22.根回し
「――では、複数の亜神が帝国側に与している言う事ですか」
「ええ。帝国はそれを隷属の首輪で従えているようでした」
「では帝国の新兵器は?あれは彼らの能力と関係が?」
「さあ、そこまでは……。ほとんど会話もなく討伐してしまいましたから」
「そうでしたか。……龍神様にとって彼らは脅威だと感じられましたか?」
「いいえ、僕に対して、と言う意味ではそうは思いませんでした。しかし天界の通常戦力に対して、で言えば十分に脅威です。事実、レーゲンタールに送り込まれた軍は全壊、指揮官の神ですら亜神の内の一体に倒されてしまった」
天界議会、報告会。
僕らは下位議会の議員にそう説明する。
「一つ質問ですが、下位議会はこの件についてどう対処するつもりなのですか?」
「……下位議会としては、戦闘に長けた上位神を主軸とした軍を編成することを検討しています」
「検討。神が倒されたというのに随分と悠長ですね。それに、あなたの言う案では戦力に不安がありませんか?」
「お言葉ですが、鎧殻神は決して戦闘に長けた神とは言えませんでした。我々の中でも下から中程度の強さと言ったところです。仮に亜神の強さが我々の想定を超えたとしても、複数の上位神でかかれば問題ないかと」
議員がそう口にすると、少し離れた場所に座るイースが大きなため息をついた。それを聞き、議員の肩がびくりと跳ねる。
「――エル様の言う事を疑われるおつもりですか?」
「い、いえ。そう言うつもりではございませんが――……」
「言い訳は結構。鎧殻神といい魔剣神といい――あなた方には危機感が足りないようですね」
イースが威圧感マシマシで議員たちを睨みつけると、彼らがぶるりと震えた。パワハラここに極まれり。正直僕も少し怖いが――まあ、計画通りである。
「いいですか?ラビルの初遭遇を受けて、エル様は鎧殻神に対して十分に気を付けるように警告を出していました。しかしそれを無視し、鎧殻審はあろうことか敵陣に乗り込み亜神と一対一で戦った」
「そ、それは……」
「私が何を言いたいのかは分かりますよね。もう一度、同じことを繰り返すつもりですか?」
イースの言葉を受けて、議会たちは皆下を向く。
「あー、僕の考えとしては、帝国の亜神は我々最高神が対処すべき脅威であると考えています。そのため、仮に帝国議会からの要請が得られない場合、僕は西方大陸守護軍からの要請に従い単独で亜神の討伐を行いたいと思っております」
「なっ、それは――議会の意向を無視すると言う事ですか!そんなことをすれば議会と最高神の均衡が――」
「それが嫌なのであれば、早急に本案件を『災害』に認定し、最高神に議会から協力を申し込むべきです。あなた方が行わなければならない事は部隊の再編成ではない」
イースが僕の言葉を受け継ぎそう言うと、「いいですね?」と念押しをした。
「期限は今週末です。それまでに要請が出されない場合、我々は守護軍の任を代行します」
「……分かりました。議会に持ち帰って検討致します」
イースが「よろしい」と言うと、議員たちが頭を下げる。
よし、これで僕らが亜神討伐に行くための大義名分が作れることだろう。レーゲンタールの戦いで出された西方大陸守護団の要請を拡大解釈しても良かったが、それだと帝国と天界の戦いを肩代わりしなければなくなる。そこには興味はない。
それにしてもイース、議会の人たちにあたりが強いな。そう聞いたら「私の派閥ですから」と言われた。
……自分の部下なら何してもいいってわけじゃないんだよ。
■
数日後、僕はウォルトの部屋にお呼ばれしていた。
「天界議会から最高神に『災害』の対処の要請が来た」
「おお。どんな?」
「……知っているだろう。帝国との件だ。帝国に与する亜神の団体への対処――それが要請だ」
なるほどね。亜神の団体が帝国に協力している、という体にすることで帝国と天界との戦いには僕らを関わらせないつもりか。あくまで戦争自体は守護軍が行うことで、天界議会のメンツを保とうとした、ってとこかな。
まあこちらとしても面倒がない分、そちらの方が都合がいい。僕らは転生者の捕獲に注力するとしよう。
「亜神との戦闘を経験済みの貴様に頼むことになるが、いいな?……と言うより、そうなるように貴様が手を回したのだろう?」
「僕じゃないよ。イースだよ」
「どちらにしても同じことだ」
ウォルトはため息をつくと、僕のことをじろりと見た。
「……何を企んでいる?」
「別に何も?ただ天界議会に任せて被害が拡大するよりかは、僕が行ってきた方が早いと思って。ちょうど仕事もしたかったしね」
「……そうか。向かうのは貴様だけか?」
「イースを連れて行こうと思っているけど」
僕がそう言うとウォルトは手元にあった資料をぺらりとめくり、僕に投げつけた。
「帝国は現在、ゲリラ戦術を展開しているらしい。ゲリラとして運用されている戦力の中に、亜神は確認できていないが、貴様が戦場に出れば姿を現し始めるかもしれない」
「問題ないね。大規模な部隊ならともかくとして、僕とイースだけなら対処可能でしょ」
「貴様ら二人だけで行くつもりなのか?」
「そのつもりだけど。……まあでも、心配ならエレーナも誘おうかな。彼女が居ればゲリラなんて意味をなさない」
ウォルトは僕の言葉に「そうだな」と言った。
「ではその三人を向かわせる事で話をつける。……くれぐれも油断はするなよ」
■
「――残りの転生者も取り込むつもり?」
話し合いが終わり、プールサイドを去ろうとした僕らの背中に、ヒカリはそう声をかけた。振り返ると、ヒカリはプールではしゃぐ仲間たちに視線を向けていた。
「僕はそう動くつもりだよ。でも全員助けられるかは分からない」
「……そう。よかった」
ぽつりと呟いたその言葉は、彼女の本心だったのだろう。鉄仮面でもかぶっているんじゃないかと思っていたヒカリの顔が、その一瞬、ほんの僅かではあるがほっとしたような表情を見せた。珍しい表情を見せたヒカリに、僕は驚く。
――と同時。
僕の視界を横切って、イチカがヒカリにダイブした。
「――んにゃー!!ヒカリちゃんの珍しいデレ!!珍しいもん見れたにゃ!!」
「ちょ、離れて。あつい、うざい」
「んもー、照れちゃって可愛いにゃ!まったくヒカリちゃん、仲間思いなんだからにゃー」
「そんなんじゃない」
すっかり元の表情に戻ったヒカリが、ゼロ距離で抱き着くイチカをうっとおしそうに押しのける。しかしいくらやっても離れないイチカに、ヒカリはため息をつくとなされるがままになる。これ以上は面倒くさいと思ったのだろうか。
「……全員助けられるように努力するよ」
「そうだにゃ!ヒカリちゃんを悲しませるんじゃないにゃ!」
「はいはい」
イチカの言葉に肩をすくめると、「――でも」とイチカが言った。
「助けるってことは、エルがみんなと戦うのかにゃ?」
「そのつもりだけど。まあ首輪の解除さえうまくいけば戦うこともないんだろうけど」
「じゃあ、誰が強いのかとか知っといた方がいいのかにゃ」
「おお、知ってるの?」
僕がそう尋ねると、イチカはふふんと胸を逸らして、
「――誰に物を訪ねていると思っているのかな?何を隠そう私の帝国での異名は『格付けマスター』だにゃ」
「……絶妙にダサい」
「んな!某正月特番の名づけをバカにするのかにゃ!?私のバックには浜ちゃんが居るんだにゃ!」
「あー、そう言えばそんな番組もあったね。――……じゃなくて、君、目利きができるんだ」
「まあにゃ。私の強さ測定は正確だにゃ」
「ふーん。じゃあ聞くけど――残りの転生者にヒカリぐらい強いのは居る?」
特殊魔法が扱える転生者は、確かに天使や普通神にとっては脅威だろうが、僕にはそこまで危険には感じない。しかし例えばヒカリのような能力者が複数いれば、僕でも正面から戦うのは危ういかもしれない。
僕の質問に、イチカはうーんと唸る。
「難しい質問だにゃ。それが仮に、ヒカリちゃんに勝てる転生者がいるか――って質問だったら、答えはノーにゃ」
「……私は最強」
「そうじゃないにゃ。ヒカリちゃんは破壊力が抜群だから、自爆特攻されたら誰も耐えられないって意味。エルたちも見たにゃ?ヒカリちゃんの最終兵器」
「ま、そうだね。そんなことされたら僕だって耐えられない」
ヒカリはその能力で、核爆弾を現世に持ってくることができる。ただし、その最終兵器は諸刃の剣、あまりにも広範囲に広がる爆炎は使用者であるヒカリ自身にも牙をむく。そのため普段であれば取り出した爆弾は、その爆発に自分が巻き込まれないよう少し時間をおいて爆発するように設定されているはずだ。故に、逃げるなり防ぐなりの手段が取れる。
しかし、ヒカリが自身の被ばくも厭わなければ、彼女はもっと確実な方法を取ることができる。取り出して即爆破。そんなことをされれば、僕だろうが誰だろうが防ぐ間もなく蒸発するだろう。
「でも、その禁止カードを除いても、ヒカリちゃんは強かった。そうだにゃー、私たちの中でヒカリちゃんとまともに戦える子は――……多くとも三人。全員ここにはいないにゃ」
「三人?」
「そう。ヒカリちゃんを入れて四人。今頃は『ヒカリがやられた?ふふふ、奴は四天王の中でも最弱』ってやってるにゃ」
「……私は最弱じゃない」
「そうだにゃ。ヒカリちゃんは中堅ぐらいかにゃ」
「む、私は最強」
「意固地なヒカリちゃんも可愛いにゃー」
……三人。三人か。そんなイチカとヒカリのやり取りを眺めながら、僕はそう考える。
ヒカリが三人と考えれば、そこまでの脅威には感じない。しかしどんな能力を使えるか分からない以上、油断もできない。
「分かった、気を付けるようにするよ」
「……手伝う?」
「いや、君たちの姿を晒すわけにはいかないし」
「何かあったら相談するにゃー。情報ならいくらでも出すからにゃ」
「ありがとう」
二人にお礼をすると、僕はプールサイドから立ち去った。




