10.王都に行こう
何者かの襲撃の後、盗賊たちの死体を片付けた僕らは、その後転移でラビルまで戻り、手ごろな飯屋で昼食をとっていた。
騒がしい大衆食堂の中、僕は会話を周りに聞かれぬように張った魔法の中で、キメの粗いパンをスープに浸して口に運ぶ。
「――で、あの攻撃はソロネには脅威に感じたの?」
「いえ、そのようなことは。何故そうお思いになったのですか?」
「やけに慌てていたからさ。あの反応は、自分が僕を守り切れないと言ってるようなものでしょ」
発砲された時のソロネは、これまでに見たことがないほどに動揺していた。少なくとも、これまでの盗賊狩りでは、ソロネが慌てた様子を見せることはなかった。
「その可能性はあると思っていました。相手の攻撃は、脅威に足り得るほどの威力はありませんでしたが、その速度が問題でした。不意を突かれれば、私ですら反応できるかは怪しかった」
「でも、手でつかんでたじゃん」
「あれは、備えていたからです。攻撃の一瞬前に予兆があった。故に反応ができました」
僕が尋ねると、ソロネは一度銃弾をつかんだ方の手を眺めてそう言った。
なるほど第六感とでもいうべきか――フィジカルモンスターの天使様は、僕には分からない何かを察知していたらしい。
しかし、その並外れた感覚と身体能力をもってしても銃の相手は厳しいようだ。まあ、素手で銃弾を防ぐぐらいだから、一般成人男性が銃を持ったぐらいでソロネに勝てるとは思えないが。ヒット&アウェイに徹されたら厄介と言うことなのだろうか。
「それで――誰の攻撃なんだろうね。これは」
そう言って、僕はポケットの中に入れていた潰れた銃弾を机に出して、指でピンとはじく。弾かれた銃弾は数度頭を回転させて、開いた部分を土台にして直立した。
「申し訳ありませんが、私にも分かりません。飛んできたそれを見るに、金属の筒を弾き飛ばす魔法のように思えます。あれほどのスピードを与える魔法となるとかなり大規模のものになると思われますが、しかし、そのような魔法の発動は察知できませんでした。未知の魔法、あるいは魔道具によるものであるかと」
「……魔道具以外の武器の可能性は?」
「魔道具以外の武器?とおっしゃいますと……魔法の付加されていない剣や槍のような物、と言うことですか?失礼ですが、そのような原始的な武器ではあのような現象を起こすことは不可能かと」
「そうだよねー……」
そう、この世界に存在する武器は――あるいはそれに限らず道具すらも――多かれ少なかれ魔法の付加を受けている。下界の文明レベルは中世、天界の文明レベルであれば現代にも匹敵するほどなのにもかかわらず、現代的な銃器はおろかマスケット銃すら存在していないのだ。
これが魔法という恩恵の弊害なのか。ともかく、この世界の技術のみで銃が完成したとは考えづらい。
だとしたらこれは何なのか――
「ま、細かい事考えるのはめんどいし、いっか」
そう言って僕は机の上に立っていた銃弾をつかむ。
何にせよ、別にこの世界に銃があろうがなかろうがどうだっていい。物理力をほとんど支配の段階に置いている僕にとって、攻撃の属性が物理力のみである現代兵器全般は問題にならないからだ。
さてそれよりもこれからどうするか、だ。
クラリスさんは、襲撃は帝国が裏で糸を引いていると言っていた。謎の襲撃者が盗賊たちを殺した以上、襲撃者は帝国側である可能性が高い。わざわざ無力化されている盗賊を殺す理由なんて、口封じ以外に考えられないからだ。
謎の襲撃者を無視してこのまま村を助けて回るか、それとも一旦やめて調査に回るか。
「ソロネはどうしたらいいと思う?このまま活動を続けるか、それともやめるか」
「そうですね……。襲撃者が未知の攻撃手段を持っている以上、これ以上の活動は危険を伴います。エル様の身の安全を考えるのであれば、ここは一旦天界に戻り、護衛を増やすなり調査を待つなりする方が良いかと」
「護衛が増えるのは反対だなー。とはいえ……、そうだね。一旦天界に戻ろうか」
「それが良いかと。それで……あの、また転移ですか?」
僕の転移魔法はまだ安定していないようで、僕は大丈夫なのだが、一緒に転移するソロネは未だに酔うらしいのだ。ここラビルに来る時の転移でも、ソロネはぐったりしていた。
嫌そうに尋ねるソロネに、僕が「そうしようかな――」と少し意地悪にそう口にすると、ソロネの顔がみるみる青くなった。
「わ、分かりました。大丈夫です、私に気を使われなくても結構ですので」
「――と思ってたんだけど。どうやら天界には転移できないみたいなんだよね。だから協会にある転移陣で帰ろう」
そう、実は下界に来た初日、一仕事終えた後においしいご飯でも食べに帰るかと天界に転移しようとしたことがあったのだ。しかし、失敗。まるで壁に阻まれているかの如く、天界にたどり着くことができなかった。
転移を妨げる魔法的な防壁でもあるのだろうか、ともかく、僕の転移魔法で天界に帰ることはできない。
転移陣を使おうと、そう告げると、ソロネはほっとしたように息を吐く。
「それは良かった――じゃなかった、了解しました。では私が手配いたします」
「うん、お願――……ちょっと待って」
頼もうとして、ふと気づく。
クラリスさんはラビルの領主だ。つまり、ラビルの情報なら何でも知ることのできる立場にいる。ならば、僕がラビルの転移陣で転移したら、僕が龍神であることがクラリスさんに知れてしまうのでは?
「ね、転移陣ってさっと起動してさっと帰れる?」
「さっと?……転移陣の発動には準備が必要ですし、少し時間が必要ですが」
「なるほどね、じゃあダメだ。ラビルの転移陣からは帰れない。クラリスさんに知られてしまうからね。近くに転移陣のある町はある?」
「転移陣があるとなると……王都、でしょうか。ここからだと少し遠いですが」
王都、王都か。名前の通り王国の首都、ここからは馬車で一日程度だろうか。
時間はかかるが仕方がないだろう。
「よし、じゃあ王都に行こうか。馬車とかで行けるんだっけ?」
「はい。私が手配しましょうか?」
「いや、冒険者が借りれる馬車なんてたかが知れてるし……クラリスさんにでも頼るとするか」
大都市の領主なら、いい馬車を持ってるに違いない。




