15.報告
あれから急いで街へと戻り、冒険者ギルドに駆け込んだ僕たち。
受付にいたルネさんに、説明をしている。
「悪魔!?それは、嘘ではないんですよね?」
「はい。ちらっとだけでしたが、見間違えるはずもありませんよ」
「そうですか、悪魔……」
ルネさんはしばらく考え込むと、僕だけに聞こえる声で囁く。
「(それはあなたから見ても、逃げ出した方がいいと思えるぐらいの?)」
「(ええ。あれにはとても。ただの雑魚悪魔でもなさそうでしたよ)」
「(そこまで……)」
そんなに強い悪魔とも思えなかったが、ここは精一杯誇張しておく。
討伐に赴く冒険者のレベルを上げ、話す間もなく瞬殺してくれた方がありがたいからだ。
「……わかりました。その件についてはこちらの方で確認し、討伐隊を編成することにしましょう。それでは依頼の報告を」
まだここで判断を下すことができないのだろうが、そう言うとルネさんは悪魔の話を中断させる。
報告自体は悪魔以外ではあまりなかったので、イサークが二言三言説明しただけで終わった。
「それではありがとうございました。依頼は達成、ということで。これでテオさんとルイさんは昇級試験を受けられますね」
ルネさんのその言葉にテオとルイが喜びの表情を浮かべる。
冒険者のランクを上げるために必要な昇級試験、それはギルドへの貢献度が一定以上ないと受けられない。
テオとルネは、実力があっても貢献度が少なかったために昇級できなかった、という状況だったのだろう。
ということは、こんな効率の悪い依頼を受けようと思ったのはそれが原因だったのか。
「エルさんは貢献度が溜まったので、手続きをしていただければすぐにでもE級に上がれますよ」
FからEに上がるためには昇級試験は必要なく、貢献度のみでよいらしい。
この依頼の前にも魔獣を狩ったりしていたから、十分な貢献度があったのか。
「どうします?今すぐにしちゃいますか?」
「うーん、それって結構かかります?」
「いえ、すぐですよ。ただ腕輪を作るのに一日かかっちゃいますけど……」
「それじゃあ……」
そう言いかけてイサークたちを振り返る。
待たせてしまうのは悪いかなと思ったのだが、別に大丈夫らしく、手を振ってこたえてくれた。
「……お願いします」
「わかりました。ちょっと待っていてくださいね」
そう言い残すとルネさんは書類を取りに部屋から出ていく。
ばたん、とドアが閉まるのを聞いたとたん、テオがふう、と息を漏らした。
「いやー、こういうのって疲れるな。それにしてもまさか悪魔がいるなんて……。俺も一目見たかったなあ……」
「そんなに生半可な気持ちで出会ったら、すぐに死んでしまいますよ。なんたってあのエルが逃げるレベルですから」
「まあ、そっか。82以上だもんなあ……」
「え!?」
ちょっと待った。
「レベル82以上って、もしかして僕の?」
「え、ええ。ルネさんから……。もしかしてばらしてはまずいことだったんですか?」
「まあ、いいけど……」
レベルぐらいならばれてもいい。
僕のそれは異常といえるぐらいではないし、強さもそれに依存しているわけではないからだ。
「エル以上っていったらもうA級とか、S級とかしか対処できないんじゃねえか?」
「そうですね……。今この街にいるS級っていったら、『疾風』と、『水帝』と……」
二つ名、と言ったものなのだろうか聞き覚えのない名前ばかりが上がるが、その中に一つだけ聞いたことのあった名があった。
それが
「……あ、今はシードルさんもここにいるんでしたっけ。エレンさんと一緒に。彼も確か、S級でしたよね」
「シードルって、あの……」
邪龍として勇者パーティーと戦った時にいた、フルプレートの戦士。
エレンは後ろに立っていた、気が弱そうなエルフのことだったけか。
「ご存知でしたか。ちょっと前までこの街にいた勇者様のパーティーの。まあ今は、元、と付けるのがいいのかもしれませんが……」
「元?」
「ああ。なんか勇者様とシードルさんの間に何かあったらしくてな。シードルさんが追い出されたとかなんとか……」
「へえ……」
まああの時もうまく連携が取れてない風だったし、喧嘩でもして仲たがいしたとか何だろうか。
というか勇者たちってちょっと前までこの街にいたのか。
全く逆に向かったつもりだったけど、いつの間にか同じ方向に行っていたようだ。
とりあえず、ばれる可能性もないと思うけど、シードルとはなるべく会わないようにしておこう。
ガチャリ、と音がしてドアが開き、ルネさんが現れる。
「お待たせしました。こちらにもろもろを……」
そう言って一つの紙を差し出す。
見た感じ欄も少なめだしこれならすぐに終わりそうだ。
「名前っと……悪魔って結構やばかったりします?」
暇だったのでルネさんに話しかける。
「そうですね……実を言うと、迷宮内で悪魔の目撃情報って結構あるんですよ。それも信頼できる情報です。まあ、二層でってのは初めてですが。……もしかしたら、上位種の存在があるかもしれません」
「上位種!?それって……」
隣で聞いていたイサークが驚きの声を上げる。
「ええ。……爵位持ち、あるいは魔神の関与もあるのかも。今後大規模な討伐隊を組むことも考えておりまして」
「ってことは神様に依頼を?」
「ええ、まだ証拠が集まり切ってないので何とも言えませんが……。そうなりますね」
いつの間にかおいてかれていた僕に、ルネさんが説明を加えてくれる。
「亜神、もしくは神獣の討伐は基本的に神様に依頼しているんですよ。私たち人間じゃかないようもありませんから」
「え?それは勇者でも、ってことですか?」
「亜神、ならもしくは人類の総力を挙げればあるいは。ですが神獣はどうしようもありませんし」
「まあでも神獣ってもう今は魔神と、龍神しかいないけどな。……あ、そういえば龍神はつい最近倒されたんだっけ。魔窟近くで」
「へえー……って、え!?」
何気なく聞いたテオの言葉に、衝撃を受ける。
魔窟近くで倒された……、龍神、龍の神……。
その様子に、ルネさんがいぶかしげな声をかける。
「どうしました?」
「あ、いや、その龍神って白くて、長くて、目が六つあったりします?」
「おお、よく知ってますね。直接見たことはありませんが、そのような姿だったと……」
確定だ。
魔窟にいたあの巨龍が、あのバカみたいな強さだった龍が、神獣だ。
「(まじか、どうしよう……)」
これで神様に狙われる理由もわかる。
僕はいつの間にか、神獣を倒して亜神になっていたらしい。
「……神獣って強いんですね……」
「ええそれは。神様ですらおいそれと手を出せないらしいですからね。あれにかなうのは最高神様方ぐらいですから」
「さいですか……」
驚きに頭が回っていない僕に、さらに追い打ちをかけるルネさん。
そうですか、僕は最高神と同じぐらいになっていたんですか……。
「まあ今回は、最高神様に出張ってもらうぐらいにはないと思いますが。……これ秘密ですよ。冒険者たちに不安を与えるわけにもいけませんし」
「わかりましたよ。これはここだけの話ということで」
秘密の割にはすらすらとしゃべっていたようだが、そういうことなら話さないでおこう。
「それで、書けました?エルさん」
「え?あ……」
龍神の話に持ってかれて、いつの間にか書くことを忘れていた。
僕は茫然としていた気持ちをいったん落ち着けると、再び手を動かし始めた。




