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閑話3.勇者パーティー

 王都から遠く離れた辺境にある、迷宮都市ラビルと魔窟近くの集落を結ぶ街道。

 街道といってもとても整備されてないような狭い道なのだが。

 年に数回、集落へ品物を売りに行く商人たちが通るくらいの、何の意味もないような道は、魔窟の近くなのでまれに危険な魔獣が現れることがあり、安全が保障されてないということもあってか利用する人もかなり少なかった。

 そもそも魔窟に向かうような変人が少ないのもあるが。



 そんな誰も使うことのないような街道を、とある一行が進んでいた。

 男二人に女三人の計五人、それぞれがばらばらの服装をしている。

 冒険者にも見える彼らは、実は王国で召喚された勇者の率いるパーティーだった。


 その内の一人、全身に鎧をまとって大きな盾を持っている男、シードルが疲れた表情で口を開く。


「なあ、やっぱりやめようぜ。魔窟はやばいところなんだって、聞いてんだろ?こんな状態で行ったら俺らひとたまりもないぞ、多分」


 一行がラビリを出発してからもう数日が経つ。

 それからずっと歩き続けているので、皆、特に鎧をまとっているシードルの疲労は大きかった。


「魔窟の中に入る冒険者もただでは帰ってこない、っていうし。ここは帰った方が賢明だと思うんだが」



 魔窟へと向かう数少ない変人たちの中で、その多くの割合を占めるのが冒険者だ。

 魔窟は独自の生態系を築いていることもあって、外の世界では見ることも不可能な貴重な植物、動物がたくさん存在している。

 魔道具やアーティファクトなんかも発見されることもあるくらいだ。

 そのどれもがかなりの高値で売買されるものであり、冒険者にとって魔窟は宝の山と言っても過言ではない。


 しかし、たいていのまともな冒険者は魔窟での狩りをしようとはしない。

 一仕事当たりの給金が他と比べて圧倒的に高いのに冒険者たちが魔窟に行かない理由。

 それはリスクが果てしなく高いということにあった。


 魔窟で採集を行うためには、当たり前だが魔窟に入る必要がある。

 通称外縁と呼ばれる魔窟の入り口ではなく、その中に。

 それは生半可な実力では帰っては来れないということを意味しているのだ。


 通常魔窟に入る冒険者たちが採集を行うのは、魔窟の表層と呼ばれる部分である。

 そこは、巨大な木々が生い茂り、強力な魔獣が闊歩する修羅の国。

 中層のような急激な環境の変化などはないものの、普通の人間にとっては「居る」ことすら難しい場所だ。

 当然魔獣と戦うことははるかに難しく、魔窟に入って無傷で帰ってくる冒険者は一割にも満たないだろう。

 それはA級、S級といった実力のある冒険者でも同じこと。

 傷を負って冒険者を続けられなくなるリスクのことを考えても、魔窟に入る冒険者が少ないことは当然だろう。

 疲れている一行が魔窟に行くなんて正気の沙汰じゃないというシードルの考えは、至極まっとうなものだった。



「ここはラビルに帰ってさ。魔窟へ行くのはもっとレベルが上がってから、準備をきちんとしていこうぜ」


 この遠征はリーダーである勇者の提案で突然決まったものだった。

 普通なら何日か計画を立てて、準備をする時間があるのだが、今回はそれがなかったためにもう食料も尽きそうだったのだ。


 しかし、その言葉に剣士然とした女性、エリーが反応する。


「うだうだとうるさいわね。魔窟なんてコウキ様にかかれば楽勝にきまっているでしょ!」

「でもなあ……。コウキだって疲れ溜まってるだろ?」


 王国に召喚された勇者、コウキ。

 国宝級の装備に身を包んだコウキは、まさかというかのように振り返り、シードルを見る。


「そんなわけないだろう。疲れているのは君ぐらいなもんだよ、シードル。なあ?エレン、リィー」

「えっ?そ、そうですね。私は大丈夫ですけど……」

「……私も大丈夫」


 コウキの言葉に、エルフのエレンと獣人のリィ―が賛同する。


「大体、一番体力がなきゃいけないタンクがなんてざまだよ。これがヒーラーのエレンとかならわかるけどさ」


 そう言ってコウキはエレンの方を見る。

 引き合いに出されたエレンは、居心地が悪そうに体をもじもじとさせると、長い耳を真っ赤にさせて下を向いて俯いてしまった。

 注目が集まることが恥ずかしかったのだろうか。


「いや、俺だってこんな重い鎧着てんだから少しは考えてくれよ。荷物だって俺に持たせてるしよ」

「それは当たり前だろう。君は女の子に重い荷物を持たせる気なのか?まったく、僕らは世界を救う勇者パーティーなんだから、少しぐらいは耐えてくれないと困るね」

「そうよ!まったく、役に立たないわね」


 やれやれと首を振るコウキ。

 エリーもそれに加勢するように、シードルに向かって言葉を投げつける。


「ちっ……わかったよ」


 何を言っても意味がないと悟ったのか、シードルが諦めたように黙る。

 エレンが慌てたように「手伝います!」と言っていたが、大丈夫だと断ると、シードルは黙々と歩き始めた。





 その夜。

 街道沿いの森の中、コウキ達は今後の予定について話し合っていた。

 話し合うといっても、基本的にコウキが行動を決めるだけなのだから。


「それじゃあ、リィ―。周りの様子はどうだった?」


 リィ―の職業はシーフである。

 シーフは隠密系の魔法を多数覚えているものがなれる職業だ。

 リィ―はそれ以外にも索敵などの魔法も覚えており、しかも獣人特有の聴覚がある。

 なので野営地の周りの安全の確認は、ほとんど彼女が行っていた。


 リィ―は皆の視線が集まるのを確認すると、報告に入る。


「……ここら辺一帯に魔獣の反応はなかった。今夜の見張りは一人でよさそう」


 リィ―の索敵範囲はかなり広い。

 そこら周辺に魔獣の群れがないということは、少なくとも夜中に大量の魔獣が襲ってくる危険性は少ないだろう。

 そして一匹に二匹の魔獣なら、勇者パーティーの人間であれば対処できないことはない。


 コウキはリィ―の報告に満足げに頷いた。


「ありがとう、リィ―。いつも使ってしまって悪いね」

「……問題ない。コウキの命令に従ってるだけ」


 コウキの感謝に、リィ―はそっけなくそう帰す。

 イケメンの権化と言っても過言でないほどのコウキの微笑み。

 たいていの女性なら少しは照れてしまってもおかしくないのだが、というか隣に座っていたエリーはその顔に見入ってしまっていたのだが、リィ―は生来の性格なのか表情を変えることもなかった。


「……そういえば、遠くにわずかな光が見えた。たぶん集落」


 リィ―が思い出したように言う。

 その言葉に、エレンがぱあっと顔を輝かせると、嬉しそうな様子を見せた。


「そ、それなら拠点にできますね!そこでゆっくり一日休んで、魔窟に行けばいいんですよ!」

「そうだね、食糧のこともあるし。……それに疲れたって駄々こねていた奴もいることだし、ちょうどいいかもね」

「……それは俺のことかよ、コウキ」

「おや?そうはいってないけれど、心当たりでもあるのかい?」


 再び剣呑な雰囲気になりつつある二人だったが、競り合ってもばからしいと思ったのだろう。

 シードルがため息をつくと、立ち上がる。


「どっちにしろ先へ行けば集落へ着くんだ。そこで食料を分けてもらって魔窟へ行けばいいだろう?それで決まりだ」


 そう言うとシードルは野営のために建てたテントへと戻っていく。


「ちょ、待ってくださいシードルさん」


 そのあとを追いかけるようにしてエレンも行ってしまう。

 リィ―も用事は済んだとばかりにテントへ戻っていった。

 二人の越されたエリーとコウキは、その背中を眺めながらため息をつく。


「……まったく、困ったものだね彼も」

「そうですよ!コウキ様に対してなんて態度なの!コウキ様ももっと怒ってもいいんですよ?あんなにやさしくする必要なんてありません!」


 エル―が憤慨したように言う。

 神様に選ばれたとされる勇者であるコウキに、シードルが文句を言ったりするのが耐えられないのだろう。

 そんなエリーの様子に気をよくしたのか、コウキはまんざらでもなさそうに言う。


「彼も一応僕たちの仲間だ。多少の無礼は許してやるべきだろう?……だけど、君の言う通りかもしれないな。もう少し厳しくしてもいいかもね」


 その通りですよ!と同意してくるエリ―。

 コウキがすべてだと思っているようなエリーの様子に、コウキは喜びを感じつつ、転生してからの待遇の良さを実感していた。



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