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閑話4.バーレンの願い

 

 数か月前、僕――西條光輝は突然この世界に召喚された。

 本当に何の前触れもなく、唐突に。


 あれは授業が終わって部活へ行こうとしていた時のことだろうか。

 友達と話しながら教室を出ようとした瞬間、急に視界が真っ暗になったのだ。

 そして、「邪神を、神を殺して」という女性の声とともに見知らぬ場所へと連れてこられたのだ。


 そこは映画でも見たことのないような、宮殿、あるいは城の中を思わせるような場所だった。

 床には複雑な魔法陣のようなものが刻み込まれており、その周りには不思議な色をした宝石がおかれている台座がいくつかある。

 見ると宝石の中で怪しげな光がふよふよとうごめいていたのを覚えている。


 それから、光輝は兵士と思しき人たちによって王の前へと連れられた。

 そこで国王から直々に説明を受けたのだ。

 魔族のこと、神様のこと、この世界のことを。

 光輝が勇者として召喚されたことも、ここで説明された。

 勇者とは、魔族と戦う英雄なのらしい。


 勇者だからなのかはわからないが、光輝はレベルが上がりやすかった。

 一か月もたたないうちに、光輝のレベルは500を超えていたのだ。

 王様によると人類でもトップクラスのレベルなんだそう。

 城にあった魔道具では特殊魔法まではわからないらしいが、もしかしたら異世界転移の特典はレベルの上がりやすさなのかもしれなかった。

 ほかの国で召喚されたという勇者たちも、こんなにレベルが早く上がることはなかったらしいから。


 エリーはもともと王国の騎士団の一員だったのだが、勇者の訓練のためという形で光輝について行くことになった。

 リィー、エレンはレベル上げのための旅の途中で仲間となり、シードルは冒険者からスカウトしてきたのだ。


 そうしてパーティーが出来上がり、今、さらにレベルを上げるために魔窟へと向かっているわけだった。





 ◇◆◇◆





 翌日。

 昼頃になっていきなり現れた勇者パーティーに村は騒然となっていた。


 勇者といえば神様の魔力を使って召喚される、いわば神様の使いのようなもの。

 貴族や、あるいは王族にも比肩するような存在だ。

 そんなものがこんな田舎の村に現れるなどまったく前例がないものであり、慌てるのは仕方のないことだった。


「とりあえず、早くどこかに入れてくれないか?僕たちは長旅で、疲れているんだよ」


 勇者たちを出迎えた村長に、光輝はそう言う。

 昨日、疲れたといったシードルを責めたとは思えないような言い草だ。


 しかし、勇者が来ることなんて想定していなかった村人たち。

 大きな町だったら違ったかもしれないが、こんな辺境の田舎村には勇者を迎えられるような宿なんてない。


「す、すいません、勇者様。なにぶん急なもので勇者様方がお休みになられるようなところは……」


 村長が申し訳なさそうに謝る。

 それを見ながらコウキは不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「まったく気が利かないなあ。どこか適当な家でいいから早く案内してくれよ」

「それでしたら私の家へお越しください。勇者様方」


 そう言うと村長はコウキ達に背を向けて歩き出す。

 年上のはずの村長に対して失礼も甚だしいコウキの言葉を、責めるものは誰もいなかった。





 ほかの家より大きいとは言うものの、辺境の貧しい村の村長の家。

 王宮の一室を借りていたコウキ達にとっては狭く感じるような部屋の真ん中に、長い机が置いてあった。

 コウキ達は今、村長と向かい合う形でその机に座っている。


「ふう、落ち着いた。しっかし狭い家だなあ」

「申し訳ありません。私たちの村ではこれで精いっぱいでして……」


 コウキの失礼な物言いにも動じずに、頭を下げる村長。

 いや、失礼とも思っていないのかもしれないが。


「それで、何故勇者様方はこんな辺境の村へと?」


 村長が不思議そうに問いかける。


「この村には何もございませんし……。先には魔窟があるだけですが」

「その魔窟に用があってきたんだ。少しここを拠点にするが……いいだろ?」

「なんと!魔窟に」


 村長は驚きの表情を顔に表す。

 それもそのはず、魔窟の恐ろしさは十分にわかっていたためである。

 しかし、勇者様が考えたことに口を出すのもよくないと思ったのだろう。

 村長は笑みを浮かべて首を縦に振った。


「拠点にするのは構いませんとも。それなら教会の方へ行かれた方がいいと思いますが……しかしなぜこの村に?もっと他の、冒険者組合のあるような村へ行ったほうがよろしかったのでは?」

「うっ……。まあ、それには理由があるんだよ。お前が知る必要もないことだ」

「そうでしたか。申し訳ありません」


 嘘だ。

 ラビリに一番近かった村がここだったという理由からこの町に来ただけで、そこに理由なんてない。

 単純にコウキの考えが足りていなかっただけだ。


「ああ、それと食料を五人分、あと生活用品とかもだな。分けほしいんだが」

「わかりました。すぐに用意させます」


 そう言うと村長は、近くに立っていた妻と思しき人物にいくつか指示をとばす。

 それを聞いた夫人は頷くと、光輝たちに礼をして部屋を出ていった。

 村人たちに伝えに行くのだろう。

 何とも早い仕事だが、それは勇者という人物がこの世界でどういう立ち位置にいる者なのかをあらわしてもいた。



 それから少したって。

 村長といくつか会話をしていると、ふいに玄関の方が騒がしくなっていることに気づいた。

 村人たちがもめているのか、怒鳴り声が聞こえてくる。


「すいません、勇者様。少し様子を見てきます」

「ああ」


 勇者様を煩わせてはいけないと思ったのか、村長が立ち上がって部屋を出ていく。

 少しして、村長の怒鳴り声が聞こえてきた。


「うるさいですね、全く。まあ、コウキ様を見たいってなる気持ちはわからなくもないですけど。それにしたって節操をわきまえてもらわないと」


 隣に座っていたエリーが不機嫌そうに言う。

 コウキを待たせていることも不満な点の一つなのだろう。


「まあまあ。エリー落ち着いて。そんなに怒っているとかわいい顔が台無しだよ」

「なっ!コウキ様……」


 コウキの言葉にエリーは顔を赤くして俯く。

 照れてしまったのだろうが、怒りはどこかへ吹き飛んだようだ。


「たぶんすぐ収まるだろうからさ」


 コウキはそう言うと、ちょっとぐらいなら待つさ、と続けた。



 しかしコウキの言葉とは裏腹に、しばらくたっても怒鳴り合いが終わらない。

 それどころか段々ひどくなっていた。


「おいおい、これまずいんじゃないか?」


 どんどんと騒がしくなっている状況を危惧したのか、シードルが腰を浮かす。

 しかし、コウキはそれを手で制して止めると、自らが立ち上がった。


「いや、僕が行こう。これ以上騒がしくなっても面倒だしね」


 勇者が来たことでもめているのだったら、勇者自信であるコウキが行けば収まるはず。

 そういう考えだった。


 部屋を出ようとするコウキに、エリーも立ち上がる。


「コウキ様。私もいっしょに」

「でも……」

「なにもないとは思いますが、一応私は護衛なんですから。コウキ様一人ではいかせられません」

「わかった、じゃあついてきてもらえるかな?」


 コウキはそう言うと、部屋を出て玄関へと向かう。

 そこでは、一人の中年男性が何人かの男たちに組み伏せられていた。

 村長がその中年男性に向かって怒鳴っている。


「なにを考えているんだ、バーレン!勇者様が気分を害したらどう責任を取るつもりなんだ!大体お前はいつも……」

「ちょっといいかな。僕に何か用があるの?」


 村長を止めると、コウキは割り込むようにしてバーレンに話しかける。

 コウキの突然の登場に、村長は驚いたように謝り始めた。


「なっ、勇者様。申し訳ありません、今すぐにこの男を……」

「いいから。バーレン、だったかな?」


 しかしコウキは謝罪を遮ると、しゃがみこんでバーレンの顔を見る。


「ゆ、勇者様?」


 顔を覗き込まれたバーレンは疑問の声を上げた。

 それも介さずにコウキはバーレンに話しかける。


「何かやってほしいことでもあるのかい?」


 単純にバーレンがなぜここまでするのか疑問に思っただけで、コウキは別に願いをかなえようとも思っていなかったのだが、その言葉にバーレンは救われたような顔をする。


「勇者様にお願いがあるのです!聞いてくれるのですか?」

「なに?」

「それはですね……」


 バーレンは一間おくと、組み伏せられて低くなっている頭をさらに下げる。

 そして


「――邪龍を、倒してほしいのです!」


 願いを口にした。

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