22.アースドラゴン
クロが意外と頑張って歩いてくれたおかげで、昼も過ぎないうちに目的地に着いた。
第二層最深エリア、「針森」
針の葉を持つ植物がいたるところに生えているこのエリアは、その環境の厳しさから第二層を活動場としている冒険者に、そして第三層を攻略できる冒険者にとっても敬遠される場所となっている。
あるいは魔獣のレベルの高さや、この地にいる「主」の存在が原因なのかもしれないが。
到着と同時にエリア内、直径数キロほどの空洞の内部を探知する。
「さて、このエリアには……人はなし、っと」
ということは、僕がこのエリアで何をしようが誰の目に留まることもない。
好都合だ。
「よし!じゃあ行こうか」
「えっと、どこに行くんですか?」
「んー、どうしよっかな。まあ適当に歩いていれば、来てくれるよ」
「来てくれる?」
「そうそう」
首をかしげるクロだが、言葉通りなのでそれ以上の説明のしようもない。
ぴょんっと乗っていた岩山から飛び降りて、数メートル下にある地面へと着陸した。
「クロもおいでー!怖がらなくていいから!」
「えぇ!?」
いまだに岩の上にいるクロに呼びかける。
何か速度減衰をするための補助具なしで飛び降りろというのも無茶ぶりだが、これからの冒険をするにあたってこれぐらいには慣れておいてほしい。
これが何でもないかのように、気軽に手招きをする。
「うぅ……えい!」
クロは若干ためらったようだが、ついに目をつぶりながらジャンプする。
すかさずクロに魔法をかけて、落下の速度を遅くする。
「んぅ……、あれ?」
ふわっと着地したクロが、予想していた衝撃がなかったなのだろうか、おかしな声を上げる。
よほど怖かったのであろう、ひざはがくがくと震えていた。
まあ紐なしバンジーをしたようなもんだから、それも仕方ないか。
「大丈夫?」
「はい……、今のは魔法ですか?」
「……まあそんな感じ。これから飛び降りたり、逆に壁を登ったりすることもたくさんあるから、慣れておいた方がいいと思うよ」
「えぇ……本当ですか……」
沈んだ声を出すクロ。
無重力状態になるのに慣れていないのか、どうも浮遊感が苦手なようだ。
僕はジェットコースターとかで感じたことはあったけど、この世界にはそんなものもない。
感じたことがないのは当たり前か。
少し歩いて、ふいにそれの魔力が探知に引っかかる。
「……さっきさ」
「はい?」
突然話し出した僕に、クロがきょとんとした声を上げる。
「あれ、魔法っていったけど。ちょっと違うんだよね」
「……さっきのって、岩山から下りた時ですか?それともゴブリンの時?」
「どっちも。もっと言えば、クロの腕を治したのとかベッドを作ったのとかもかな」
「……」
僕の口調に真剣さを感じたのか、クロがごくりとのどを鳴らす。
「神様が使うっていう、不思議な魔法のこと、知ってる?」
「特殊魔法のことですか?」
「そうそう。知ってるんだったら話が早いけど……、来たか」
言葉を続けようとしたところで、急に影が僕らを覆う。
トカゲの体に蝙蝠の羽を付けたような、十字にも見える大きな影。
そして威嚇にも似た怒りの咆哮が、上から鳴り響いてきた。
「まさか……」
クロがか細い、震えた声を出す。
現れたのはこのエリアの主、他のエリア、そして第三層からの魔獣の侵入でさえも許さない、圧倒的強者。
下界最強種中の一つ、アースドラゴン。
危険度がB級を超える、危険な魔獣だ。
アースドラゴンがその大きな翼を広げながら、僕たちの前に静止する。
岩を思わせるごつごつとした顔に埋もれるようにしてついている小さな二つの瞳は、憤怒の表情を浮かべながら僕を見据えていた。
「ご主人様……、逃げ」
「大丈夫、大丈夫。まあ見ててって」
僕の涼し気な様子にクロが言葉を飲み込む。
それもそのはず、ドラゴンを呼んだのは僕なのだから。
探知をしたときに殺気をとばし、怒らせたのだ。
口を開きながらブレスをためるドラゴンを眺めながら、僕はいくつもの光弾を作り出す。
「……それで、僕はどうやら亜神、らしくって。その特殊魔法とやらを持ってるんだよね。それが」
僕の言葉に反応したわけではないだろうが、ドラゴンがブレスを発射しようとしたその時。
「解放」
僕も光弾を、ドラゴンに飛ばした。
――閃光。
圧倒的な魔力を秘める魔法が一瞬のうちに解放された弊害で、あふれ出したエネルギーが光と、そして熱となって放出される。
アースドラゴンのあたりを中心として爆発が起き、爆音が二度、あたりに鳴り響いた。
僕の魔法とがドラゴンに当たった音と、制御者を失ったブレスが暴発して空洞の天井を抉った音だ。
降り注ぐ土塊や舞い上がる土煙を防ぎながら、僕は縮こまっていたクロに話しかける。
「……僕の特殊魔法。どう?僕が亜神だって信じられた?」
しかしクロは、耳と目をふさぎながら縮こまったまま。
「……おーい、クロ。もう終わったよ」
話しかけても反応しない。
結局もう大丈夫だということを知らせて安心させるまで、クロは反応を返してくれなかった。




