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5.試験の内容

 


 扉の向こうは、片側の開けた通路になっていた。

 右手には芝の敷かれた広場があり、何人かの冒険者が訓練をしている様子が見られた。

 どうやら冒険者ギルドの裏手側は、訓練場になっているらしい。


「それで、ええと……。お名前、なんて言うんでしたっけ?」


 なんて呼べばいいのかわからなかったので、僕はそう尋ねる。


「私ですか?そうですね……ルネって呼んでください。で、何ですか?エルさん」


 どうして僕の名前をと一瞬思うが、冒険者ライセンスに書いてあったなと気づく。


「えっと、僕たちってどこへ向かってるんですか?試験の内容も知りませんし」

「試験の内容は、まあ、模擬戦ですかね。適当な冒険者と戦ってもらう感じで。剣でも斧でも一通りそろっているので、何使っても構いませんよ」


 さっきから訓練場の脇を歩いているのはそういうわけか。

 そこで戦うことになるのだろうけど、と横を見る。

 訓練をしている冒険者たちは、確かに長剣だけではなく斧、槍、短剣、果ては素手など、いろいろなものを武器として使っていた。

 しかし。


「あのー、あそこには魔法を使っている人がいないんですけど。……模擬戦では、魔法も使っていいんですよね?」


 そう。

 あれだけたくさんの種類の武器がある中で、魔法を使っている人が一人もいなかったのだ。

 まあ、たまたまいなかっただけなのかもしれないが、魔法禁止の場所なのだとしたら少しまずい。

 僕は武器の扱い方に関しては素人並だからだ。

 負けるということはないと思うが、身体能力任せの戦いを見せることになりかねなかった。


「僕一応魔法使いですし、剣術の方は……」

「ま、魔法使い……?」


 そう言葉を続けていると、ルネさんの顔に驚きの色が浮かんでいるのに気づく。


「いや、でも。杖も何も持っていないし……」

「え?魔法使いってみんな杖を持っているんですか?」

「いや、そうじゃない人もいるけど……。それに魔力量!あんな魔力量の低い魔法使いなんて見たこともないですよ!?」

「そこはまあ、頑張ったということで」

「えぇ……」


 武器が使えない以上、魔法使いとして登録するしかない。

 多少の違和感は勢いで乗り切れるだろう。


「い、いいでしょう。エルさんは魔法使いなんですね?それなら場所を変える必要がありますね」


 そう言うとルネは、元来た道を引き返すようにして進む。

 少しして連れてこられたのは、射撃所のような場所だった。

 カウンターのようなものがあり、少し離れたところに人型の的が置かれている。


「ここは魔法の訓練場です。あの的を狙って何か魔法を打ってもらうんですが、その前に。エルさんの魔法特性って何ですか?」

「魔法特性?って言うのは?」


 聞いたこともない言葉だが、得意な魔法のことでも聞いてるんだろうか。


「魔法特性って言うのはその人特有の、魔力の変換効率がいい属性、または魔法の種類のことを言うんですけど……。魔法の基本ですよ?」

「独学なもんで……」


 呆れた口調でルネさんが説明してくれる。

 というか説明を聞く限り、僕に特性というものはないように思える。

 もちろん僕自身の魔力にはあるだろうが、僕が魔法を使う上ではない、という意味だ。

 特殊魔法を使って行使する魔法には、変換効率というものがないからだ。

 効率が100%と言ってもいい。


「はぁ。……その様子だと自分の特性も知らないようですね」


 そう言ってルネさんは、射場にあった棚から一つの魔道具を取り出す。

 ランタンのような見た目をしているものだ。


「これは魔法使いの特性を量る道具です。ここに自分の魔力を流し込んでください。出た光の色で、魔術六属性、呪術、聖術、錬金術、召喚術……まあ全部はわかりませんが、自分の得意とする魔法の種類が分かるんですよ」


 そう言われて魔道具を手渡される。


 魔力を流す、か。

 僕が魔法を使うときは、基本的に僕自身の魔力を使うことはない。

 特殊魔法によって作られた魔力に法則を追加して、魔法を使っているのだ。

 だから自分自身の魔力を操ることなんてあまりない。

 今回も久しぶりすぎて、どうやってやるのかを忘れかけていたぐらいである。


「うーん……。お!できた」


 ようやく魔力を流す感覚を思い出たところで、魔道具の中に光がともる。

 赤みがかった橙色をした光だ。


「これは……、エルさんの特性は魔術の火属性、ですね。副属性に光も少し入ってるみたいですけど」

「火属性と光属性ですか……」


 火属性は火球を出すやつか。

 光属性はどんなものなのか想像がつかないけど……。


 そんな僕の疑問が顔に出ていたのか、ルネさんがこっちをじっと見る。


「……一応火属性と光属性の説明もした方がいいですか?」

「お願いします。……独学なもんで」


 便利だな、独学。


「火属性は聞いて言葉のごとく、炎を操る魔術です。初級魔術だと、火球ファイヤーボールなんかが有名ですね。光属性はなかなか珍しい属性なんですが、魔法物質を作り出す魔術ですね。光剣なんかを作り出せるんだとか」

「なるほど、勉強になります」

「……これくらい誰でも知ってる常識ですよ?むしろエルさんが今までどうやって魔法を使っていたのか不思議なくらいですね……」


 そう言われても。

 そもそも属性とか知らなかったし。


 そんなことはもちろん口に出せず、曖昧な愛想笑いでごまかす。


「じゃあ、あの的に向かって魔法を打ち出せばいいんですね?」

「はい。魔法は何でも構いませんが、一発だけ、打ってください」


 僕の特性は火属性ということが分かったことだし、その魔法を使ってみるか。


 的との距離は数メートルくらい。

 あまり威力を出しすぎたらおかしく思われるが、かといって弱すぎても迷宮に行けなくなる。

 過去に見た冒険者、それに勇者パーティーの攻撃力を思い出し、普通よりちょっと強いぐらいの冒険者が出せる魔法。

 魔窟にいた魔獣たちの魔法はひとまず忘れて、魔力の量、それに変換の仕方を微細まで調節して。



 ――火球を放った。



 弱すぎず、強すぎない火力を持った普通の火球は、早すぎず、遅すぎないスピードで的へ向かっていき、正確性がいいとも悪いともいえないような位置へと着弾した。

 魔法が当たった的は、壊れるでもなく無事でもなく、当たった個所が少しくすぶっている程度の被害を受けている。

 誰がどう見ても、普通の魔法だ。


「ルネさん!これはいい感じに――」


 そう言って振り返った僕。

 いい反応があるかと思っての行動だったが、予想に反してルネさんの顔は驚愕で染まっていた。

 その理由は。


「詠唱も、魔法陣もなかった……?」


 そう。

 この世界では魔法を使う際、魔法陣が現れる。

 どんな魔法であっても例外はないのだが、僕が使ったのは特殊魔法。

 ただの魔法の枠組みに縛られない、この世界に直接干渉する魔法よりも高位の術だ。


(魔法の威力を絞るのに精一杯で、魔法陣出すの忘れてた……)


 僕がそんなことを考えている間にも、ルネさんの独り言は止まっていなかった。


「詠唱なしって言うのはまだ聞いたことがある。高位の神官とか魔法使いとかだったら使えるって……。だけど魔法陣なしっていうのは、それは、まさか……」

「あのー、考え事中申し訳ないんですが、何かおかしなことでもありました?」


 特殊魔法のことがばれたら、大変なことになる。

 ここはとぼけて、ルネさんの勘違いにさせてしまおうと、僕は素知らぬ顔で尋ねた。


「おかしなことって……。あの魔法、どうやって使ったんですか!?魔法陣が出てなかったじゃないですか!」

「え?僕からは見えましたよ?魔法陣。光の加減で見えなかったとか」

「そんな話聞いたことありませんよ!魔法陣がそんなんで見えなくなるなんて」


 簡単にはごまかせないか。

 それなら!


「おかしいな……。じゃあもう一回魔法を使うんで、見ててもらっていいですか?今度はちゃんと、横から」


 そう言うと僕は的に向かう。

 今度はちゃんと、魔法陣っぽい演出をしなければ。

 そう考えると僕は、光を操作して偽物の魔法陣を作り上げる。

 専門家から見ても違和感がないような、火球を使うときの魔法陣をそっくりまねしたもの。

 これを偽物と気付けるのは、世界中を探してもそうはいないだろう。


火球ファイヤーボール


 今度は詠唱も忘れずに、さっきと同じような火の球を発射する。

 今度こそ、誰がどう見ても普通の魔法だ。


「ね?魔法陣見えたでしょ?さっきのは見間違えか何かだったんですよ」

「そうかなあ……?」


 まだ半信半疑だったが、魔法陣が出ない魔法なんてありえないことだと解釈したのか。

 渋々納得はしてくれたようだ。


「まあいいや。人の秘密を探るのはマナー違反ですし」

「そうそう。それで、魔法の方はどうでしたか?」

「うーん、まあレベルから見たらちょっと弱めだけど、あの魔力量ならそれもしょうがないか。いいでしょう。迷宮の探索の許可証は、書いておきます」


 迷宮へのお許しが出た。

 魔法の調整をしたかいがあったものだと、僕は少し喜ぶ。


「じゃあこれで、迷宮に行けるんですね?」

「説明があるといったでしょう。まだ待ってください」

「え?あ、説明……」


 そういえばそんなのもあったっけ。

 今日中に迷宮に行くのは無理そうだな、と思いながら、僕は次の部屋へと連れていかれた。



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