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13.ゴブリンの巣



「……エルっ!」


 突然の出来事に驚いて突っ立っていたルイを押しのけて、テオが手を差し伸べる。

 しかしそれはもうすでに遅く、エルの姿は闇へと呑まれていった。

 次いで、ガコン!という音とともに床が元に戻る。


「あ……、エルが……」


 目の前で仲間が落ちていった、その光景にルイの頭が真っ白になる。

 穴の中は真っ暗闇で、底が見えなかった。

 ということはかなりの高さがあるということで、何の備えもなしに落ちていったとなると死ぬまではなくとも足の骨折ぐらいはするだろう。

 そして魔獣が跋扈する迷宮の中で、動けなくなってしまったらどうなるか。

 それを想像できないルイではなかった。


「クソっ!俺がもっと罠の可能性を考えていれば……」

「いえ、まだ諦めるのには早いのかもしれませんよ」

「え?どういうことだ?あの高さじゃあエルだって……」


 新人の冒険者であるエルでは、いくらちょっと強いとは言っても無事で済むわけがない。

 そう考えているルイやテオだったが、イサークはそれを否定するように言葉を続ける。


「……エルのレベル、わかりますか?」

「わかるわけないだろ。ルネさんはお前にしか教えてくれなかったし。……まあ40ぐらいとかじゃないのか?」


 レベル40、D級の冒険者並のレベルであり、このパーティーで最もレベルの高いイサークのそれでもある。

 エルの魔法を見てみて少し高めに言ったものだったが、続くイサークの言葉は予想外のものだった。


「……82、だそうですよ」

「はぁ!?82?っていったらC級、いや、B級並じゃねえか。とてもそんな風には……」


 見えなかった。

 そう言いかけてテオはここまでのエルの様子を思い返してみる。

 戦闘中にもかかわらずサポートするだけの簡単な魔法しか使わず、移動中も魔獣に備えている様子はなかった。

 新人で戦いなれていないからだと思っていたのだが、それがもっと別の要因からだったとしたら。

 ()()()()()()()()()()()、という理由だったら。


 ルイも同じ考えにたどり着いたのか、イサークに問いかける。


「そ、それなら、エルは、無事ってこと?」

「ええそうでしょうね。たぶんもう、落とし穴の先、最下層辺りで上にのぼる道を探していることでしょう」

「……よかった……」


 ルイが安心したように顔をほころばせる。

 言葉にこそしていないが、テオも同じような気持ちだった。


「とはいうものの、もしかしたら動けなくなっている可能性もあります。それに道が分かるとも思えませんので、私たちも最下層に向かいましょうか」


 思っていたほど深刻な事態ではなかったが、それでもまだ分断されているままだ。

 下の層に行けば行くほど状態異常攻撃をするアンデットの出現率も上がるため、いくらレベルが高くとも危険であることには変わりがない。

 一刻も早くエルと合流しようと、イサークたちは地図を頼りに最下層までの道を進めていった。





 ◇◆◇◆





(油断しすぎたかな……)

 そんなことを考えながら自由落下に身を任せること約一秒。

 床が閉まってテオたちの姿が見えなくなってから、僕は魔法を発動させて自らを減速させる。

 そして、ふわっと言う音とともに落とし穴の底へと着地した。


「ふう、ここはどこだろ」


 雰囲気はさほど上とは変わらない、小部屋の中。

 心なしかトーチの数が少ないようにも見え、薄暗い印象を受ける。


「まあ、妥当に考えるなら遺跡の下の層か。……まさか三層までつながっているってことはないだろうし」


 そう言えば遺跡って下の方が強い魔獣が出るんだっけ、などと考えながら扉を開けると、そこは長い通路になっていた。

 右を向いても左を向いても端が見えない。


「上に行くなら天井をぶち破っていくのが早いんだけど……」


 階段でも探すか、と右へ進む。

 右を選んだのは特に意味はなく、何となくでしかなかった。


 しばらく進んでいくと、T字路に差し掛かる。

 特に何も考えずにまた右へ進もうと角を曲がりかけたその瞬間、緑色の影が目に入ってきた。


「ああ、ゴブリンか」


 ゴブリンって遺跡に出る魔獣だったっけかなあ、などとのんきなことを考えている間に、ゴブリンのこちらの存在に気付いたのか、ぎぃ、と声を漏らす。

 そして襲い掛かろうと手に持ったこん棒を振り上げた――

 ――ところで、その上半身がはじけ飛んだ。

 頭を失ったゴブリンの体が、どしゃっ、と地面に落ちる。


「結構、威力でるなあ」


 圧縮した空気の塊を、超高速で打ち出す技。

 今思いついてやってみただけなので名前はないが、あえてつけるなら空気砲とかになるんだろうか。


「それにしても結構な音が出たからか……」


 わらわら、わらわら、と。

 通路の奥からゴブリンの群れが、音につられて集まってくる。

 こん棒を持って布切れを身にまとったゴブリンが一番多いが、中には杖を持っているのものや、よい装備をしている者もいる。

 ゴブリンの上位種か、あるいは群れの主的存在なのだろう。


「はあ……。この魔法はここでは使えないかな」


 こうしている今も、ゴブリンたちは増え続けている。

 早いとこ倒してしまおうと、僕はゴブリン集団に向き直り、魔法を放った。

 




「さてと、これはゴブリンの巣があったってことでいいのかな」


 床を見ると、異常な数のゴブリンの死骸。

 いくら大きな音を出したからとはいえここまでのゴブリンが集まってきたことは、少し異常だった。

 しかし、ゴブリンの巣がこの遺跡の中、それも近くにあったというのなら納得がいく。

 攻略されつくされて冒険者のあまり来なくなった迷宮を、魔獣が巣とすることも決しておかしいことではない。


「だけどこんなに多くで来なくてもいいのに」


 ゴブリンの中には、巣を束ねる存在である上位種、シャーマンゴブリンがいた。

 いくら巣の近くで不審な音がしたからといって、巣の主である上位種がわざわざ出向くのだろうか。

 普通なら、配下のゴブリンたち数匹を送り出すぐらいだろう。


「いや、もしかしたらこれが偵察部隊なのかも……」


 普通なら巣を束ねるはずのシャーマンゴブリン。

 しかしそれよりもさらに強いゴブリンが存在している巣だったらどうだろうか。

 もしかしたら今床の上に転がっているシャーマンゴブリンは、巣にとっては偵察に使わせるほどの地位しかないのかもしれない。

 だとしたら巣を仕切っているのはさらにその上位種、ジェネラルゴブリンか、はたまたキングゴブリンか……。

 最低でも脅威度C級にはなる魔獣であることは間違いない。


「とすると、今回見つかったのはそれかな?」


 C級と言ったら三層あたりに生息する魔獣の脅威度と同程度だ。

 今受けている依頼、三層の魔獣が現れた、というのはそれのことかもしれなかった。


「確か、ゴブリンが来たのはこっちか」


 ゴブリンたちの死骸をかき分けて、それらが来た方に進む。

 途中途中で見かける、なぜかこっちへ向かってくるゴブリンを倒しながらしばらく進んだのちに、部屋の前に置かれた不思議なオブジェを見つけた。

 ゴブリンの巣であることを示す、マークのようなものだ。

 しかし。


「これは……」


 そのオブジェにもたれかかるように、ゴブリンの死体が転がっていた。

 装備が整っているものが部屋の前に二人。

 おそらくは巣の見張り番だったであろうゴブリンたちが、何者かに殺されていたのだ。


「……ゴブリンの巣が、襲われている?」


 そういえば、と最初に倒したゴブリンの集団を思い返す。

 偵察にしてはやけに統率の取れていない集団だと思ったが、もしあれが不審な音に対する偵察部隊ではないとしたら。

 ただ単に巣から離れようとして逃げてきた一団だったとしたら。


「襲ってるのが冒険者だったらいいな……」


 そう言いつつも嫌な予感がして、僕はゴブリンの巣へと近づく。

 するとその中には。


 散乱した道具、傷だらけの床や壁、戦って負けたのであろうゴブリンたちの死骸、そしてさらには、


「悪魔……」


 何倍もの体躯のあるジェネラルゴブリンの頭を、鷲掴みにしている悪魔の姿があった。



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