な答えだったが、しかし僕には大体予想できた答えではあった。
ここ最近のアリシャの行動のおかげ、いや、せいだ。
過剰なまでに僕を心配するその気持ちが、ここ数日の間にどれだけのトラブルを生み出したか。
そのせいでクロもアリシャがすっかり苦手になってしまい、今も僕の陰でじっとアリシャを睨んでいた。
「……お楽しみのところ悪いんじゃが、話し合ってもいいじゃろうかな、アリシアよ」
僕たちの言い合いの隙をつくようにして、呆れたような老人の声がする。
第三層捜索隊の責任者である老聖人、ヴェイペールのものだ。
その言葉に、アリシャがすみませんとヴェイペールに頭を下げる。
高位の聖人であるアリシャが素直に頭を下げる存在などめったにいないのだが、どうやらこの聖人、今回のまとめ役のような役割らしく、アリシャも頭が上がらないらしいのだ。
もちろん僕の方に異論があるわけもなく、同じく頭を下げると、話し合いが始まった。




