21.説明と考察
帝都、宮殿の豪華な一室。
もはや隠す必要もなくなったその会合は、絢爛なシャンデリアの輝きとは裏腹に暗い雰囲気に包まれていた。
「――レーゲンタール前線は完全に崩壊、指揮官であったガーラ将軍は死亡が確認されました。天界軍はそのまま国境近隣の都市ベルクヴェルトに攻め込み、同都市を占領しました」
「……忌み子たちは」
「レーゲンタールに配備された忌み子のいずれも帰還したという情報は入っておりません。おそらく敵の手にかかったものかと……」
「……」
報告に対し、皇帝はしばらく返事をしなかった。
レーゲンタールに送り出されたのは、対する天界軍と比較しても過剰と言える戦力だった。人間界はおろか天界にもないであろう強力な兵器、帝国兵力のおよそ五分の一にも相当するかと言うほどの大群、そして神に対抗し得る力を持った忌み子。
レーゲンタールには、帝国が戦力として保有している忌み子の半数近くが配備されていた。皇帝は彼らを、ほとんど実戦演習をさせようかという考えで送り出したのだ。彼らの敗北など考えていなかったから。
しかし――その、完膚なきまでの敗北。
皇帝は鋭く息をつくと、「クソッ!!!」とテーブルに拳を打ち付けた。
「――何故負けたのだ!!戦力は十分だったはずだ!!」
「は、はい。実際の所、わが軍は天界軍に対して大損害を与えることに成功しています。忌み子による神の討伐も確認されています。天界軍の第一次攻撃に対してはこれをほとんど損害なく退け、第二次攻撃も塹壕を突破されることなく凌いだと。その際に忌み子による神の討伐も報告されています」
「――っ、じゃあ何故負けた!」
「そ、それが……詳しいところは分かっていませんが、神が討伐された後、別の神による強襲があったとかで……」
「何?神が大挙して押し寄せたのか?」
「いえ、報告によれば――たった二人だったと」
「――ッ!!――……最高神か!!」
皇帝はそう言って歯を食いしばった。
神には階級が存在し、階級によって強さが異なる。その事実は皇帝も知っていた。特に、神獣に対抗できる天界の最高戦力――最高神は、桁が違うと言う事も。
しかしそこまでだとは思っていなかったのだ。まさか神と等しい存在三十人を、たったの二人で相手にできるほどとは。
「……天界軍の状況は」
「ベルクヴェルトから動きはありません。転移陣の起動を行っているようですが……」
「なら、すぐに周辺の都市に戦力を集めろ。天界の通常戦力に対しては兵器が効果的であることは分かったんだ。同時に、都市の周辺でゲリラを仕掛けろ」
「ゲリラ、ですか……」
「効果的ではないだろうが、天界に最高神を出し渋らせることは期待できる。彼らの足が鈍っている間、我々は最高神への対応を考えるぞ」
■
天界、イースの邸宅。
ちょっとしたテーマパークほどあるのではないかと思えるほどに広い庭園の、その一角に用意されたプールでは、三十人ほどの男女がきゃっきゃしながら遊んでいた。周りには天使たちの姿。いずれもイースの部下であり、こちら側の天使たちだ。
「……なあ、ヒカリも一緒に遊ばないか?こんなところで休んでないでさ」
「気にしないで。私はここでいい」
「――んな!タツキ君ナンパかにゃ!?ダメダメ、ヒカリちゃんに話しかけるには私を取り次いでもらわないと!!」
「イチカ、お前はヒカリの何なんだよ……」
そのプールサイドのパラソルの下。
そんな楽し気な会話を繰り広げていた三人を見つけ、僕は声をかける。
「よ、楽しんでる?」
「うん」
「最高だにゃー!!ありがとう神様―!!」
「……げ、神か。まあでも確かに、ここは最高だな」
「よかったよかった。お礼はイースにね。ここはイースの家だから」
「とんでもございません。私のものはエル様のもの、従ってあなた方が感謝すべきはエル様ですよ」
「……逆ジャイアン?」
こてんと首を傾げたのは、ヒカリ。僕はヒカリの言葉に苦笑すると、隣に腰かける。次いで、僕と一緒にここを訪れたイースとエレーナが腰を下ろした。
それを見て、神に苦手意識のあるらしいタツキは渋い顔をする。
「何しに来たんだよ。まさかお前も遊びに来たのか?」
「む、もしかしてエルもナンパかにゃ!?ダメだにゃー、ヒカリちゃんは私が守るにゃー」
「イチカ、暑い。引っ付かないで」
「いや違う違う……って、あながち間違いでもないのか?」
僕の言葉にタツキがぎょっとしたような顔をする。ははーん、もしかしなくてもこの子、ヒカリ狙いだな?
「んな。そ、それはだめだぞ」
「あー、君が思っているような意味じゃないから大丈夫。僕たちは君たちの今後について話に来たんだ」
「今後……?」
「今後の予定はとりあえず贅沢三昧だにゃー」
話が真剣なものであることが分かったのか、タツキの表情が変わる。イチカとヒカリはいつも通りであったが。
こほん、とわざとらしく咳をして、僕は話を始める。
「さて、君たちの今置かれている状況から話をしようか。まず、君たちに対する天界の感情は、最悪と言ってもいい。何せヒカリが神の一人を倒してしまったんだ。そうでなくても君たちは特殊魔法を扱う――いわば亜神。見つかった時点で即、討伐対象。実際の所、僕に下された指令も君たちの討伐でね。困ったもんだよ」
「――え」
討伐対象。その言葉を聞いてタツキが絶句する。
「でも今、そうはなっていない。何故だと思う?」
「……エルが匿ってくれているからかにゃ?」
「ピンポーン。ここはイースの邸宅で、僕の名の元に守られている。他のどの神もここの様子をうかがうことはできない。ついでに君たちは討伐済みで報告してあるしね」
「じゃあお前は天界の命令を破っていると言う事?」
「それは正しくないね。天界の誰も――最高神を除き――僕に命令することはできない。だけどそうだね、天界議会に僕らは嘘をついている」
僕もイースもエレーナも、口裏を合わせて議会にこう言った。「亜神たちは全員討伐した」と。
「君たちのことがバレたら、僕らは少しまずいことになる。当たり前だよね、神を殺した犯罪者をかくまっているんだから。だけど僕らはリスクを冒して君たちを助けた」
「理由があるって言いたいのか?」
「もちろん。まあ支配されていた君たちを助けたかった、という言葉にも嘘はない。だけどそれだけじゃリスクを冒す理由にはならないよね」
「なるほどね」
タツキは納得した様にうなずいた。驚くべきことに、その顔には少し緊張のほぐれたかのような表情がある。おそらく彼は、無償の救済などあるはずはないと思っていて、だから僕らを警戒してたのだろう。
「で、私たちに何をさせたいのかにゃー?あんま大変じゃないことがいいけど」
「何、具体的なことはまだ言えないけれど……単に戦力が欲しかっただけだよ。来たる時に、僕らの味方になって戦ってほしいんだ」
「誰と戦うのかにゃー」
「それは……」
「――天界。違う?」
イチカの問いに僕が言い渋ると、代わりにヒカリがこちらを向いてそう言った。僕は少し驚いて、
「……ご名答、と言えばいいのかな。まあ天界が敵ってわけでもないけど――……どうしてそう思った?」
「あの時あなたは、私が倒した神とは別の目的で動いていると言った。それが根拠」
「なるほど、良く覚えてたな」
「そもそも天界に嘘をついて私たちを匿ってる以上、天界が敵なのは予想できて然るべき」
「……ふん、なんだ。支配から解放するとか言っときながら、僕らを天界と戦わせるのか?求めることは帝国と同じじゃないか」
「でも僕らは魔法で君たちに強制させることもしないし、こうして贅沢もさせてあげている。その分ましだと思ってもらえないかな」
僕の言葉に、タツキは不満げに「まあそれは」と言った。
「ともかく――君はリーダーなんだろ?ここにいる人たちをその方向でまとめて欲しくてね。お願いできるかな」
「なるほどな、だから僕に最初に話したのか」
「そう言う事」
この中で一番強いであろうヒカリに、リーダーだったタツキ。この二人の了承が得られたなら、その他は簡単にまとめることができるだろう。
タツキは不承不承と言った様子で、僕の言葉に頷いた。
「まあ、他に選択肢もないしな。ここを出たら天界につかまって死刑なんだろ、僕ら」
「多分そうだね」
「全く、分かったよ。何とか皆に話してみる。――……話はそれで終わり?だったら早く遊びに行きたいんだけど――」
「――じゃあ私から一つ、質問いいかしら」
口を挟んできたのは、エレーナ。面識のなかったタツキが「あ、ああ」と面食らったように言った。
「単刀直入に聞くわよ。あなたたち、何者?」
「何者……」
「って言われてもにゃー」
「……私は私」
エレーナの曖昧な問いに、三者三様、首を傾げる。
「あー、……あなたたちの名前。勇者と同じような名前よね。だけどあなた――ヒカリは、自分たちは勇者召喚で呼ばれたわけではないと言っていた」
「そう。勇者召喚と言うのが何かは分からないけど、少なくとも召喚はされていない」
「じゃあなんであなた達は帝国の名ではなく勇者のような名を持っているのかしら?」
「そりゃ、私たちのこの世界での名前がないからだにゃー」
「名前がない?」
イチカの答えに、エレーナは疑問の声を上げた。
「ああ、僕たちは――この世界で忌み子と呼ばれる存在だったらしい。忌み子と言うのはこの世界で差別される存在なんだろ?帝国が幼かった僕たちを回収するまで、僕たちには名前がなかった」
タツキの言葉に、イースが表情をわずかに動かした。イースも元忌み子。彼女の生まれた村では、ただ一人を除いてイースの事を名前で呼ぶことはなかった。
「だから私たちは、元の世界の名を名乗ることにした。それがあなたの言う勇者の名」
「元の世界――……ってことは、まさかあなたたち」
「そう、私たちは異世界の記憶を持っている。それはたぶん、勇者が呼ばれるのと同じ世界」
「……でも、召喚されたわけではない」
「そうだにゃー。この世界におぎゃあと生まれたその瞬間から、私達には別の世界の記憶があった。召喚が転移なら、私たちはさしずめ転生ってとこかにゃ」
転移と転生。元の世界の体のままこの世界に呼ばれることと、元の世界の記憶だけ持ってこの世界で生まれることでは訳が違う。
彼女たちのその言葉を聞いたエレーナは驚きの表情を見せる。
「転移じゃなくて転生――……そんなまさか」
「ん?まさかって――勇者召喚があるってことは、転生もこれまでにあったんじゃないの?」
「いいえ、今までにそんなことが起ったことはない。そもそも世界を超えるってそんなに簡単なことじゃないのよ。勇者召喚だって現在では再現不可能な古代の魔法。それこそ――創造神クラスの力がないと、そんなこと不可能よ」
「へえ、ウォルトでも無理なんだ」
「ええ、空間に特化した彼の魔法でも世界は超えられない」
なるほど。じゃあ彼女らの存在はとびっきりのイレギュラーだと。
僕がそう納得すると、エレーナが口を開いた。
「……じゃあ貴方たちのその強力な特殊魔法も、異世界の記憶を持っていることが理由なのかしら。正直あなたたちの特殊魔法は異常だわ。勇者や亜神のそれよりもずっと強い」
「特殊魔法?――ってああ、私たちの魔法かにゃ?うーん、別に関係あると言えるのかどうか。気づいたら使えるようになってたしにゃー」
「でも関係がある可能性は高いんじゃないか?首輪の影響で良く覚えていないけど、同じように集められた奴らの中には僕らみたいな魔法が使えなかったのもいた。そいつらは皆総じて、異世界の記憶を持っていなかった」
「あ、そう言えばそうだった。よく覚えてるにゃあ。でもそれで言うなら――帝国の人たちが言ってたのは、確か私たちが忌み子だからって言ってたような。それは関係ないのかにゃ?」
「ええ、関係ないことはないけれど、忌み子であると言う事は単に神の器足り得ると言う事でしかない」
「神の器?」
「ええ。特殊魔法は言い換えれば神の力。誰にでも扱えるものではないわ。忌み子は特殊魔法を扱える可能性がある者の名前――だけど裏を返せば、それだけで特殊魔法が使えるという訳ではないの」
エレーナが話していることは、僕にとっても初耳の事だった。そう言えば人から神になったイースも忌み子だったし、僕だって忌み子のようなものとして扱われていた。
「特殊魔法を扱うためには、器でなければならないことともう一つ、神の力を手に入れる必要がある。例えば勇者は、召喚の際に第一位の力を一部譲渡される。例えば亜神は、古代のダンジョンのコアなど強い魔力を持つものを取り込んで神となる。例えば最高神は、神獣を倒してその神核を吸収する。じゃあ――あなたたちは?その力は一体どこから来たの?」
エレーナの問いに、イチカたちは顔を見合わせた。
「そんなこと言われてもにゃあ。心当たりがないにゃ」
「ああ、全くだ。僕たちよりも帝国の技術者に聞いた方がよっぽどいい」
「私もそう思う。私たちがこれについて言えることはない。だけど――」
ヒカリはそう言って、表情も変えず、静かにこちらを見た。僕の方を。
「――あなたなら知っているんじゃない?」
「……僕?」
「そう、あなた。だってあなただって、私たちと同じはずだから」
「え?どういうことですか?」
「私たちと同じで、前世の記憶を持っていると言う事」
イースの驚いた声に、ヒカリはそう答えた。これまでイースにも言っていなかった真実。ま、別に隠していたわけでもないけれど。ただ何となく、言っていなかっただけ。
けれどその事実を口に出され、多少気まずくはある。僕はイースから視線を逸らすと、ヒカリに問いかける。
「……なんでそう思ったの?」
「私の能力は、元の世界の兵器を使う。だけど最初にラビルで遭遇した時、あなたは私の兵器を知っていた。レーゲンタールであった時も。天界にも同じものがあるからかと思ったけど、私が倒した神はそれを知らなかったから」
「だから、僕が異世界の知識を持っていることに気付いた、と」
「エル様。ではまさか――」
「ああうん、そうだよ。僕も彼女たちと同じ、異世界の記憶を持っている。隠していてすまないね」
「いえ、それは――構いませんが……」
少なからず衝撃を受けた様子のイース。それを見てヒカリが「言ったらまずかった?」と視線を向けて来たが、僕は首を横に振った。別にバレても問題はない。
しかし、それにしても聡い子だ。顔を合わせたのはほんの僅かだというのに、少ない情報から僕が異世界人であることを見抜いてきた。すんとしているようで色々考えているのかな?
ヒカリたちの視線に、僕は「うーん」と顎に手をやる。
「でもだからと言って、僕が何か知ってるとは思わないでほしいな。持ってる情報としては君たちと一緒だよ」
「じゃあ……」
「うん、分からない。何故僕らがこんな力を持って生まれて来たのか――……エレーナ、僕らの前には、転生者は確認できていないって言ってたよね」
「ええ。私たちは時々忌み子の調査をしているけれど、異世界の記憶を持っていた子なんて見たことがない」
「そこがポイントなんじゃないか?転移でなく転生。召喚でなく乗り移り――」
僕が独り言のようにそう呟くと、ヒカリが「あ」と声を上げた。
「――……呼び出されたのではなく、送り出されたのなら」
「どういう事にゃ?ヒカリちゃん」
「これは私の仮説だけど――」
そう言ってヒカリはどう説明しようかと考える様に目を横にやる。
「まず、勇者召喚について。これはこちら側の世界から向こう側の世界の人間を呼び出す魔法。その魔法によって勇者は転移してくる。魔法陣は古代のもので、現代の誰もが再現不可能。あってる?」
「ええ、認識はあってるわ」
「しかし私たちはそんな魔法陣は知らないし、誰かから呼び出されたわけでもない。なら何故私たちはこの世界に来たのか――それは、向こう側の世界からこちら側の世界に送り出されたから」
勇者たちは呼ばれたから世界を渡り、僕たちは送り出されたから世界を渡った。ヒカリはそう仮説を口にする。
「そう考えると、次の疑問は『どうやって』私たちが世界を移動できたか。送り出されたというのなら、その原因は元の世界にある。しかし私たちはそんな技術は聞いたことがない」
「そうだね。僕の知る限りでも、元の世界では異世界の存在すら知られていなかった」
「だけどいくつかの事実から、仮説を立てることができる。一つ、勇者召喚の魔法陣があなた達ですら再現不可能な代物であること。二つ、私たちの特殊能力が――神の力であること」
ヒカリの言いたいことに気付いたのか、タツキが「おい、まさか――」と呟く。ヒカリは「そう」と首を縦に振った。
「――私達を送り出したのは、私たちの世界の神である。それが私の仮説」
「えぇ?元の世界の神様にゃ?でもそんなのいないんじゃないかにゃ?」
「元の世界においても、神が存在しないという事実が確認できたことはない。それに、この世界に神の力が存在している以上、私たちの世界にもそれを扱う存在が居る可能性は否定できない」
「それはそうだが……」
「あと、これはあなた達に言っていない事実だけど――」
ヒカリはそう言って僕らの方を見る。
「私たちがこちらの世界に来た時期はバラバラ。私は五年前だし、イチカは三年前でタツキは七年前」
「僕もそれぐらいかな」
「――でも、私たちが向こうの世界を出た時期は一致している。西暦2020年3月20日。最後の記憶の日付を問われた時、皆口をそろえてこう言った」
もう数年前の事なので詳しい日付は覚えていない。しかし僕の記憶でもこの世界に来たのは春だったはずだ。
「3月20日。私たちの世界でその日に何かが起き、私たちの世界の神は私たちをこの世界に送った。その際に私たちには神の力が与えられ、そしてその受け皿である忌み子の体に意識が芽生えた」
「なるほどね。まあ、考えられない話じゃない」
「加えて、この仮説はある一つの予想を導き出す」
「予想?」
「そう、あなた達のことについて」
ヒカリはそう言って僕らを指さした。僕と、イースと、エレーナを。
「あなた達はさっき、天界と戦うために私たちの力を借りたいと言った。だけどそれは厳密には正しくないとも」
「うん」
「私の予想は――あなた達の敵は第一位。この世界で創造神と呼ばれる神であると言う事。あっている?」
「――ッ!……なんでそれを」
ヒカリが予想を口にすると、エレーナが顔をこわばらせた。心に隠していたことをヒカリが見事に言い当ててしまったことによる驚愕である。
「やっぱり。……私の仮説が正しいとすると、私たちの力は私たちの世界の神の物。対して勇者の力はこの世界の神の物。しかしあなたはさっき、私たちの力は勇者たちよりもずっと強力だと言った。もう一つ、勇者召喚の魔法は神の誰でも再現不可能だとも」
「ええ、それがどうしたのよ」
「私の世界の神と、この世界の神――つまり創造神には、明確な力の差があるように思える。何故私たちの世界の神にできることが、この世界の神にできないのか」
「……神の力の差がある、とかじゃないのかにゃ?」
「その可能性もある。しかし私たちの世界で神という存在そのものが誰にも知られていなかったと言う事、そしてこの世界に神でないのにも関わらず神の力を扱う者がいると言う事。そして、創造神を絶対とする神の一員であるイースやエレーナが、それでも天界に対する叛意を持っていると言う事。それらの事実は、次の一つの可能性を示している」
「と言うと?どういうことだ?」
「創造神が真の意味で神でなく、ただそれを偽っている可能性。エル、あなた達はそれを知り、第一位を頂点に据える今の天界のあり方を変えようとしている。あるいは真実を探ろうとしている」
ヒカリの告げたそれは、まさしくエレーナがあの時僕に告げた目的そのものだった。真実の探求と第一位の排除。
ヒカリに見つめられ、それでも驚いて声も出ないエレーナを横目に、僕は両手を上げて参ったとばかりにため息をついた。
「ご明察だ。全く――ヒカリはすごいな。たったそれだけの情報からよくその結論にたどり着いたね」
「別に。私は可能性のある推論を口にしただけ。それが正しいという証拠もなかった。でも――」
ヒカリは視線を僕たちから外し、遠くを見るような目になって、
「仮にそれが正解なら、皮肉にも、帝国の言っていたことは間違っていなかったことになる」
「帝国?ああ、天界が偽りの支配者だって、そう言えば帝国の主張はそれだっけ。……そうだね。ま、帝国の言う事も案外正しかったかもね。――で、だったらどうするの?」
「何も。ただ私は何のために私たちが戦うのかを知りたかっただけ。真実が何であれ、あなたに従う」
「それは良かった」
ヒカリが僕らの目的を手にした今、それを天界議会にでもリークすれば、もしかしたら彼女たちの命は保証される可能性がある。しかしヒカリにはその気はないようだった。
まあリスクとリターンを考えれば僕らに協力する方が賢明か。それともただ面倒くさいだけなのかもしれないが。
しかし――、と僕はヒカリを見る。
たった今しがた超人的な頭脳でもって謎を解いて見せた彼女だったが、今も表情の見えない顔でプールの様子を眺めていた。
「……君がリーダーやった方がよかったんじゃないの?」
「面倒くさいからやだ」
「ま、君ならそう言うか」
彼女が面倒くさがりで良かったと、僕はそう思った。




