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6.宿屋


「お疲れさまでした。これで手続きは終わりですよ」


別室へと連れてこられ、そこで強面のおじさんに数十分の説明を受けた。

ランクのこと、魔獣の危険度や種類のこと、迷宮のこと、ギルドの決まりのこと……。

そして、説明が終わりって部屋を出ていた僕を待っていたのは、ルネさんのそんな言葉だった。


「ふう、思ったより長かった。魔獣の種類まで覚えさせられたときはどうしようかと思ったけど……」

「あはは……。魔獣の危険度が分からないのは危ないですからね。そこは仕方ありませんよ」


僕は暗記とかいうことが苦手だ。

別に覚えなくてもいいような魔獣の姿かたちを無理やり覚えさせられたのは、苦痛以外のなんでもなかった。


「これでもう帰ってもいいのかな?」

「あ、ちょっと待ってください。冒険者の腕輪ができていると思うので、それを受け取ってから……」

「腕輪?」


そう言うとルネさんは、ついてきてください、とギルドの入り口へ歩いていく。

そこで渡されたのは、複雑な模様の刻まれている銅が付いた、シンプルなデザインの腕輪だった。


「これは冒険者であることを示す、符号みたいなものです。ここについているのが――」


ルネは銅の飾りを指さす。


「――冒険者のランクをあらわす金属です。最上位のS級がオリハルコン、そこから順にミスリル、白金、金、銀、鉄、そして最下位のF級が銅ですね。エルさんは登録して間もないので、F級冒険者になります」

「F級……」

「あ、でも依頼の制限とかはないですし、エルさんのレベルならすぐに上のランクに上がれると思いますよ!」

「いや、別にF級が不服とか言うわけではなくてですね……」



ランクに関係なく魔獣の討伐依頼を請け負えるのであれば、F級だろうがS級だろうがなんでもいい。

ただ、ランクが低いとカツアゲとかの対象になるかもしれない、ということだったので、早めにランクは上げておいた方がいいだろう。


「そういえばエルさんって、この街へきて間もないんでしたよね?」

「はい。今日来たばっかりですけど」

「もう宿とか決まってたりするんですか?」

「あー。宿屋……」


考えてなかった。

今までずっと野宿ばっかりしていたからなあ。

さすがにこんな街の中で野宿するわけにはいかない。


「その様子だと忘れていた、って感じですよね」

「お恥ずかしながら……」

「いえいえ、この街に来たばかりの新人さんにはよくあることなんですよ。おススメの宿屋なら教えられますが、聞きたいですか?」

「それはもう。ぜひともお願いします」


ここら辺のことはあまりわからないし、親切に甘えさせてもらおう。

そう考えると僕は、ルネさんの言葉に耳を傾けた。





「ここか」


ルネの説明を頼りに街を歩いていって、ひとつの宿屋にたどり着いた。

大通りからもさして遠くない、清潔感のある宿だ。


「すいません!誰かいますか?」

「はいー!お客さんですかー?」


中に入るとカウンターに誰もいる様子がなかったので、大声でそう言う。

すると奥の方から声がして、店の人が顔を出す。

優しそうな顔をした、おばさんだ。


「あらまあ、冒険者の人かい?……銅ってことは新人さんか。珍しいねえ」

「そうですか?受付の人に聞いて来たんですが……」

「まあうちはちょっと高めだからねえ。まだ十分に稼げない新人さんにはちょっと厳しいんだよ」

「そうなんですか……」


ルネは多分レベルを見て、すぐにランクが上がると踏んでここを候補に入れてくれたんだろう。

僕としてもなるべく快適なところに止まりたかったので、その心遣いにありがたく思う。


「お金は持ってるんだよね?」

「ええ、それなりには。一泊いくらですか?」


お金はクラリスからお礼でもらったものが少しある。

流石に長期間泊まれるぐらいの額はないと思うが、何日かの宿泊代にはなるだろう。


「朝食込みで銀貨5枚、風呂付きの個室なら7枚だよ。」


銀貨7枚、日本円で置き換えると約7000円ぐらい。

やはり少し高めだが、それを気にせずに僕は即決する。


「それじゃあ風呂付きの個室を一つ。湯は自分で用意できるので大丈夫です」

「おや、あんた魔法使いかい?若いのにすごいねえ」


数あるオススメの宿の中から僕がここを選んだ理由。

それは風呂がある宿だからに他ならない。


冒険者の新人、それも男が住むような宿には基本的に風呂がついていない。

体の汚れは生活魔法である程度落とすことができるので、風呂は生活の一部というよりは娯楽のようなものとして見られているためだ。

ただ、前世日本人の僕からしてみればそうは思えない。

洞窟暮らしですっかり風呂に慣れてしまった僕が、今更風呂なしの宿に泊まれるはずもなかった。


もっとも風呂と言っても桶のようなものがあるだけで、シャワーもないし、お湯も魔石などで用意しなければならないが。

それでも部屋に個人用の風呂があるだけ良かった。


「部屋はあそこ奥入って一番手前のやつね。朝食はここで言ってくれたら用意するから」


その言葉とともに、部屋の鍵を渡される。

まあこんなもの気持ち程度で、なんの防犯にもならないだろうが。


何はともあれやっと街までこれたんだ。

今日はもう休んで、ゆっくり風呂でも入ろうか。

そう思うと僕は、新しく自分の拠点となる部屋へと向かっていった。



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