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15.龍神との闘い2

「まずいな……、打つ手がない」


 次々と落とされる岩塊から逃げながら、僕は焦りを感じていた。

 この状況を打破する手がなかなか思い浮かばない。

 このままだと押し切られて、そのまま負けてしまうかもしれないという考えが頭をよぎった。


「リスク覚悟で少し止まって、反撃してみるか……?」


 龍には生半可な攻撃は通じないことはわかっているので、魔力をさらに込めた魔法を打たなければいけない。

 そうなると、少しの時間――といっても一瞬というべき時間ではあるが――がかかってしまうので、ブレスに撃ち抜かれる危険性が出てくる。

 しかし今は、その危険性を受け入れてでも魔法を打つべきなのではないだろうか。


 そう思うが、龍の攻撃は刹那の隙もない。

 その為に僕は反撃をする余地も与えられずに飛び回っていることしかできなかった。

 反撃しなければ後がないことをわかっていながらも。

 何もできずにただ。



 しかし、チャンスはふいに訪れた。


 ふと。

 こちらから放すことのなかった龍の意識が他所へとそれる。

 じっとこちらを見ていた龍の目が、僕から外れて横へと移った。

 そのおかげだろうか。

 龍の攻撃が緩くなる。

 岩塊が生成されなくなったわけではないが、明らかに精度と連続性が鈍くなっているのが分かった。


「よし!今のうちに」


 突如として訪れた好機。

 反撃をするなら今しかないと、僕は龍に向かって魔法を放とうとする。

 龍をじっと見据えて。

 その時だった。


 龍の口が、ゆっくりと開く。


「まさか……ブレス?」


 龍の最強の一撃。

 あの龍がブレスを切り札にしているかどうかわからないが、それでも発動に少しの時間を要する強力な攻撃。

 僕との闘いの最中に他所へ向かってわざわざブレスを仕掛けるのはおかしい。

 可能性としては僕以上の敵性を見つけたか。

 しかし、僕の魔力探知には何も引っかかるのもはないし、何より僕以上に強い魔獣がそんなに存在するとは考えにくい。


 では何なのだろうか。

 何がそんなに龍の関心を集めたのかと気になって、龍から目をそらすべきではないとわかっていてもそちらを向かずにはいられなかった。

 僕は龍の視線の先を追う。


 すると、一つの人影が見えた。

 僕の良く見知った人影が。


「イース……」


 なんであんなところに。

 魔窟とは逆側へ逃げろと言ったのに。

 なんで。

 そもそも魔力探知に引っかからずにどうやって。

 なんで壁を抜けられたのだろうか。


 混乱が頭を支配する。

 しかし、ごちゃごちゃとまとまりのない思考を続ける僕の頭でも、このままではイースがブレスの犠牲になってしまうということだけが、鮮明に理解できた。

 壁をぬけられたのは自らがかけた障壁のせいだという答えにたどり着く暇もなく、僕の体が急旋回してイースのもとへと向かう。

 もはや龍の目線などに気を付けている余裕はなかった。


 イースはぺたんと座り込んで、どこかうつろな目で龍を見つめているだけ。

 自ら動こうという意志のかけらも見えない。

 龍の口にはもう力が溜まり終わっていて。


 僕がイースの体を攫い、その場から離れようとしたその瞬間。


 ブレスが、発射された。


 僕の視界が白い光で埋め尽くされる。

 そして、右足のあたりに鈍い痛みを感じた。

 久しく感じていなかった激痛。

 ブレスが体にかすったということが分かたが、僕はとにかく逃げ続けた。

 痛みと混乱で自分がどの方向へ飛んでいるのかもわからなくなりながら、逃げ回った。



 ブレスが続いていたのは数秒だろう。

 これまでの戦闘ですっかり変わり果ててしまった森の中に、僕は倒れていた。

 もうブレスは消えている。


「……イースは?」


 気になってあたりを見渡すと、イースが少し離れたところで横になっていた。

 動いている気配はない。

 もしや、という考えが一瞬浮かぶが、よく見ると肩が上下しているのが分かる。

 目立った外傷もなく、ただ気絶しているだけのようだ。


 ふう、よかった。

 イースは助かったらしいな。


 そう気を緩めた瞬間、体中に激痛が走る。

 視線を落として下を見ると、大量の血が地面に流れ出しているのが見えた。

 右足が、なかった。


「―――ッッッ!」


 歯を食いしばりながら痛みに耐える。

 悲鳴を出したくなる気持ちを一身にこらえて、僕はしばらくの間、地面に転がり悶えていた。


 龍の追撃がないということは、こちらを見つけられてはいないということ。

 その状況で声を出して龍に見つかってしまったら危なかったからだ。


「はあ、はあ……。とりあえず、止血を……」


 能力で右足に力をかけ出血を止めると、近くにあった木にもたれかかる。

 今はこれだけでいい。

 治癒の魔法を使えば部位欠損ぐらいなら治らないこともないが、魔法の使用で龍に気づかれ、ここら一帯ごと石塊で押しつぶされればイースを助けることができない。

 それに、今は傷を治すよりも先にやることがあった。

 龍がこちらに気づいていない、この間に。


 僕は魔法を使い、空へと浮かび上がる。

 木の上、さらに上へと。

 そして、視界を遮る所外物がすべてなくなった頃、龍の姿が見えた。

 僕がそこまで上がってようやく、龍はやっと僕に気づいたのか体の向きを変える。

 そして、再度ブレスを放とうと口を開けようとした。


 しかし、遅い。


 僕は目の前の空間に魔力をありたっけに作り出す。

 魔法の構成とか、制御とかそんなものは後回しにして、一瞬で作り上げられる最高の魔力を。

 そして、その魔力が。

 考えられないほどに集まり、凝縮された魔力が。



 ――ひとりでに形を変え、そこに輝く槍が現出した。





 遠い遠い昔の話。

 魔法大国といわれたある国が、ほかの国家連合と戦争をしていた時代があった。

 双方の国力は互いに拮抗しあっており、戦争は泥沼化、さらに苛烈なものへとなっていった。

 しかし、そうして長く続いていた戦争は、魔法大国が放った一つの魔法で、あっさりと終結することになる。


 光り輝く槍の魔法。

 それが戦争を終わらせた魔法だ。


 曰く、何人もの魔術師が何日も魔力を注ぎ込んで完成させた魔法。

 曰く、一撃でいくつもの都市を破壊し、国を滅ぼした魔法。


 その魔法には神も脅威とみなしたのか、魔法大国はすぐに神達に滅ぼされてしまうことになるが。

 しかし、光り輝く槍は魔法大国が滅びた後も語り継がれ、いつしか神槍の物語として伝承となっていた。





 そんな神さえも恐れた、魔法の槍。

 それが、龍に向かって猛スピードで飛翔する。

 避ける暇もない。

 一間おいてそれは、龍の顔面へと直撃した。


 派手な爆音が鳴り響く。

 膨張した空気の塊が、衝撃波となって森をなぎ倒す。

 それと同時に、泣き叫ぶような龍の咆哮が、聞こえてきた。


「……効く?効いている!」


 まるで痛みに耐えきらなかった悲鳴のような声。

 どんな魔法でも対してダメージの入っていなかった龍に、攻撃が通じた。

 そのことに、僕は興奮が隠し切れなかった。

 これなら、これなら龍を倒せるかもと。


 龍は痛みから逃れようと、じたばたと体をよじらしている。

 その口からはブレスが放たれているが、僕にかすりもしない、全く見当違いの場所にあたっている。

 どうやら目がやられたらしい。


 もはやこうなれば、隙も何も無い。

 僕はゆっくりと、龍の頭上に魔力を作り上げる。

 一つではない。

 いくつもの魔力を、さっきと同じように。


「もっと、もっと……」


 一つ、また一つと輝く槍が顕現していく。

 そして、数秒もたたないうちに、夜空が槍で埋め尽くされた。


 龍に防御の気配なし。

 イースの障壁も稼働済み。

 未だ悶え続ける龍を目にとらえながら、僕は槍に命令を下す。


「降れ」


 その一言で、夜空に浮かんでいたいくつもの槍が、龍に向かって放たれる。


 次々と、槍が龍に当たる。

 そのたびに光が爆ぜ、爆発音が鳴り響く。

 光が絶えず輝き続ける。

 槍の爆発で生じる爆音は、もはやつながって聞こえてさえいた。


 龍の悲鳴が爆音にかき消される。

 槍の攻撃に耐えきれなくなってきたのか、龍はゆっくりと高度を下げていった。



 そして槍の攻撃が止んで、あたりに静寂が戻った頃。

 ズズンという大きな音とともに、龍の巨体が地へと堕ちた。


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