16.龍神との闘い3
なぜ、魔法攻撃が効きにくかった龍に、ダメージを与えられたのか。
それは単純だ。
槍に込められた魔力が桁違いだったからだ。
あの龍の鱗には魔力を霧散させる力がある。
僕は龍との闘いの中で、それに気づいていた。
龍に攻撃を仕掛けている中で、龍に当たった魔法が不自然に消えたり、暴発したりということが起こっていたのだ。
龍にかかる力を直接的に操れなかったのもそのせい。
僕の固有魔法もあの鱗によって妨害されていたのだ。
しかし鱗の効力は無効化ではなく霧散。
完全に魔法を消しきれるわけでもない。
ただ力を他所へとずらしているだけにすぎない。
そうだとしたら、龍に攻撃を通すにはそんなに難しい技術はいらない。
ただ、霧散しきれない巨大な魔力を当てればいいだけのこと。
その結果が、あの光り輝く槍だったのだ。
「……よし!」
龍を地に引きずりおろせた。
その喜びをかみしめる暇もなく、僕は次の魔法を展開させる。
「光鎖」
大地から、何本もの光の鎖が現れる。
巨大で、力強さを持った鎖は、龍の体を大地に縛り付けるようにして絡まった。
体も、足も、首も、口も鎖によって拘束される。
龍の体に当たった鎖は、その一部がばらばらになって消えてしまうが、すぐに修復されて龍の拘束を解くことはなかった。
自己修復機能。
この魔法で生成された鎖は、魔力の塊でできている。
なので、魔力を込め続ければ壊れたところもすぐに修復されるというわけだ。
もちろん、龍の巨体を縛り付けるくらいなので、込められている魔力の量は膨大だ。
普通ならそれに魔力を注ぎ込み続けて鎖を維持するのは不可能なのだが、そこは僕の能力がある。
魔力をつくり続けて鎖に込めればいい。
「……地盤ごと引っこ抜いていかないよな。さすがに」
龍は再び空へと戻ろうと、必死の抵抗を続けている。
その余波はすごいもので、もはや森はめちゃくちゃに破壊されていた。
しかし光の鎖の拘束は頑丈。
未だに龍は浮かび上がることすらできていなかった。
さて、これで殴り放題だ。
龍は拘束されて、身動きが取れない。
攻撃をされる心配もなく、一方的に攻撃ができる。
そう思ったとたん、龍の閉じられている口から白い光が漏れているのに気づく。
次の瞬間には、自らの口を突き破るようにしてブレスが発射された。
「口を開けなくてもブレスが打てたのか……っと」
しかし首は固定されているまま。
前一方向にしか打てないブレスをよけるのは簡単。
もはやブレスは脅威ではなかった。
それに。
「そろそろいけるかな……」
僕は、目の前を通り過ぎる白い光を眺めながらそう呟く。
「屈折」
そしてそう呟いた瞬間。
まっすぐに進んでいた光が、不自然に曲がった。
ブレスに、干渉した。
僕の能力は力の操作、創造、そして解析。
今まで干渉できなかった力でも、「解析」すればその法則も見えてくることもある。
それは、今回が初めてというわけでもなかった。
僕も最初からすべての魔法の法則が見えていたわけではない。
魔窟にいる間に、この解析の能力を使って一つ一つの力を使えるようになっていったのだ。
今回もそれと同じ。
ブレスも干渉不可能の力ではなくなったということ。
結局のところ。
龍の攻撃で直接的な脅威となるのがブレスだけだとわかった時点で、勝利条件は決まっていたようなものだった。
龍にブレスを打たせて、解析する。
その時間さえあればよかったのだ。
今まではブレスをよけることに力を割いていたからできなかっただけ。
こうもじっくりブレスを観察できるようになれば、解析もそう難しくはない。
「さて、魔法を霧散させる龍の鱗だけれども。……自分のブレスはどうなんだろうな」
そして。
干渉ができるということは創造もできる。
僕は目の前に、力を作り出す。
未知の力だった、しかし今では既知の力となったブレスの力を。
「こうしてみると威力が桁違いだな……」
今まで扱ったこともないような圧倒的な力の量が集まっていくのが分かる。
それは物理にさえ干渉し、風という現象として現れていた。
辺りに不穏な風が吹き荒れる。
もはや、龍のブレスをはるかに上回る量と密度の力が、集まっている。
そして
「さあ、耐えられるかな?……自分のブレスを、食らってみろ!」
ブレスが発射された。
初めて神龍以外に使われた魔法が、龍自身を貫く。
今までよりも時間をかけて作り上げた魔法。
それは圧倒的だった。
かろうじて残っていた木々が、一瞬のうちに炭化する。
辺り一帯の大地は、ドロドロに溶けてマグマに変化する。
光と熱が、あたりを包み込んで、その様子はまるで世界の終末を思わせるかのようだった。
そして、今まで幾度となく魔法を打ち込んでいたのがばからしくなるように、あっさりと。
ブレス魔法は龍の体を両断する。
鱗による霧散などなかった。
まとわりついていた光の鎖も、一瞬にして粉々になった。
龍の断末魔が聞こえてくる。
その怨嗟の声が、爆音の中でもしっかりと、聞こえてきた。
そして、雲がはれてあたりが見渡せるようになった頃。
体がボロボロにちぎれ、あちらこちらから血を垂れ流している龍の姿があった。
「あれでも死に切らないのか……」
あれを浴びてもなお、生きている。
そのことには驚かされたが、もう龍は瀕死。
ここから負けることなどはあり得ない。
龍は地に付したまま、僕を見ている。
その瞳に込められた意味は憎しみか、はたまた諦めか。
その意味は計り知れないが、魔獣の感情などどうでもいいかと、再度ブレスを打つ準備をする。
その時だった。
龍の体に満ちていた魔力が、次第に薄れていくのを感じる。
生物の最後に起きる現象の一つ。
ありふれた現象だ。
「もう、死ぬ間際だったのか……、ん?」
しかし起こったのは、よくある現象だけではなかった。
龍の体が淡く光り始める。
そして、それは魔力となってあたりへ広がっていった。
その内のいくらかが、僕の体へと流れ込んでくる。
「うっ……」
膨大な魔力の量。
異質なものが入ってくる感触に、思わず意識が薄れかかる。
今まで魔獣を倒してきたときは何ともなかったのに。
そんな疑問が湧き上がるが、それで異質間が薄れるわけでもない。
絶え間なく注ぎ込んでくる魔力の感触に耐えきれず、ついに僕は意識を失った。




