閑話6.明日
「……邪龍がいるという洞窟は丘の中腹あたり。あまり広くはなさそう。遠くから見ただけだから何とも言えないけど」
「となると、洞窟の中で戦った方が有利かしら……」
邪龍を討伐するとは言ったものの、何の策もなしに突撃するわけではない。
コウキ達は村で、どのようにして戦うか打ち合わせをしていた。
「……生贄の少女をとらえていることから、邪龍は多分意志のある魔獣、インテリジェンスモンスターだと思う」
「それは厄介だぞ。あいつらは他の魔獣とは違って策を使う。はっきり言って危険度はかなり高い」
シードルは腕を組みながらそう言う。
冒険者として長く戦ってきた経験から来た言葉だろう。
リィ―もうなずきながら言葉を続ける。
「……龍の亜種の危険度は、大体ランクで言ってAの上位ぐらい。ただ邪龍の場合はSにも届きうるかもしれない」
「まじかよ……。なあコウキ、ほんとに大丈夫なのかよ。お前の力を侮ってるわけじゃねえけどさ」
目の前で繰り広げられる不安な会話に、しかしコウキは余裕そうに答える。
「はっ、大丈夫に決まっているだろう。僕は勇者だ。Sランクの魔物だって倒したことがある」
「……あれは軍の支援あってこそだったろ?」
「あの頃の僕とは違うさ。それに今回は捕らわれの女の子がいるんだ。多少困難でもやるしかない」
人を助けるためといわれてしまうとシードルも黙るしかない。
最もコウキの場合は「人」ではなく「女の子」を助けるためだったが。
「あ、あの……。一ついいですか?」
今まで話を聞いているだけだったエレンが、おずおずと挙手をする。
「あの、邪龍に意思があるんだったら、その、お願いして女の子を解放してもらうことってできないんでしょうか……。たぶん邪龍もコウキさんとは戦いたくないでしょうし……」
「それはだめだ、エレン。相手は女の子を生贄に要求するような龍なんだぞ?そんなものをこの僕が許しておけるわけがないだろう」
優しすぎる、というか消極的なエレンの考えを、コウキはすぐに否定する。
コウキの中では女の子を攫うような奴はとても許せることではないのだろう。
「そうね。それにいくら意志があるとはいえ魔獣は魔獣。インテリジェンスモンスターも確か冒険者組合の討伐対象に含まれていたと思うわ」
「そうでしたか……」
エリーの追い打ちに、エレンはすいませんと謝る。
そしてそれ以上食い下がることもなく、また話を聞くだけに戻った。
「……村人が言うにここ最近、邪龍が住処から出たことはないらしい。おそらく今も洞窟の中にいる」
「それじゃあ早めに行った方がいいか……」
コウキは少し考えこむようなそぶりを見せる。
そして
「よし!明日までに準備を済ませて、洞窟に向かおう!」
皆を見回すと、そう言った。
◇◆◇◆
「ファイアーボール」
イースのその言葉とともに魔法陣が赤く光り、火の玉が現れる。
その様子に、僕は思わず息をのんだ。
ファイアーボールは初歩的な魔法のうちの一つで、特に難しい魔法でもない。
しかし、ほれぼれするほど一切無駄のない魔法の制御が僕を驚かせたのだ。
イースの魔法の訓練を始めてからしばらくして。
長い期間が経っていないのにもかかわらず、イースは魔法の技術をどんどんと吸収していった。
そして今や魔力の制御も完ぺきに、普通の魔法の行使に至っては僕を超してさえいた。
魔法を放ったイースが、納得したように頷く。
「合格ですか?エル。今のは私的にも結構うまかったと思うのですが……」
「ああ、もう言うことはないぐらいにね。魔力制御ももはや普通の人を超してる。文句なしの合格だ」
「そ、それじゃあ……」
「うん、街へ行っても大丈夫だと思うよ」
「ほんとですか!?やった!」
僕の言葉にイースが飛び跳ねる。
最近は感情豊かになってきていたイースだったが、ここまで振り切れるのはなかなか久しぶりだ。
それほどうれしかったんだろうな、と僕は微笑ましくそれを見守る。
「じゃあ、早速行きましょうよ!今から」
「え!?いや、それはさすがに……。町がどこにあるのかもわからないし……」
「そ、そうですよね……。すいません、嬉しくてちょっとはしゃぎすぎちゃったみたいで……」
さすがに恥ずかしくなってきたのか、イースは顔を赤らめて俯く。
まあでも初めて街へ行けるとなると、はしゃぐのも分からなくはないか。
「今日は無理だけど。そんなに行きたいんだったら、明日準備して明後日にでも行ってみる?」
「いいんですか!?じゃあさっそく準備してきますね!」
イースはそう言うと家の方へ駆けていく。
それはさながらお出かけを楽しみにする小さな子供の様で、イースにも子供っぽいところがあるんだなあと思ってしまった。
「僕も街へ行くのは初めてだから、楽しみなのは一緒なんだけど」
小さい頃は生まれの村で、それから魔窟で過ごし、ここ最近は洞窟暮らし。
そろそろ人混みが恋しくなっている。
「前世の時は人が密集している所嫌いだったのになあ……」
なくなってみると寂しくなるものだ。
そう呟くと、僕は空洞に建てられた一軒の家を見る。
今まで暮らしてきた家。
イースが街へ行くのを喜んでいるようだったので、街で暮らすことも賛成してくれるだろう。
そうすればこの家ともお別れだ。
「さて、この世界の町はどんなものなんだろうな」
まだどこに行くのかも全く決まっていない。
長い旅になりそうだ、と考えると、僕はイースの後を追った。




