4.冒険者ギルド
迷宮都市ラビル。
世界一の規模ともいわれる自然迷宮ノスト、それを中心として発展してきたこの街はまだ歴史が浅いながらも、王国有数の都市となっている。
人口は数万、迷宮からとれる特産物のおかげで街の収入も少なくない。
冒険者が多いこともあり魔獣の被害も受けることが少なく、衛兵たちのレベルも高い。
そんな背景があってか、街は活気にあふれていた。
「えーっと、こっちの方かな」
ワイワイと騒がしい大通り。
クラリスの言葉通りあっさりと街に入ることに成功した僕は、手渡された地図を見ながらそこを歩いていた。
ちなみにクラリスたちとは別れた後だ。
屋敷に招待する、という申し出を断って、街に入った直後に馬車から降りたのだ。
「それにしてもこれ、何だろう」
僕は、地図と一緒に渡されたペンダントを持ち上げる。
小さな、紋章の入ったペンダント。
クラリスと別れるときに、困ったことがあったらこれを使ってください、という言葉とともに渡されたものだ。
見た感じ大したものの様には見えないが、何か権威をあらわす意味でも込められているのだろうか。
「……まあ、なるべく使わないようにしとこうかな」
なんか怖いし。
そう呟くと僕はペンダントをしまう。
本当に困ったときになったら使わせてもらおうかな。
そんなことを考えながらしばらく歩いていると、大きな建物が見えてきた。
レンガ造りの、貴族の豪邸の様なつくりをしている立派な建物だったが、その中からは冒険者と思わしき人たちが出入りしている。
僕の目指していた場所、冒険者ギルドだ。
「思ってたのと違う……」
想像していた木造の小屋とは大きくかけ離れたギルドに、僕は思わずそう呟く。
僕の村にあったやつとは大違いだ。
もしかしたら冒険者が多いということで、特別製なのかもしれない。
「間違ってないよな……」
地図はここを指しているし、建物の脇にも冒険者ギルドと書かれた看板がある。
それを確認すると、僕は冒険者ギルドの中へと踏み入った。
ギルドの中は清潔感のある、明るい場所だった。
僕の村にあったじめじめとした薄暗いギルドとの違いに再び驚きつつ、僕はギルドの中をぐるりと見回した。
広さは部屋数戸分ぐらい。
近くにある壁にはボードのようなものがかけてあり、それにいくつかの紙が貼られていた。
その近くには冒険者パーティーの集団が群がっており、紙を指さしながら何かを話し合っている。
「あれは依頼ボードかな……」
そんなことを呟きながら、僕は受付に向かっていった。
カウンターのほとんどは冒険者で埋まっていた。
魔獣の討伐証明を手渡している者、素材の受け渡しをしている者、受付に向かって文句を言っている者……。
それらを横目に、僕は唯一開いていたカウンターへ向かう。
受付にいた女性が、向かってくる僕に気づいたのだろう。
笑顔を浮かべながら僕に話しかけてきた。
「ようこそ、ラビリ冒険者ギルドへ。ええと……ご依頼、ですか?」
僕の様子を見て受付嬢が戸惑った様子を浮かべる。
何かおかしなところでもあったのだろうか。
服装はこの世界の一般的なものにしておいたはずだけど。
「いえ、登録で」
「登録。……冒険者になりたい、ということで間違いないのでしょうか」
「はい、そうですけど……」
念を押して聞いてくる受付嬢に若干の疑問を抱きながら、僕はそう返す。
「そ、そうですか。それではこちらの魔道具に――」
そう言って受付嬢は魔道具をカウンターに乗せる。
それは、子供のころに教会で見た者とそっくりの、しかし一回り小さいような水晶だった。
「――手をのせてください。レベルと、魔力量を量ります」
受付嬢の言葉の通り、僕は水晶に手をのせる。
すると水晶の中で光がうごめいているのが目に入り――
「――もう結構ですよ。こちらがあなたの冒険者ライセンスになります」
受付嬢から言葉がかかり、カードが手渡された。
そこには僕の名前とレベル、魔力量が記載されていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エル
男
冒険者
レベル 87
魔力量 35
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「レベルが……87!?す、すごいですね。C級、いやB級並のレベルですよ?」
「そうですねー」
そんなにあったんだ。と。
僕は他人事のように受付嬢の言葉を聞いていた。
というのも僕の強さはレベルとは全く関係ないところにあるからだ。
今まで魔獣を倒してきたのは全部特殊魔法を使っていたから。
別に身体能力の増加も、魔力量の増加も、たいして戦いには役立っていなかった。
それに、B級冒険者、というのがどれほどのものなのか、ぴんと来なかったのもある。
「魔力量は35、と。少なめですね。……これで登録は終了です。これであなたも今日から冒険者です!」
「ありがとうございます。……ええと、これであのボードにかけてある依頼を受けることができるんですよね?」
「はい、そうなのですが……」
あれ?
まだ何かあるのだろうか。
「どのような依頼を受けるのも自由なのですが、その前に一つ確認することがありまして」
「……?それはどういう……」
「迷宮に挑むのか、それともそれ以外の依頼を受けていくのか、ということです」
その二つは何か違うのだろうか。
「この町の冒険者の方々はほとんどが迷宮に入って採集依頼なんかを受けていらっしゃるのですが、迷宮とは思っているよりも危険な場所なのです。死亡率も高くなる危険な仕事なので、初めての方には説明と、実力確認なんかが義務付けられているのですが……」
なるほど。
知識も何もない新人が、いきなり迷宮に挑んで死ぬのを防ぐための策なのだろう。
ただ僕にはあまり関係のない話でも合った。
「……参考までに聞いておきますが、迷宮の中に行った方が稼げるんですよね?」
「はい、外の依頼よりは格段に。ただ危険度が果てしなく高いのもありますし、それに……」
説明は続いていたが、危険度なんかは特に気にすることではない。
必要なのは稼げるか。
なので僕の答えはもう決まっていた。
「わかりました。じゃあ僕は、迷宮で稼ぐことにします」
「……話聞いてましたか?危険度は格段にこっちの方が上ですよ?」
「まあそこは。大丈夫だと思いますけど……」
受付嬢は若干呆れたように言ったが、僕の気持ちは変わらない。
というか変える必要もない。
「……まああなたのレベルなら、深くまで潜らない限りは大丈夫でしょうけど。それでは実力を見せてもらうので、こちらへどうぞ」
そう言って受付嬢はカウンターから出ると、奥にある扉の方へ向かう。
「言っときますけどこれであなたが迷宮に挑むのが危険だと判断したら、迷宮への許可証は出せませんから。全力で行ってください」
「はあ、そうですか」
全力でやったらこの街更地になるんだけどなあと思いつつ、僕は受付嬢の背中を追って扉の奥へと向かった。




