23.異常事態
「なんでこんな大仰なことしたんですか!もっと他にやりようがあったはずですよね!」
「い、いや……」
クロの気持ちが落ち着いてから。
なぜか僕は、正座させられて説教を受けていた。
「見てください、周りを。あんなに鬱蒼としていた森が、こんなになっちゃったんですよ?」
そう言ってクロが手であたりを示す。
魔法によってえぐられてむき出しになった地面、そしてその外側には爆風でなぎ倒された木々や、元がなんだかわからない炭化した塊、天井から落ちてきた岩などが転がっていた。
その様子はさながら隕石の落下後のようで、クレーターはできてはいなかったものの周囲一帯は更地と化していた。
「でも、こうでもしないと僕が亜神だって信じてもらえないような気がして……」
「それにしたってやりすぎです!というかゴブリンを撃退した辺りで、もう薄々気づいてましたよ!」
「え?あ、そう」
「そうです!」
だったら、僕としても別にこんなことをしなくてもよかったのだと思う。
別にアースドラコンに恨みがあったわけじゃないし。
全く反省した様子のない僕を見て、クロが諦めたようにため息をつく。
「はあ、まあいいです。……それでご主人様はこのことを隠していらっしゃるんでしたよね」
「うん、そうだよ。だからクロには秘密を守ってもらわなくちゃ」
「私は大丈夫ですが……、だったらこの状況はどうするんですか?馬鹿でもここで何かがあったって気づきますよ、これでは」
「うーん、どうしようかなあ」
実を言うと、森を破壊するような大きな魔法は使わないつもりだったのだ。
ただ、ドラゴンがブレスを撃とうとしていたことに対抗したのと、あとはノリでたくさんの光弾を作ってしまったこともあってか、意外にも大きな被害が出てしまった。
予想では、木が数本なくなる程度だったのに。
「うーん、アースドラゴンのブレスのせいってことで収まらないかなあ」
「どうでしょうか。ブレスの後といわれれば納得できないこともないんですが、ドラゴンってめったなことがないとブレスを撃ちませんからね。このエリアにそんな都合のいい魔獣がいますか?」
いない。
そもそもアースドラゴンは長い間主として降臨していたのだ。
それの存在を脅かすものなど、ここ二層にも、そして三層にもめったにいない。
だが幸いなことに、最近になってよく目撃される不確定因子があることに僕は気づいた。
「……悪魔。悪魔がいたってことにしとけばいいんじゃないかな。実際二層にもいたし、ドラゴンに対抗する存在としては、ちょうどいいでしょ」
「悪魔ですか。それはいいかもしれませんね。彼らならアースドラゴンにブレスを撃たせても不思議はありません」
「よし、じゃあそうしよう。それじゃあ僕たちは、ここの外縁から悪魔らしき影を見たってことにしよう。そしたら勘違いしてくれるはず」
幸いにして奴隷でも嘘は付けるようだ。
ぼろが出てはまずいので、口裏を合わせるようにクロと詳細を決める。
「――まあこんなとこかな」
「これで安心ですね!……でも、もうこんなことはしないでくださいね。もし亜神だってばれたくなかったら」
「まあね。もっとスマートに方法もいっぱいあるし。ゴブリンの時みたいな」
「あれはあれで衝撃的でしたけどね……。死体を見た人は、どうやって倒したのかって不思議に思いますよ」
「ああそう?じゃああれもダメか」
予定も終わって、あとはもう帰るだけという状況に安心していたのだろうか。
クロも慣れたようで、僕たちは雑談をしながら帰路についた。
◇◆◇◆
ギルドに帰ると、そこは喧騒の中にあった。
いつもと比べ物にならない数の冒険者たちでにぎわい、ギルドの役員たちが慌ただしく作業をしたり、冒険者たちから話を聞いたりしている。
「……なに?これ」
明らかに普通ではないギルドの様子に、僕は戸惑う。
訳も分からずしばらく突っ立っていると、冒険者たちの群衆の中から見知った顔が近づいてきた。
イサークたち三人だ。
「久しぶりですね。……そちらは前に言っていた奴隷の方ですか?」
「ああうん。クロっていうんだけど、荷物持ち用にね」
クロは黙って何も言わずに僕の後ろに立っている。
奴隷という自分の立場に遠慮しているのだろうが、別にかしこまらなくてもいいのになと思う。
「それでこの騒ぎは何?僕今来たばっかで状況を読み込めていないんだけど」
「ああ、そうでしたか。……私たちも詳しいことはわからないのですが、先ほど四層の攻略に行っていた合同パーティーが帰ってきたのらしいのですが……」
「そいつらがアースドラゴンが倒されたのを見たって言っててな」
「え!?アースドラゴンって『針森』の?」
「そこ以外にないだろ。三層にはいないし、四層もあんな場所だからな」
「まじか……」
だろ、とテオが同調の声を上げるが、もちろん僕の驚きはアースドラゴンが倒されたということに対してではない。
倒されたという報告が、あまりにも早くされたためである。
流石はこの街トップレベルの冒険者たちというべきか、僕たちよりも早く帰ってくるなんて想定外だ。
振り返ってみるとクロも驚いた表情をしている。
「あー、それで騒がしさか。それにしてもなんでこんなに冒険者が?」
ギルドの役員たちが忙しそうにしているのはわかるが、と疑問に思う。
しかしイサークが何を言っているのかと言うように答える。
「それは攻略組が帰ってきたからに決まっているじゃないですか。彼らは私たち冒険者の誇りですからね」
「いやーすごかったよな。S級冒険者なんてめったに見れないけど、明らかに別格だってわかるもんな」
「ん、魔力量も、すごかった。あれは人外レベル」
「あーなるほど。そういうことか」
三者が三様に、攻略組への称賛を口にする。
僕にはよくわからない感覚だが、冒険者たちにとっては攻略組はあこがれの対象なのだろう。
彼らの間ではこの街トップレベルの冒険者である彼らは、それこそアイドルのような存在になっているのだ。
「ただ、彼らでもアースドラゴンは敬遠するらしいですからね。それを倒した存在。……いったい何者なんでしょうね」
「……そのことなんだけど、もしかしたら僕、知ってるかもしれない」
あまりにも早すぎるとはいえ、一応は予想してあったこと。
用意してあった嘘を使うべきだ。
「それはどういう……」
「実は今日アースドラゴンのいるあたりに近づいたんだけど、そっちの方向に、悪魔が居たんだ」
「また悪魔ですか……」
「そう、前見たのよりももっと強そうなやつ。だからもしかしたら、アースドラゴンはそいつと戦ったのかもしれない」
「……それはギルドの人に言っておいた方がいいかもしれませんね。ちょっと待っててください。今呼んできます」
そう言ってイサークが、受付の方に走っていく。
僕が自分で行くからいいのになと思いながら待っていると、少ししてルネさんを連れて帰ってきた。
「エルさん、悪魔を見たって本当なんですか?」
開口一番、ルネさんがそう問いかけてくる。
よほど忙しかったようで、息を切らせていた。
「はい、アースドラゴンの方に向かっていく悪魔を。姿形は遠くだったので詳しくはわからなかったんですが」
「わかりました。……ちょっと話を聞きたいので、一緒に来てもらってもいいですか?」
そう言ってルネさんはギルドの奥へと向かっていく。
イサークたちに一言言ってから、僕とクロもその後についていった。




