表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/133

17.奴隷商館



 冒険者ギルドなどが存在する街の入り口付近から大通りを進んでいくと、町の中心付近にある商店街に着く。

 その中でも一際目立つ豪華な建物、奴隷商館の前に来ていた。


「冒険者ギルドもすごかったけど、これは想像以上だな……」


 広大な敷地内にはいくつもの建物が乱立しており、その中には刑務所を思わせるような作りのものもある。

 奴隷を収容しておくための建物なのだろうか、監視所のようなものまで付いていた。


「ここまでとなると、もうちょっと服装とかしっかりしとけばよかった……」


 僕の格好は迷宮に潜るときとほぼ同じ、いつもの魔法使い風のローブだ。

 ちなみに杖はまだ買っていないために、はたから見たらおかしな魔法使いになっていることだろう。


 いつまでも躊躇していても仕方がないと思い、目の前にある扉を開けて中へ入る。

 すると、入ったと同時に声がかけられた。


「いらっしゃいませ、ようこそ奴隷商館へ」

「え?ああ、はい」


 突然の挨拶に動揺してしまう僕。

 というのも、「いらっしゃいませ」という挨拶を聞くのが久しぶりだったためだ。

 接客の態度が悪い――といってもこの世界においては標準的なのだが――店にしか行ったことがなかったのでかけられることもなかったのだが、そこからもこの奴隷商館の位の高さが分かる。

 何をすればいいのかもよくわからなかったために、とりあえず受付へ進む。


「えっと、奴隷を買いたいと思うのですが……」

「奴隷のお買い上げですね。少々お待ちください、案内の者を呼んでまいります」


 受付はそう言うと、奥の扉へと消えていく。

 そして少しも待たないうちに、中年の男性が僕へと向かってきた。


「こんにちは。私イェータと申します。どうぞよろしくお願いします」

「あ、どうも。僕はエルです」


 初手からへりくだった姿勢を見せるイェータ。

 長いことこの仕事をやっているのか、その動きもどこか慣れているような気がした。


「エル様は奴隷をご所望ということで。それではこちらへどうぞ」


 そう言って歩き出したイェータの後を、着いて歩く。

 独房のようなところへ向かっていることから、ここは自ら奴隷を選ぶ制度らしい。


「えっと、エル様は冒険者でいらっしゃいますよね?となるとご希望は戦闘奴隷ですか?」


 唐突にイェータが振り返り、話しかけてくる。

 ローブだけで冒険者だと見抜いたことに少し驚くが、今までにたくさんの冒険者も見てきたからだろうと納得する。


「えっと、そういうわけでもないんですよね。予算の関係もありますし、まあ……」


 奴隷であれば何でもよかったのだが、そう言うと変なものを売りつけられそうで怖い。

 どう説明したらいいもんかと考えていると、その様子を見たイェータがどこか納得した様子を見せる。


「ああ、そういうことですか。それではこちらの方ですね」

「え?はあ……」


 何やら勝手に納得されたようだが、別にこちらとしては何でもいいわけで。

 特に弁解もせずについていった先にあったのは、いくつもの部屋が脇につけられている通路だった。


「こちらの奴隷でしたら、戦闘奴隷よりも値は張りません。それに、冒険者の方もたまに使われることがありますので……」

「そうですか……」


 冒険者が使うからなんだ、とも思ったが、口には出さない。

 そのままイェータの後について、檻の中を見ながら進む。


「こちらの女性は、奴隷になったばかりでございまして、お買い得となっております。こちらの女性は、経験が豊富だという噂でして。こちらは、元々商人の娘でしたので……」

「ふーん……」


 イェータのセールストークを聞き流しながら、目の死んでいる奴隷たち、たまにキラキラした目を向けてきていた人を見ながら進んでいると、あることに気付く。

 それは


「……女奴隷ばっかじゃない?」

「おっと、これは失礼。男性の方をお求めでしたか?」

「いや、まあそういうわけじゃないけど……」

「そうでしょうとも、心配なさらなくても任せていただければいいんです」


 分かってますよと言わんばかりの顔を向けられて、何も言えなくなってしまった。

 まあ男と女、どっちがいいと聞かれたら女の奴隷の方がよかったので、いいか。

 家事全般とかよくやってくれそうだし。


「……亜人の奴隷も見せてもらってもいいですか?」

「ああ、エル様はそちらの方をお求めで。なるほど、それではこちらへどうぞ」


 また変に納得されたようだが今度も無視してついていく。

 来た道を戻って地下に潜ったその先には、さっきまでのと比べるとかなり小さな部屋が並んでいた。

 中にあるものもみすぼらしいものになっている。


「……さっきのと待遇が違いすぎない?」

「まあ亜人でございますから。これでも体調の管理などはしっかりと行っているのでご安心ください」


 そういうことを言っているのではないけれど、まあここで僕が口出ししても変わるはずがない。

 思うだけにしておく。


「亜人の方になりますと、こちらのとかはおススメですね。魔力量が少し多めでして、魔法の補助なんかもできると思います。こちらは戦闘経験が少しだけあるものでして、冒険の方の使用も期待できるかと。こちらは……」


 再び始まるセールストークに若干のうるささを覚えつつ、檻の中を見て回る。

 獣人といえば勇者パーティーにいたあの猫耳の子ぐらいしか見たことがなかったのだけれど、こうして眺めてみるといろいろな種類がいるのが分かる。

 犬、クマ、キツネ、ネズミ……。

 獣人によって持っている能力とかも違うので、そこのところも選ぶ要素の一つでもあるな。


 なかなか決められずに奴隷たちを見て回っていると、ついに通路の端までたどり着いた。


「――。最後にこれですが、あまりお勧めはできませんね」


 そう言われて、考え事に取られていた意識を檻の中へと戻す。

 するとそこには

 

 ――悲惨な状態の、奴隷がいた。


 歳は今までで見た中でも一番幼く、まだ小さい女の子。

 すべてお諦めきった目をしている彼女には、そうなる原因となったであろう特徴があった。

 それが


「右腕が……」


 なかったのだ。


 応急処置はなされてたのか包帯がつけられてはいたが、血がにじんでいるのが見えるために相当な痛みがあることが分かる。

 しかしもう慣れてしまったのか、少女は床にぺたんと座り込んで身動き一つしない。

 うつろに空を見つめながら壁にもたれかかっている姿は、もう死んでいるといわれても納得できるぐらいだった。


「この前ここに来たお客さんにやられましてね。手を出した彼女に向かって、遊び半分で魔法を撃ったんですよ。亜人の奴隷には多いんですよ、こういうの。本当にやめてほしいですね」


 大切な商品が壊されたことに対する文句を言っていたイェータだが、そこに怒りの感情は見えない。


「まあこの子自体も魔力量がひどく少ないもんですから。もともと商品にもならなかったんですがね。この子はまあ、近いうちに処分される見込みなんですよ」

「処分、ね……」


 殺されるのだろうか。


 こんな小さな子が奴隷という地位に落とされて。

 ただ魔力量が少なく生まれたというだけで商品にならないとまで言われて。

 亜人というだけで人間より蔑まれて、遊び半分で腕を落とされ。

 挙句の果てに売れないから殺される、と。


 亜人というだけで、魔力量が少ないというだけで。

 たったそれだけで家族と離されて、奴隷にされて、傷をつけられ、殺される。

 なんて救いのない人生なんだろうか。


「……そういうのは、ひどく嫌いだな……」

「え?今なんとおっしゃられましたか?」

「いや、なんでも」


 心の声が口に漏れる。

 イェータには不審に思われたようだが、そんなことは別にどうでもよかった。


「よし、決めた。この子を買うことにするよ」

「え!?これをですか?買われても先は長いとは思えませんが……」

「別にいいさ。そんなことはわかっている」


 見た感じだと腕を切り落とされてからずっとあの包帯を巻き続けていたのだろう。

 傷から黴菌が入っているだろうし、合併症も起こりまくっているようだが、死んでいない限りはある程度は魔法で治せる。


「わかりました。それでは諸々の手続きがありますので、契約のすり合わせを別室で行いましょう。こちらへ」

「ん、あの子は?」

「奴隷に関しては、汚れていますので体を洗った後に連れてこさせます」

「そう、じゃあ早くね」


 今一番心配なことは魔法をかける前に死んでしまうこと。

 イェータとしても僕の気が変わらないうちに契約を済ませたかったのか、僕らは速足で部屋へと向かっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ