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1.馬車との遭遇

 




「そう簡単に見つからないか……」


 果てしなく広がる広大な森を眺めながら、僕はそう呟いた。

 洞窟を出て早数日。

 上空を飛行しながらそれなりのスピードで進んでいるのにもかかわらず、町や村はおろか、それにつながる道ですら見つかっていなかった。


「……ここって大国なんじゃなかったっけ」


 見通しが甘かったのかなと思いつつ、僕は今日も空を飛んでいた。



 今僕がいる国は、スルア王国という名前の国家だ。

 イースから聞いた話によれば、大陸の約五分の一を占めるほどの広大な国土を持っていて、僕の生まれであるウェルスト帝国と肩を並べるような超大国なんだとか。

 さらには農産物や鉱石、魔石といった資源も豊かであり、文化レベルも高いらしい。

 いわゆる先進国とか言うやつだ。


 しかしいくら進んでいるとはいえ、そもそも世界の文化レベルは中世並。

 広大な国土ということもあってか、国の端、それも魔窟の近くである北部の開発はあまり進んでいなかった。

 大きな街がいくつかと、小さな開拓村がぽつぽつとある程度。

 交通網の整備も進んでおらず、街道と呼べるほどの道もあまりなかったのだ。


 それでも高速で一方向に飛び続けたらいずれは何かにたどり着けると思ったのだが、まさか数日飛び続けても何も見つからないとは思わなかった。



「……ん?」


 そんなことを考えながら飛んでいると、ふと探知内にそこそこ大きな魔力の塊を感じる。

 人間ではなく、魔獣のものだ。


 下を見ると、森の中に何かが通った後なのだろうが、木々がなぎ倒されてできた道のようなものがあった。

 探知した魔獣の仕業だろう。


「またか……」


 龍によって起こった魔獣暴走。

 原因となっていた龍は排除したものの、魔窟の外に出ていった魔獣たちが戻ってくるわけでもない。

 逃げ出した魔獣たちは魔窟から遠ざかるような形で移動を続けていたらしく、今のように魔窟から離れた場所で見つかることもあったのだ。

 実際この数日間でも何体かの魔獣を見つけている。

 今回のやつも、それと同じような魔獣だろう。


「この分だと倒し漏らしとかまだまだいっぱいいそうだな……。大事にならなけりゃいいけど」


 まあこの国には強者多いっていうし大丈夫かな、と考えながら僕は魔獣に向かって魔法を放つ。

 魔獣は見える範囲にいるわけでもないが、そこまで強そうな相手でもないのでこれで倒せるだろう。


「……よし!討伐完了、っと」


 魔力源が消失したことを確認すると、僕はそう呟く。

 これが深層レベルの魔獣だったのなら、魔力の発散を完全に抑えられるのもいるので確定はできないのだが、今回は違う。

 せいぜい外縁で縄張りを持っているような弱い部類の魔獣だったので、確認するまでもない。


「ただ、今の魔獣、なんだか慌てて移動してたような……」


 探知で見えたさっきの魔獣は、その魔力量からは考えられないほどの速さで移動していた。

 それも、道ができるほどに勢いよく草木をなぎ倒しながら。


「狩りでもしてたのか?……いや、これは……」


 さっきの魔獣。

 あれは魔窟の中では弱いとはいえ、外の世界の基準で見ればそこそこ強い部類には入るものだろう。

 それこそ、ここら一帯の主、なんて呼ばれるくらいには。

 そんな魔獣が焦ったように移動する原因は……


「……逃げていた、のか?」


 魔獣暴走で外に逃げ出した魔獣の中には、中層レベルの魔獣もたくさんいる。

 仮にそれと遭遇してしまったのならば、外縁にいる魔獣ごときでは逃げるしかないだろう。


「でも、中層レベルの魔獣の反応。近くにはないんだよなあ……」


 さっきの魔獣の魔力量からみるに、中層レベルの魔獣から逃げ出せるだけの力があるとは思えない。

 追われていたのだとすれば、あの魔獣の近くに反応がないのはおかしかった。

 まあ、あの魔獣の脚が驚くほど速かったといってしまえばそれまでなのだが。


「……ちょっと調べてみるか」


 探知に本気を出せば、今近くできている範囲の何倍も感じることができる。

 少しの間移動はおろそかになってしまうが、別に構わないだろう。


「よし、っと」


 僕は飛行をやめると手ごろな木の枝に降りる。

 そして目をつぶり、探知の魔法を使った。


電探レーダー


 電波探知、略して電探。

 いつもは僕を中心とした球状に設定している探知範囲を長く伸ばし、放射状に回転させることでより広い範囲を索敵する、オリジナルの魔法だ。

 オリジナルと言っても使い方を変えただけで、別に魔法自体が変わっているということでもないのだが。


 ちなみに電波探知と名前がついているが、この魔法に電波が使われているわけではない。

 ただ単に、レーダー探知の方法と似ていたので、この名前を付けていただけだ。


 長くのばされた探知魔法は、動きながらもその情報を僕に伝えていく。

 そしてそれが、さっきの魔獣が逃げてきた元となる辺りに達した瞬間。


「……ん、これは」


 大きな魔力反応が探知された。


 中層レベル、その中でも強力な魔獣の持つそれ。

 思った通りの反応といえるものだったが、一つだけ予想していなかったことがあった。

 それは


「……人間、かな?」


 そのほかにも小さな魔力反応が複数、魔獣の近くに存在していたことだ。


 一般人レベルの微量の魔力が三つ、それとある程度には大きな魔力反応が五つほど。

 人数と移動速度からみるに、商人か貴族なんかの馬車と、それの護衛だろうということは簡単に予想できた。


「これは、まずいかな……」


 魔獣は馬車に興味を持ったのか、そちらの方へ向かって移動している。

 そのスピードは馬車よりも速く、このままいけばすぐに追いつかれてしまうだろう。

 護衛の人たちも弱いというわけではないだろうが、前に見た勇者パーティーにも届かない程度の魔力しかない。

 その魔力量では中層レベルの魔獣にはとても太刀打ちができるとは思えない。


「助ける、かな」


 力がばれて、神とかに目を付けられることは避けたいところだが、久しぶりに見つけた人間だ。

 放っておくのも目覚めが悪いし、それに街へ行く手掛かりになるかもしれない。


「まあ、魔窟から逃げ出した魔獣は、見つけたら狩るようにしてるしね……」


 そう呟くと僕は魔獣の方へと向かう。

 遠くから攻撃してもいいのだが、傷を負った魔獣が暴れても面倒だ。

 見える範囲から、安全に気を付けて攻撃すればいいだろう。



 しばらく飛んでいると、人工的に作られた道が見えてきた。

 ようやく見つけた人工物に感動を覚える暇もなく、少し先にいる魔獣が目に入る。


 馬車も近くに止まっており、どうやら追いつかれてしまったようだ。


「まずいな……」


 よく目を凝らすと、騎士風の護衛が剣を抜いて魔獣と対峙しているのが見える。


 カエルのようなフォルムを持った、しかし柔らかさなんてみじんも感じさせないような冷たい鱗を持った魔獣。

 その巨体に見合わぬ小さな瞳は珍しいものを観察しているように、じっと護衛たちに向けられていた。

 魔獣の纏う異質感からか漏れ出している魔力の大きさからか、対峙している護衛たちの体は震えている。

 ちょっとしたきっかけさえあれば逃げ出してしまうような雰囲気さえ感じられた。


 ではなぜ馬車から降りて魔獣と戦おうとしたのだろうか、と疑問に思って馬車に目を移す。

 するとすぐに、答えが分かった。

 逃げなかったのではなく、逃げられなかったのだと。

 魔獣の攻撃でも受けたのか、馬車の車軸が壊れていたのだ。

 質素ながらもどこか芸術性を感じる外装にも、ところどころ傷があったりひびが入っていたりした。


 僕は視線を魔獣に戻すと、倒してしまおうと魔法を発動しようとする。

 しかし


「護衛が邪魔で、魔獣を狙えない……」


 戦ってはいないものの、ほとんど魔獣に接近しているといえるほど近くに護衛たちがいるために、遠距離魔法を打つことができない。

 遠隔操作できるような魔法を打ってもいいが、それだとスピードが落ちてしまうために、よけられてしまう危険性があった。

 魔獣がよけた先が馬車だったとしたら……。

 助ける、という目的は達成できなくなるだろう。


「うーん……、いいや。近づいてさっとやってしまおう」


 遠距離攻撃がだめなら、近くから物理で殴ってしまえばいい。

 そう考えて僕は、眼下の魔獣に向かって猛スピードで突進する。


「――なっ!」


 急降下してくる僕に気づいたのか、護衛のうちの一人が声を上げる。

 その瞬間、隙だらけとなった護衛に魔獣が襲い掛かろうとするが――



 その攻撃が護衛の男に届く間もなく、僕の手刀が魔獣の体を切り裂いた。




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