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11.初戦闘

 


「……ぅぉぉおおおおっ!!」


 普段の温厚なイサークからは想像できないほどの叫び声が、戦闘開始の合図となった。

 ガサガサ!という音とともに草むらがかき分けられ、緑色の肌をした、醜悪なゴブリンの姿があらわになる。

 そして、突然の大声に体が硬直しているのか棒立ちになっているゴブリンに対して、ルイの魔術が命中した。


 水属性の初級魔法、水球ウォーターボール

 それは火球のように水の球をとばす魔法ではなく、作り出した水をジェット噴射させるもの。

 ひとつの魔法陣とともに作られた大量の水はゴブリンたちの方向へと噴射され、2体のゴブリンを吹き飛ばした。


 追い打ちをかけるようにして、いくつかの小さな魔法陣が現れ、そこから細い光の矢が放たれる。

 光属性初級魔法、光矢ライトアロー

 何の性質も持たないただの魔法物質にすぎないそれは、倒れたゴブリンの頭へと吸い寄せられるように飛翔し、サクッとその命を刈り取った。


「……っ、やった」


 ルイの小さな喜びの声が聞こえる。

 奇襲で多数を行動不能にし、2体を撃破。

 上場の滑り出しだろう。

 残るはゴブリン6体と、ウルフが2体。

 前衛二人が、ゴブリンたちへ向かっていた。


「っと!」


 掛け声とともにイサークとがゴブリンに向かって剣を振り下ろす。

 狙いは、高レベルのゴブリン2体だ。

 すべてのゴブリンが行動不能に陥っている中、先に潰しておくべきは厄介であろうそれら。

 ルイの魔法が当たった直後、一瞬にしてそう判断して、アイコンタクトをとりながらそれぞれに狙いをつけたのだ。

 事態に合わせた臨機応変の冷静な対応。

 二人の判断は、戦闘に慣れた者のそれだった。

 そして。


強化ブースト


 ルイの強化魔法がかけられた瞬間、二人の剣がゴブリンを両断した。

 イサークは続けざまに体を返すと、ほかのゴブリンたちにも攻撃を加える。


「……エル!サポートっ!」

「え?ああ、うん」


 テオとイサーク。

 二人の攻撃の安定さに、そしてゴブリンが全部行動不能だったという状況にすっかり安心していた僕だったが、ルイの言葉にはっとする。

 ここは迷宮。

 それも戦闘中に呆けているなんて、少し油断が過ぎる。


「ん?……危な!」


 イサークとは違い本職の剣士でないからか、体の動かし方に拙さがあるテオ。

 ゴブリンを攻撃していたテオの無防備な背中に、ウルフがとびかかろうとしているのが見える。


光矢ライトアロー


 さっきのとは違い、スピードに重きを置いたもの。

 幾本かの光の矢は筋となってウルフに殺到し、その体を貫いた。

 一瞬ののちにウルフが絶命し、どさっと地面に落ちる。


「悪い!助かった!」


 テオはその声とともに、ゴブリンを両断。

 イサークも残りのゴブリンを狩りつくし、僕たちの初陣は終わった。





「さっきはありがとな。ちょっと油断してたわ」

「本当ですよ。まったく、エルの魔法が間に合ってなかったらどうなってたことやら……」

「いいって。サポートが僕の役目だから」


 まあテオもそれなりに装備はしっかりしているし、命の危険まではなかったと思うのだが。


「そ、それにしても、エルの魔法、すごかったですねっ」

「そうですね。あれだけの数の光矢ライトアローを瞬時に打てるなんて、なかなかできることではありませんよ」

「威力も半端なかったしな!ウルフの半身、吹き飛んでたぜ」


 あの時は咄嗟のことで威力の調整もうまくできていなかったので、ちょっと強いぐらいの魔法になっていた。

 といっても不自然でないぐらいの魔法にはなっていたのだけど。

 魔法陣もちゃんと出せたし。


「いやいや、そんなことないって。……それより、あれの討伐証明は?」

「ちゃんととってありますよ」


 そう言ってイサークは緑色の小さな耳と、牙を取り出す。

 ゴブリンとウルフのそれだ。


「しかし、こんなところにウルフを従えるだけのゴブリンが出るなんて、珍しいですね」

「そうだな……。普段ここには低レベルの魔獣ぐらいしか出ないもんな」


 ウルフを従えられるということは、普通のゴブリンよりも若干知能が高いことを意味している。

 さっきはルイの魔法のおかげで簡単に倒せたが、本来であればもっと苦戦していいはずの魔獣だ。


「もしかしたら、ゴブリンの巣ができているのかもしれませんね」

「ああ……」


 頭のいいゴブリンがいればいるほど、共同体というものはできやすくなる。

 そして、必然的に上位種も生まれやすくなるのだ。


「ま、俺らが気にすることでもないな。ギルドのお偉いさんたちが、俺らの報告を聞いて考えることだ。それに、ゴブリンの巣を俺らだけでどうにかできはずもないしな」

「そうですね。この件はギルドに報告しておくことにして、先を進みましょう」


 迷宮では、多少の変化はつきもの。

 それをいちいち心配していては、きりがないというものなのだろうか、イサークたちは話をやめ、遺跡への歩みを再開した。


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